人種のるつぼマレーシアで過ごした子供時代
吉川康雄 めいりんさんとお会いするのは今日が初めてなので、ご自身のことを教えていただけますか?
小暮めいりん 日本生まれですが父がマレーシアで、幼少期をマレーシアで数年間過ごしました。マレーシアって、中華系、インド系、マレー系がいる多民族多宗教国家なんですけど、その時代の経験が私のベースになっていますね。
吉川 違う人たちを見るのって、すごくいいことですよね。単一民族国家の日本にはない部分。
小暮 隣に住んでいたインド人の子と仲がよくて、6歳から8歳ぐらいまでは、インド料理食べてインド映画見て、インドダンス習って、ほぼインド人の生活をしてました。
吉川 めいりんという名前は本名?
小暮 本名です。自己紹介で名前を言うと、自分で「りん」てつけてしまったイタイ人に思われがちなんですけど(笑)。知り合って1年ぐらい経って「本名だったの?」って驚かれたことも。
吉川 その方、ずっと長い間勘違いされていたんですね。お仕事はどんなことをされているんですか?
小暮 もともと言葉を使った仕事がしたくて、コピーライターかミュージシャンになりたかったんです。大学時代は中国で陶芸の勉強をしていたんですけど、帰国後「日本デザインセンター」に就職してコピーライターになりました。その後ミュージシャンになろうと思って、3枚ほどCDを出しましたけで、食べれなくなったので、広告代理店に再就職しました。
吉川 すごく多才でクリエーティブな活動ですね。
小暮 ただ代理店はやめて、最近上海で自転車屋さんを始めました。
吉川 ええ? 人生の中で大きな決断! 自転車が好きなんですか?
小暮 自転車を中心としたライフスタイルを展開するスタートアップに就職しました。中国各所で色々展開していくらしいので、上海の立ち上げから参加することにしました。日本人て、慎重なところがあるから、いろんなマイナス要素も考えながら入るんですけど、あちらは取り敢えずやってみよう精神なので、そういうところも私の性に合ってると思い飛び込んでみました。
吉川 僕がブランド立ち上げたときも、中国から直接売り込みの連絡が来ました。中国の人って、そういう積極性がありますよね。
上海には行ったことないけど、どんな感じですか?
小暮 面白いですよ。めちゃめちゃお洒落ですし。
吉川 街の写真とか見ているとすごくモダンな感じになっていてエネルギーを感じます。人生は一度きりだから、自分の感じたことをやれたらいいですよね。
小暮 守るものもないんで、自分が楽しいことやろうと思って(笑)。
吉川 大きな決断だと思うけど、自分の考えを大切に思っていないと、なかなかそういう風に出来ないですよね。
小暮 個人的にはそれほど大きな決断とも思ってないんですけどね。一昨年、仕事で中国の広州に3年間赴任していたんですけど、中国ってエネルギーあるな、面白そう!そんな感じで決めちゃいました。
吉川 今の自分の生活を変えることに「YES」をしたんだね。
小暮 たぶん、騙し騙しやることはできるんですけど、自分に嘘をつくとすり減っていくような気がするので。
吉川 その場を丸く収めるためとか、色々な理由で思ったことことを人に対して言えないこともあるけど、自分に嘘つくのはダメだよね。でも、めいりんさんの生き方って強いですね。
小暮 強いというか必然的に、波乱万丈になっちゃうんですけどね(笑)。
40歳でシフトチェンジ。上海へ
吉川 僕の場合、昔は「あのカメラマンと仕事したい」とかずっと思い続けていたけど、最近はそこにも意味を見い出せなくて。今は自分の思いで作ったブランド(UNMIX)のための撮影に没頭しています。
小暮 それで生きていけたら最高ですよね。
吉川 UNMIXが世間から必要とされているのか? 見極めようと思っています。もし必要とされていないなら、無理して存続させる意味ってないなって。80年代や90年代のバブル期って、宣伝の力って圧倒的で、ものすごく魅力的なコピーを使って人を集めて、商品を買わせていたけど、それって本当に世の中が必要としているものなの?って今考えると疑問なんだよね。良いものを宣伝する必要は今でもあるけど、世の中に必要とされるかどうかをこれからはもっと軸にすべきじゃないかと。
小暮 すごくわかります! 私が今回転職したのは、それが大きくて。中国では車の広告を担当していたんです。車って、半年に1回ぐらいマイナーチェンジするんですけど、個人的には、車って1台買ったら当分いらないでしょ?と思うんです。仕事としては、新しく変わった部分に対して何かしらのアプローチを考えて、商品の良さが見えるお手伝いをする、そのことに少々限界を感じてしまって……。仕事としては好きだけれど、自分の本質とは違うかなと。
吉川 世の中が必要としているものとか、誰かが幸せになるためのものじゃないかぎり、僕がビジネスを始める意味はないって思います。
小暮 もう40歳になったし、本当に自分がいいと思うもの、社会貢献というと壮大になりますけど、自分の考えと矛盾しないものがやりたくなりました。
吉川 そういう必要とされるもの、今、いっぱいあるように感じます。
小暮 今の中国って、日本のバブル期みたいにすごく盛り上がっていて、車って大きな市場なんです。でも何十年後かを考えたときに、全員車を持ったら大変なことになるし、車を所有するのはいいけれど「車で行くところに自転車で行ってみよう」とか、もう一度自転車を楽しもうという発信をしていきたいんです。昔の中国といえば、自転車のイメージがあるじゃないですか?
吉川 確かにある。僕はANAが初めて北京に就航した1987年に行ったけど、隣の国なのに、それまで行ったどの国よりもエキゾチックな場所でしたね。大勢の人が自転車に乗って、ふわーっとしてて。
小暮 中国といえばそのイメージでしたよね。でも今はそうではなくなっているので、もちろん地球環境について考えてもらうという重たい課題はさておき、もう一度自転車を楽しむムーブメントを起こせないかなって。
吉川 結びつくよね。こういう時代だと都会で仕事する必要もないから。日本も含めて、都会だけに集中するんじゃなくて、田舎に住むというライフスタイルもあると思うんだよね。
小暮 暮らし方がどんどん変わっていきますよね。今までの常識が常識じゃなくなっていく。
吉川 コロナが明けたらリモートワークをやめて、コロナ前の勤務形態に戻す会社もあるみたいだけど、そんな簡単に戻していいのかな?って思う。いいところも沢山あるのに。
小暮 以前から是正しようとしていても出来なかった一極集中が、コロナで少しずつ分散に向かい始めたのに、またこれを戻してしまったら元の木阿弥ですよね。
吉川 第一線の企業が先頭に立ってやるべき努力だろうし、それが出来なければ将来的に大丈夫?って思うよね。
タレ目も童顔も、これが自分
吉川 めいりんさんのほっぺ、ちょっと赤くて可愛いですね。タレ目もチャーミング。
小暮 子供の頃はタレ目が嫌で、男子にからかわれたりしてたので、なんとか吊り目にしたくてセロハンテープ貼ったりとか(笑)。
吉川 子供って残酷なことを平気で言いますもんね。タレ目はいつからOKになりました? 自分で受け入れたのか、誰かに何か言われたのか。
小暮 高校生ぐらいの時にようやく受け入れましたね。垂れ目でよかったことはないですけど、すごく話し掛けやすいみたいで、しょっちゅう道を聞かれます。外国に行っても聞かれるくらい(笑)。
吉川 僕もめいりんさんだとお話ししやすい感じがします。
先ほど「もう40歳になったし」とおっしゃってましたけど、見えないですよね。
小暮 今でこそ童顔と言われるのですが、25、6歳ぐらいまでは、実年齢よりも上に見られていたんです。
吉川 若い時、年上に見られるのはどんな気持ちでした?
小暮 嫌でしたね。小学生なのに中学生に疑われたり。でも今は逆に若く見られるので弊害もあったり。中国でクリエイティブディレクターをしていたときに、立場上色々決める“偉い人”なんですが、全くそう見られなくて(笑)
吉川 僕も仕事先で紹介される時に、「吉川さん、こんな風に見えますけどメイクは上手なんです」ってよく言われました。一体どんな風に見えてるんだよって(笑)。
でも、めいりんさんの魅力はそこに感じるから大切にって思う。偉く見えないとどんどん話しかけられるから、そこはいいところかもしれないし。メイクで無理に偉い感じに変身なんてしなくていいと思うな。
小暮 普段はノーメイクで、よっぽど重要なプレゼンがある時にはメイクしますけど。誰かに見せるためというよりも、気合いを入れるためにメイクしますね。
吉川 撮影とかで色んな人がメイクするの見て、あんな風にやってみようとは思わない?
小暮 あまり思わないですね。THEメイクしてる!とかも恥ずかしくて。私、化粧品売り場が苦手なんです。あそこにいるお姉さん達ってすごく完成されているから、ノーメイクの私が歩いちゃいけない気がして、なるべく近寄らないようにしています。ただ今日はメイクをしていただいて、すごくテンションが上がりました。このあと、誰かに会いたいような、見せびらかしたい気分です。そういう意味でやっぱりメイクって魔力があるのだと思います。
愛すべきガラクタに囲まれて
吉川 では、今日お持ち頂いた愛用品を見せてもらえますか?
小暮 ずっと愛用しているのが、「ディセンシア」のディセンシー エッセンスです。合わない化粧品を使うと吹き出物が出たりしますけど、これは大丈夫。私、肌を作るうえで大切なのは食事や睡眠という考えなので、化粧品にはあまり期待していなくて。現状キープのためというか、今よりも悪くならないようにするために使っていますね。
吉川 僕もそれに近い考えです。スキンケアってある意味、革靴のお手入れと共通してることって多いと思うんです。奇跡のような結果を目指さないで、生き物として時間と共に変化していく過程を受け入れてあげつつ、肌が本来あるべき心地よい状態にしてあげ、健康な生活を心がけることで、その時その時の最高の自分を楽しんでいくこと。化粧品を作っていた僕がこんなことを言うと驚かれるんだけど。
小暮 ハンドクリームをよく使うんですけど、「NARA-ROMA」は友人が立ち上げたブランドで、福島県楢葉町の特産品の柚子を活用したアロマアイテムを作っているんです。この「No_1 YUZU <アロマバーム>」は香りがいいのでいつも持ち歩いています。もうひとつは、台湾の「阿原YUAN」というブランドの月桃ハンドクリーム。
吉川 これは何ですか?
小暮 メキシコのおばあちゃんが作った、多分ふくろうだと思うんですけど、こういうものが家にいっぱいあって(笑)。キャラクター的なものが好きで、役に立たないものとか、使えないものが家にたくさんあります。
吉川 こちらの不思議な形のものは?
小暮 私が作った手乗りぐも(雲)です。愛でるだけですけど
吉川 面白い! いいですよこれ、最高(笑)。なんの意味もないものを……素敵だなあ。自分で考えたの?
小暮 はい。100個ぐらい作ったんです。
吉川 これはラッキー人魚?
小暮 これもメキシコで買ったもので、家のあちこちにこういう物がぶら下がってます。
小暮 あとこの石は、私にとって家宝みたいなもので、ジョージア(旧グルジア)という国で荒野を歩いていた時に出会ったミハエルというお爺さんに貰ったんです。幻のような出来事だったので、たまに握って「あ、ミハエル……」って思い出すだけなんですけど。
吉川 どんな体験だったの?
小暮 誰一人いない荒野を友達と2人で5時間ぐらい歩いてて、「日が暮れちゃうね」って話をしてたら、急にどこかから声がしたんです。そら耳かと思ったらまた声がして「こんなところに人がいるわけないよね」って言ってたら、ミハエルがひょっこり現れて。
吉川 アーティストって感じ?
小暮 世捨て人という感じかな。彼は崖の上にある洞窟を掘ったほら穴に一人で住んでいるんです。で、そこに一匹いるネズミがお友達という。ちょっと話がおかしいんですけど(笑)。家の周りに綺麗な石がたくさんあって、これは彼が最後にくれた石なので、今でも大切に持っています。たまに握っては「あれは本当だったのかな?」ってぼんやり考えたり。
吉川 不思議な話だなあ。
小暮 ですよね(笑)。だからこの石は私にとって特別な存在で、宝物なんです。
Photos / Interview : Yasuo Yoshikawa
Coordinate / Edit:Maki Kunikata
Text : Tomomi Suzuki