from Japan

変えられるのは自分だけ

吉井明子 気象キャスター

▼Profile

吉井明子 AKIKO YOSHII

慶應義塾大学文学部哲学科卒業・メディアコミュニケーション研究所修了。大学卒業後、気象予報士の資格を取得。一般企業を経て、2012年より気象キャスターに転身。

現在はNHK BS1・BS4Kにて平日12時45分~、17時45分~放送の「BSニュース4K」の気象コーナーを担当。

5歳からはじめたマジックや大相撲観戦、クラシックコンサート鑑賞、料理に親しむなど、多趣味な一面も。

私らしさを楽しんで表現したい

吉川康雄 はじめまして。吉井さんは、気象予報士をされているんですよね。

吉井明子 はい。テレビの気象キャスターをしています。

私がテレビに出るようになったのは30歳を過ぎてからなので、遅めのスタートですね。日本ではお天気お姉さんというと、清楚で可愛いイメージがあるので、30歳を過ぎた自分には需要がないのではと諦めていたのですが、声とか、何か違うポイントで選んでいただいたのかなと思っています。

吉川 お天気お姉さんって、僕が住んでいるアメリカにもいます。お国柄でだいぶ違いますよね。

吉井 アメリカのキャスターの方は、ボディコンシャスな服を着て、ぐいぐい解説していますよね(笑)。

吉川 アナウンサーってカメラにまっすぐ向かう仕事だから、ものすごく自分を意識しませんか?その結果でもある“見た目” も“アティチュード”も、個人の趣味もあるけど、その人がその地域の大衆に好まれるのを意識しているでしょうから、ところによってこんなに変わるんだっていうのを興味深く見ています。 

吉井 そうですね。わたしも最初は見た目も大事にしていたのですが、気象キャスターの場合、その日じゃないとわからない天気のことを自分で原稿を書いて伝えるので、もうそれだけで精一杯という感じで……。台風の時なんて、少しでも長く準備したいと思うから、本当はお化粧もしたくないくらい(笑)。自分がどう見えているのかという余裕がないままやっているので、あとで「変だったかしら?」なんてちょっと思っちゃったりしています。

吉川 昔はお天気ニュースって、ちょっと平和な時間のイメージがあったけど、最近の天気災害は、本当にシリアスですもんね。

吉井 命に関わる時もありますから。でもやっぱりそういうところだと男性の方が……。男性は長くやっている人ばっかりなんですけど、そういう女性はあまりいませんしね。

吉川 どうしてなんでしょう?

吉井 求められているものがそれぞれの役割として違うのかなあって感じてしまいます。

吉川 キャリアはどのくらいになるんですか? 

吉井 静岡で5年、東京で2年、合わせて7年やりました。そのあと半年ちょっとお休みをいただいて、また始まりましたね。

吉川 じゃあ吉井さんもずいぶん長いじゃないですか。

吉井 本当に生活が仕事一色になってしまうので。休みも自分の好きには取れないですし、本番があればとにかくそれに出ることが一番重要になってしまうので。

天気予報ってだいたい3分間なのですが、その3分を頂点に持っていくための過ごし方をしていたので、オンとオフの切り替えも、よくわからなかったり。

吉川 変な話かもしれませんが、人気が出ないと長く出続けられないとか、いろいろなことを考えてしまうと、自分の映りはどうかなとか気になりませんか?

吉井 そういうのもありますね。例えば衣装も毎日のことなので、テレビ映りのことを考えると必ずしもすべてが自分のお気に入りというわけにはいきませんからテンションも下がることがあったりもしますが、そんな時は自分のお気に入りの香りが気持ちを和らげてくれたり……。テレビに香りは映りませんが表情が変わると思うんです。このジョーマローンのジョーマローンのミモザ&カルダモンという香りを首筋にシュッとひと吹き。体温となじむと柔らかくなって自分だけの香りに……。私のお守り的存在ですね。

吉井 それから私は自分のボディラインが悩ましくって……。体の線が出過ぎる服だとテレビ的にはよろしくないので、胸が目立たないようなダボっとした服を着たり。でもそうするとダサく感じるので、ジレンマですね。

吉川 胸が大きいことをコンプレックスに思う人もいれば、そうじゃない人もいると思うんですよ。でもそういうこととは別に、周りからの勝手な見られ方みたいなのもあってやりにくいってこと、きっとありますよね?

吉井 本当に洋服選びは大変ですし、自分の思う印象とは違って見られることもあります。でも人の考えは変えられないから、今はどう思われるかをあまり考えないようにしています。そうしたらちょっと楽になりましたね。とはいっても、おしゃれの悩みは解決できないんですけどね。例えばシンプルなTシャツにジーンズが似合う女性って憧れるんですけど、私がやるとイベントの人みたいになっちゃって(二人とも笑)。

吉川 それはそれで可愛いじゃないですか。

吉井 どの雑誌を見ても、風潮的に、大人になる程シンプルにかっこ良くみたいなのってあるでしょう。

吉川 Tシャツを着こなすのにもいろんなイメージを持てばいいんじゃないかな。

大人でクールみたいな感じだけだとそうじゃない人は似合わないって思うわけで……。でも、持って生まれたものがあるから、なりたいイメージと自分が合わないことってあると思うんですよ。

だから、マリリンモンローみたいにグラマーにTシャツを着こなすっていうのもアリかと思うけど。でも、個性の追求も周りの目がね……。

同じテレビでも芸能だと個性として出せることでも、ニュースキャスターだと報道の仕事ですから求められる印象はあると思うので、そのへんを考えつつも、私生活では自分らしくいくとか?

報道と芸能の両面を持っているのが現実のニュースキャスターさんなので難しいですよね。

吉井 そうですね。“私、何も気にしないの”みたいな感じで出ていくわけにいかないですし。

吉川 朝のニュースの内容は基本的にどの局も一緒だけど、この人の天気予報はいつも見ちゃうとか、いつも同じ人を見てホッとするみたいな、人で選んじゃうところがあるじゃないですか。

吉井 その辺はうまく自分の個性と折り合いをつけながら出来るベストをやるしかないので、考えすぎずにって思っています。それよりも、もともと美容は好きだし、おしゃれも好きだし、じゃあいいとこどりにしちゃえ!って見た目を気にする側面も含めて仕事を楽しみたいなっていうのが理想です。

自分をかえりみる時間

吉井 でもこの仕事は時間が大変で……。今は一般的な(朝起きて夜寝る)リズムなので元気ですが、真夜中の2時に起きて3時に出社というのをずっと続けていた時期があって自律神経がおかしくなってしまって。日曜の夕方になると涙が出たこともあったんです。

吉川 えー! でも、どうして涙が?

吉井 「もうイヤだ!」っていうのと悲しいのとで、夕焼けを見て情緒的になってしまっちゃったんですね。日が暮れると、「ああ、また夜中から仕事に行かなきゃ……」っていう気持ちになってしまって。

自分が憧れていた仕事で、メイクもプロの方にやっていただけて、幸せなことなのに、そういうことも何も感じられなくなって、ただ行ってやるべきことを無心で終わらせる、みたいな。いっぱいいっぱいになって、自分のバランスを保てなくて、どうすることもできなかったですね。

吉川 毎日同じ、そういう不自然な時間に、ですもんね。キツイですよね。

吉井 女性だから体のサイクルもありますし。今日は20%しか頭が働いてないな、みたいな日もあって。

でも、その後テレビに出る側じゃなく、出る人をサポートする仕事をやっていた時期もあったんです。見える角度が変わると、いろんな“キャスターとしての気づき”も出来て勉強にはなったのですが、一番は、自分が明るく楽しくしていることがスタッフにとっても自分にとっても大切なんだって気づきました。

吉川 何を目指すにしても、自分が幸せじゃないとね。

吉井 まだまだ迷いばかりですけど。

吉川 僕もずっといろいろ迷ってます。

考えたんですけどね、きっとみんな一生そのままなんですよ。一生懸命やって「なんか良くなったかな」と思っても、また迷う(笑)。

吉井 去年の半年の休養期間に、自分の中の感情の取捨選択をしようと思って。前はいやな考えが浮かぶと、そこでわざわざ考え込んで深みにはまっていたのですが、もうそこに入り込まなくていいやと。立ち止まるより行動したいなって思ったんです。ポジティブにね。

吉川 そのお休みは、実際にはどんなことをしたのですか? 久しぶりの自由な時間で自分を見つめ直すとか?

吉井 本当にその通りです。ずっと自分をかえりみる余裕もなかったので、何が好きだったかもわからなくなっていたし、メイクも好きだったのに、人から見ればどんなお化粧も同じじゃん、なんて投げやりになったりもしていたので。

吉川 そんな時に休む機会をもらえて本当によかったですね。

吉井 肌に自信がなくって……。

「年をとっていくだけで、これ以上きれいになることもないし」なんていう気分だったから、テレビ収録の3分間さえ持てばいいみたいに思っちゃってずっと覆い隠す鉄仮面みたいなメイクをしてきたのですが、「これじゃいけない!」って思って。全身潤っている女性が理想なので、まずはエステに行きました(笑)。

内側からのケアとしては、このおいしいゆず味のサプリメント“オルビス ディフェンセラ”。飲み続けていたら顔も体も肌が乾燥しにくくなるということなので続けています。

吉川 でも今日は撮影のためにメイクを落としたら、素肌、すごくキレイでしたよ。

吉井 実は吉川さんの本が好きで私のバイブルみたいに読んでいるのに、気持ち的にファンデを塗らずには出かけられなくて、つい塗りすぎちゃう。肌を見せるのが怖くて。そういうのがなかなか乗り越えられないです。

吉川 肌はファンデで隠すものって思った瞬間に、どんなにきれいな素肌も意味がなくなってしまいますもんね。スキンケアを頑張るのを続けてみて、スキンケアがうまくいって素肌がキレイなときに、少しだけお化粧を薄くして素肌を透けさせてみたら?

吉井 なるほど……。

吉川 それから素顔の自分を一生懸命に見て、自分のいいところを、どれだけ見つけるか。

吉井 私は顔のパーツにもコンプレックスがあるから……。

吉川 日本では鼻が低いとか丸いとかでコンプレックスを持っていますけど、海外では鼻が高いコンプレックスがあって、結局は高くても低くてもコンプレックス。

ないものになろうと悩むより、自分の顔を好きになる努力のほうが現実的だし気持ちよくなれるよね。顔って100人いたら全員違うわけでしょう? そんな世界に一つの自分と無条件にいつも一緒にいてくれる人って、誰だと思います?

吉井 そうか! やっぱり自分しかいないですよね。

吉川 本当の自分は自分だけしか知らないわけだから、たとえ愛してくれている親でも恋人でも、その人たちに自分に対する何かを期待しても、なんかちょっと違う時ってあると思うし。

吉井 結局は自分で自分を大切に出来て好きになれるようにならないと……。自分に向き合ってみようかなっていうのがその半年間でしたね。その半年間があったことで、今は昼と夕方の2回の生放送があり、忙しい毎日ではありますが、前ほど苦しくなくメイクや服装にも前向きにチャレンジしながらプラスに考えられるようになりました。

 

上手に透けさせたい

吉川 先ほど、ファンデーションを塗りすぎちゃうという話がありましたが。

吉井 はい。色むらがあると隠しちゃえ!と思ってどんどん塗っちゃうんです。

吉川 隠していいと思いますよ。でも、できるだけ顔の色と質感がボディの色と質感と同じになるようにしてほしい。

厚化粧に見えるファンデって、たとえ色を合わせても質感が体と全然違うんですよ。デコルテには粉っぽさが全然ないのに顔だけ粉っぽいから厚化粧に見えちゃう。粉が絶対見えないというのじゃないと塗っちゃダメなんですよ。そういうのって色が合うとファンデそのものが見えなくなっちゃうから、素肌に見える。僕がメイクするときは、塗れているかどうかは見ていなくて、赤みが消えて、顔と首の色がつながってきているかを見ているんです。

吉井 じゃあ、塗ってもいいんですね。でも何かを隠せるとそれだけで安心して、ファンデが見えても気にならなかったけど、そうじゃなくって、ファンデ見えていないよね、を目指すということですね。

吉川 隠しても何もつけてないように見えて透けて見えているような感じがいいなと思うんです。“キレイにメイクする”じゃなくって、その人がキレイに見えるメイク。

吉井 去年、旅先で見つけたこのイブサンローランのリップスティック、ルージュヴォリュプテシャインコレクターNo.15は、わたしの顔がふわっと明るくなったので選んだのですが、自分にしっくりくる感じってそこに通じるんでしょうね。

吉川さんは、たくさんの女性をメイクされていますが、その方のキレイをどう表現しているんですか? 

吉川 日常のメイクなら、ニュースキャスターの人もそうかもしれないけれど、メイクでデキる感じとか色っぽい感じをガチガチに作りこむんじゃなくって、もともと持っているものに沿ったその人らしい魅力を作れたらいいですよね。

吉井 確かに。TPOに合わせる感覚でつい行きすぎちゃうのかもしれないです。でも結局そういういろんなものって、作っても透けて見えちゃうんですよね。

だからやっぱりきっと、メイクに頼りすぎないためには、その前に自分をポジティブに受け入れるようにしてないとダメなんでしょうね。

当たり前のようだけど、こういう仕事をしているとついそこから外れてしまいがちなので、常に思っていきたいです。そうしたらもっと自分の表情で楽しく表現できそうだし。

 

Photos / Interview : Yasuo Yoshikawa

Text : Tomomi Suzuki

 

取材を終えて

After the interview

吉井さんの、小さな女の子のように好奇心に溢れてキラキラ輝く表情がとても印象的でした。

きっと興味のあることに集中して入り込んだり、ちょっといきすぎて疲れちゃったり。

いろんなアップダウンの感情を感じるから、すごく楽しそうだなって思ったんです。

僕も同じ感じで大変だったけど、だから楽しかったので、それとちょっと重なって……。

気がついたらあっという間の数時間、女子同志みたいに盛り上がり、もっと話したいような気分に……。

友達みたいな取材になっちゃって、楽しかったですね! 応援しています。

 

吉川康雄