from Japan

ウェルネスな時代へ

山岸祐加子 『Glossy Japan』編集長

▼Profile

山岸祐加子 YUKAKO YAMAGISHI

広告代理店から『25ans』編集部へ。日本の女性向けウェブメディアの草分け『cafeglobe(カフェグローブ)』(現MASHING UP)で副編集長を担当したのち、コンデナスト・ジャパンにて『VOGUE JAPAN』のウェブ・エディター、プロデューサーとして活躍。2017年、(株)メディアジーンに入社し『MYLOHAS』編集長、2020年よりビューティ・ファッション・ウェルネス業界の最新動向を配信する『Glossy Japan』編集長に就任。2021年8月からは、Glossy Japanの会員制コンテンツ『Glossy+』もスタートした。

『Glossy Japan』公式インスタグラム:https://www.instagram.com/glossy_japan/
『Glossy+』:https://digiday.jp/category/glossy/

ひとりひとりが個性を発揮する時代へ

吉川康雄 山岸さんは雑誌編集とWEB編集、どちらのキャリアもお持ちなんですね。

山岸祐加子 はい。『25ans』を辞めたのち、『cafeglobe(カフェグローブ)』という女性向けのウェブメディアを立ち上げるという話があって。その頃はwebメディアの黎明期ですよね。編集者が集まって、雑誌のような感覚でWEBサイトを作っていました。

吉川 まだ試行錯誤の時代ですね。

山岸 最近は、紙媒体もWEBも一つのメディアとして考える流れがあります。それから今は、動画だったりポッドキャストだったり、表現のバリエーションがすごく増えている。今は、編集者も人前で話すことも求められている時代になっていると感じます。

吉川 昔は表に出ている人でも見せたくないものは全部隠せたけれど、今はこの人がどんな声何を話して考えているのか、さらけ出されてしまって、逃げ道がなくなっている気がします。

山岸 自分を表現することから逃げられないですよね。個性を発揮しないといけないし、今後は自分を持っている人が強くなるんだろうなと感じます。社会を変えていこうという壮大なテーマを掲げているメディアも増えてきましたし。

吉川 壮大なもの多いですよね。僕のブランド「UNMIX」もだけど(笑)。

山岸 そういう時代になったのかな。未来が危ういことを察知して、みんながそう言うことを考え始めたというか。

吉川 今までのいろんなことの辻褄が合わなくなってきたのかもしれない。

山岸 これからのメディアの役割はさらに変わっていくのかもしれません。海外の情報を入手し、日本との差を感じる人も多くなると思います。 

これからの物づくりで大切なのは熱量

山岸 アメリカでは自社で企画・製造した商品を消費者にダイレクトに販売するD2Cが定着してきていて。小さいブランドゆえ、顧客の要望に素早く対応できるメリットもあるんですよね。最近、その流れが日本にもようやく来ているのを感じます。物づくりも「こうしたいから、こういうモノができた」とか、熱量から始まることが増えているなって。

吉川 僕も今やっている活動を通して消費者との距離が近くなっていると感じます。例えば昔のコピーライターという仕事が全盛だった頃は、言葉とイメージを打ち出すだけでものをってきたから、心に刺さる言葉をどーんと打ち出して惹きつけるというのはそのあともずっと続きましたよね。

山岸 確かにそうかもしれません。いまD2Cブランドを立ち上げている若い起業家をゲストにインスタライブをやっているのですが、健康的な最近は、健康的なライフスタイルを送ってほしいという目的で、CBDクリームを作っていたり、栄養バランスを考えたプロテインを作っている人がいたり。

どちらもヘルシーなライフスタイルをサポートしたいという熱量から生まれているんですよね。その熱が伝わるか否かで、ビジネスが成功するかどうかも決まると思います。

100%合法の化学合成CBD製品を展開する「WALALA(ワララ)」のCBD エンリッチセラムCBD ポイントクリームを愛用。「顔の乾燥はもちろん、筋肉痛の対策に使ったりすることも」(山岸さん)

吉川 テレビで見たんですけど、人の体温で溶けプラスチックっていうのを開発して、溶けると手の形になって、冷えると固まるんですって。それって何かを作る目的で開発したわけじゃなくて、面白いから開発したらしいんだけど、それが怪我した時のギプスに使えるとか、いろんな需要が生まれている。そういうふうに、最初に発明があって、そこから何か役に立つものが出来上がって、それを世の中の人に伝えるというのが基本なんだと思う。そうすると刺す言葉の必要性よりも出来るだけちゃんと伝えるということの方が大切になる感じがします。

山岸 同感です。

吉川 でも世の中では、ほとんど同じものなのに毎年リニューアルして、あたかも新しいもののように売っているものも結構ありますよねその影で多くの無駄も出ると思うし、売る工夫って大切だとは思うけど……。目の前の数字が上ったとしても、無駄を差し引くと結局大したものにはなっていなかったり…。

山岸 行き詰まりが出てきていますよね。シーズンごとに商品を展開することは大変ですよね。

吉川 世の中の人をこういった商法で「新しいもの好き」にさせていくことって、今よく使われるサステナビリティーって言葉とすごく距離を感じます。

山岸 少し話が逸れますけど、美容もボーダレスになっているなと思います。『Glossy Japan』のインスタライブに出てもらったクリエイティブディレクターのエド・オリバーくんは、もっと自由に自分を表現することを広めていこうとしていて、ナチュラルメイクからドラッグクイーンメイクなどを楽しんでいます。

吉川 生まれはどこの方なんですか?

山岸 メキシコ生まれのカナダ育ちです。彼は自分のアイデンティティをとても大切にしていて、そういうことを言える環境が日本にはまだないからこそ、日本でやる意味があると。今の若い世代は、とても柔軟に物事を考えられるので、ボーダーがないんですよね。そういう人たちが増えていくと、社会の意識も変わっていくのかなと思います。

吉川 きっと、生きてきて自分で感じたことをメッセージにしているんでしょうね。昔だと年寄り世代が「今の若いもんは」って簡単に切り捨てちゃいがちだけど、若い人たちって今の時代に育っているから聞くべきとがいっぱいあると思うんですよ良くも悪くも日本には目上の人に対するリスペクトっていう文化があるけど、だからこそ目上の人たちもそういう言葉をちゃんと聞くことが大事だと思うし、そうなれば、大切なことはもっとスムースに広まっていきますよね。

山岸 かたや迷っている人も多いと思うので、話やすい、相談しやすい環境になっていくといいですよね。

常にベストな自分でいるための愛用品

吉川 先ほどCBDクリームを見せていただきましたけど、そのほかの愛用品も教えていただけますか?

(左から)ザ・トリートメント ローションハイドレート R クリームC オイルエッセンス。「ミルキーでとろみのあるローションはとても使い心地がよく、この3品のほか、とろけるテクスチャーが特徴の新製品のクレンジングも愛用中」(山岸さん)

山岸 これは「UNNATURALLY NATURAL(アンナチュラリーナチュラル)」というヴィーガン対応のスキンケアブランド。本当に肌にいい成分を使用し、環境にも配慮したクリーンビューティのコスメで、最近気に入っています。

山岸 こちらは、味の素のスキンケアブランド「JINO(ジーノ)」のクリーム。年齢とともに目元が気になってきたので、2種類のクリームをミックスして使っています。

山岸 ビタミンやミネラルなどのサプリや漢方など飲んでいます。これはキノコの菌糸体を培養し、抽出した機能性食品のAHCC®のサプリで毎日飲んでます。

もっと自分を大切にしていきたい

山岸 今回の取材を受ける前に、過去のunmixloveのインタビュー記事を拝見して、やりたいことに邁進されている方って素敵だなと思いました。私は周りから見ると、雑誌もやってwebもやって華やかな世界にいるように見えると思うんですけど、ずっと悩み続けている自分もいて。

吉川 どんなことに?

山岸 長い間、いろいろな壁に打ち当たり悩んでいる自分と戦っているイメージです。

吉川 迷いとか?

山岸 迷いもあります。自分はこの道でいいのかとか。雑誌、WEBの編集も楽しかったのですが、初めて挑戦することも多く。どうやら私は大変な道を選びがちなようで、日記を読み返すと、また同じこと書いてるじゃん!て(笑)。

吉川 日記、書くんですね。人って結構忘れたいことを忘れるから、日記って忘れないためにいいなって思います。後で見ると自分を客観的に見れるし。

山岸 時々書いています。『MYLOHAS』 をやっていた頃、取材していく中で、書くことで心を整えることができるということも学んだので、書いて整理することを心がけています。それこそ前職時代は会社にずっといるような生活をしていましたし。

吉川 会社に住んでいたんですね。仕事って面白いって感じるとどんどんやっちゃうけど、そういう人には無限に集まってきて、それに体が慣れちゃうと、いつか大変なことに……。

山岸 本当にそうだったと思います。そんなときに家族の介護が始まり、そういう場面と向き合うと、人は歳を重ねていくとき、いかに元気な状態でいられるかが重要だと考えるようになりました。

吉川 『MYLOHAS』に移ってから生活は変わりました?

山岸 変わりました。媒体がヘルスケアに特化していたので、体への意識が変わりましたし、睡眠の重要性をあらためて気づき、自分を大切にするようになりました。
今は家族のケアのこともあり、自分は仕事をやりこなしていけるのだろうかと思うときもありまして。

九段下の指圧治療院「Rock Space」の岩間先生が作ったカッサを愛用。先端でツボ押ししたり、側面を使ってコリを流すこともできる。

吉川 それは自分自身ですか? それとも仕事のチームに対して?

山岸 まずは自分が楽しく、と思っています。やらねばモードだったのですが、もう少し楽しんでやろうと思うようになりました。

吉川 今、編集長をされている『Glossy Japan』は、その前のヘルスケアの編集とは分野が違うと思いますけど、そのことに対する戸惑いはありますか?

山岸 ファッション業界の中でもヘルスケアに対する意識が高い人が増えてきたり、環境問題への意識が高まってきて、今後ファッション、ビューティへの概念にも変化のときがきていると思い始めていました。

吉川 仕事に向き合ってきた中での自然な自分の中での変化ということでしょうか?

山岸 はい、雑誌が作りたい、いいものを作りたいという思いで仕事をしてきましたけど、だんだんと自分の周りの人がよりよくなるために自分は何ができるのか?と思うようになってきた気がしますね。

吉川 僕も職業は違いますが、近いことを感じます。

山岸 いま『Glossy Japan』では、若い世代のビジネスに着目し、未来を担う世代をサポートしていきたいと思っているのと同時に、業界の未来のためにヒントになるようなことをお届けしたいと思っています。今後若い世代と企業の橋渡しもしていきたいですね。

吉川 もっと外にエネルギーが向かっているんですね。

山岸 確かに意識は周りに向いているかもしれません。あと個人的にはもう少しマインドに関する勉強もしてみたいなと思ったり。

吉川 マインド系というのは、自分自身がそういうものを感じるからですか?

山岸 周りを意識するとき、ベースは自分がまず楽しもうと。でも家族のケアなどもあり、やらねばマインドでいくと限界があふれちゃうなと。

吉川 僕が若い頃を思うと、課せられていることも少なかったせいか、自分一人で頑張ったらできることが多かった。でも親の介護子供の世話、全部合わせたら一人で抱えるのって無理があるでしょう。周りの力を借りるのって大事ですよね。

山岸 頼りすぎてもいけないですけど、自分のやりたいことを犠牲にするわけではなく、それはやりつつも、いかに両方のバランスを上手く取っていくかが課題ですね。

Photos / Interview : Yasuo Yoshikawa

Coordinate / EditMaki Kunikata

Text : Tomomi Suzuki

取材を終えて

After the interview

テクノロジーや自然環境がこんなに急激に変化したことって今まであるでしょうか?
こんな時代に雑誌、メディアの編集というお仕事をしてきた山岸編集長のキャリアは、もちろん時代と一緒に変化し続けて……、翻弄されて、何かを見失っても良さそうなのに。
ピュア感いっぱいの笑顔で語るのを聞いていると、目の前の変化や自分の中の変化も受け入れて楽しんでいるのを感じます。
子供が見たこともないものを見た時のあの表情や笑顔。
僕の撮った写真にたくさん見つかりました。
今までの、時代を確信して作り上げていくメディアとは全く逆の今を山岸さんから感じました。

吉川康雄