自分で変えられないことに固執しない
吉川康雄 どのくらい外国にいらしたんですか?
Amina 私は父がマレーシア人、母が日本人なんですけど、小学校5年生の時に移住したタンザニアを皮切りに、大学卒業までをほぼ海外で過ごしました。日本の大学で修士号を取ったあと、ロンドンの大学で博士号を取って、日本に帰ってきたのが3年前です。
吉川 人生の半分以上を海外で過ごしたんですね。
Amina ずっと日本人がほぼいない学校にいたので、10歳でアフリカに行った時は、毎朝鏡を見て「私はアジア人なんだな」と思っていたんですよね。
吉川 周りの風景や人と自分のルックが合ってないみたいな感じ?
Amina ええ。だからぺったんこの顔がコンプレックスだったんです。それがイギリスの全寮制の高校に行ったら、結構モテたんですよ。その時に周りから言われたのが「亜美奈はアジア人だから羨ましい」って。17、18歳の頃って、自分とまったく違う容姿の人に惹かれるんですよね。あと、その時に気が付いたのは、私が見ている私と、外の人から見た私は全然違うということ。それはコントロールしようがないことだから、周りからどう見られるかを考えても仕方がないんだと思ったんです。
吉川 僕の娘が通っていたセラピーの先生も同じことを言っていました。「他人がどう思うかは絶対にコントロールできない。だから何かあった時にできることは、他人を変えることじゃなくて自分がそれに対してどうフレキシブルに対応するか」だって。他人からどう思われたいとかを考えても健康によくないしね。
Amina 私は他人が自分のことどう思うかって、ほぼ考えたことがないかも。
吉川 社会にはその中でしか通用しない、ものすごくたくさんの“当たり前”とか“常識”とかがあるじゃないですか。そうすると“当たり前じゃない”とか“非常識”とかがすごく気になっちゃうから人と自分を比べやすいんだよね。だけど一歩、外に出ると、まったく違うことを突きつけられるから。
Amina 私の場合、自分のコントロールが及ばないところで自分を判断されることは、小さい頃からあったんです。アフリカで私が一人でアイスクリーム屋さんに行っても、買わせてくれなかったり。
吉川 僕もアメリカで同じような経験をしたな。ある雑誌のエディターが、目の前にいる僕をいないかのように振る舞うんだよね。日本ではそんな経験したことないからどういうことか全然わからずに一生懸命話しかけたりしたんだけど、そういうことを僕だけじゃ無く“ある特定の人たち”にやっているんだって後で知って……。そういう人たちはそういう風に育ってしまってるから仕方がないことなんだなっていうところにたどり着いて気が楽になりました。
Amina 前に付き合ってた彼がいて、その人は黒人だったんです。結婚を考えるくらい好きだったんですけど、最終的に別れた理由が、彼に「僕は自分の子どもの母親は黒人でいて欲しい。黒人女性として生きる現実をあなたはわからないから」って言われて。それはもう一生変えられないことだから、そういうことで悩んでいても仕方がないなと。仕事に関しても、相手からどういう評価を受けるかは気にしない。評価基準は自分の中にしかないと思ってやってきました。
フェムテックと出会い起業を決意
吉川 それだけ海外生活が長いと、日本に戻ってきた時に相当なギャップを感じませんでしたか?
Amina 日本で育った人が海外に留学して帰ってくると、きっとギャップを感じると思うんですね。でも私の場合は、日本で育った期間がとても短いから、そういうものだと思ってました。もちろん戻ってきた時に、周りの常識に上手くマッチしていないなというのは感じていました。「空気読めないですね」とか言われたり(笑)。でも空気を読まないからこそ進められることや、発言できる部分もあると思うので、「私、帰国子女で、日本の常識よくわかってなくてすみません!」とか、なんだかんだ言いながらやってきた感じです。
吉川 なぜこの会社を始めようと思ったんですか?
Amina もともとシンクタンクに勤務していて、厚生労働省とやりとりする仕事だったんですけど、刺激がないなと思っていて。アカデミアとか政策の世界にいたので、そこから一番遠い世界に行きたかったのかもしれません。そんなタイミングで、スタートアップ企業を支援する投資会社を経営する孫泰蔵さんと知り合ったんです。ビジネスに興味があったので面白そうだなと思って「泰蔵さんのところで働きたいです!」と直談判したら、いいね!してくれたので、すぐに仕事を辞めて彼の会社で働き始めました。
吉川 すごい行動力!
Amina 私は医療制度の知識があったので、ヘルスケアのスタートアップ案件に関わることが多かったのですが、ある時アメリカからの案件で、女性ホルモンを自分で測れる機器に出会ったんです。AMH(アンチミューラリアンホルモン)というものの量を測ると、自分に残っている卵胞の数がわかるんですけど、今までは病院に行かないと測れなかったものが自宅で測れる。「これは面白い! 絶対に ニーズがある」と直感しました。
吉川 従業員はどのくらいいるんですか?
Amina シンガポールにも支社があって、全体では業務委託の方も入れて23人ぐらい。副業もOKにしています。外で自分の好きなことをして、それでもfermata(フェルマータ)を選んでくれたら嬉しいですし、外から入ってくる刺激もすごく多いんですよね。
吉川 23人もいるんだ、大きいですね。
Amina フェムテックの会社というと、女性しかいないんですか?と言われることもありますが、もちろん生物学的男性のスタッフもいます。国籍もセクシャリティも様々ですし、もちろんそれを開示していない人もいる。相手を否定するっていうカルチャーはないですね。
吉川 素晴らしい。こういう会社がこれからもっと増えたらいいのにね。
Amina 起業してすぐにコロナ禍にまきこまれましたが、ピンチをチャンスを変えるべく頑張っています。ありがたいことに次第にフェムテックに関心を持ってくださる方も増え、追い風は吹いているなと。社会が成熟し、変革しつつあるなと感じています。あとこれは吉川さんの美容哲学にも通じると思いますけど、女性たちが“自分らしくありたい”と望んでいるんだなって。理想ではなくて、自分らしくあることを大切にしようという機運を感じます。
吉川 しかもこれはトレンドではなくて、定着していくものだと思います。
体を知るのはワクワクすること
Amina fermataが伝えたいのは「まず自分の心と体を知ろう、自分がどこに立っているのかを知ろう」ということ。自分と向き合うことは、最初は心理的にハードルがあるかもしれないけれど、いざ飛び込んでみるとワクワクするような体験だったりするじゃないですか。
吉川 全ての人が個性的で魅力的だと思うけど、それをなかなか信じにくいいろんな常識がちょっと残念ですよね。
Amina 違いを認識して、いいねって言い合えたらいいですよね。
吉川 それはジェンダーについても一緒だと思います。「平等を求めるなら男並みに働け」というのではなく、身体的なちがいを考慮した上で社会全体のルールをつくるべきですよね。
Amina 生物学的女性と男性では身体の仕組みが違うから、同じような働き方ができるわけがないですし。
吉川 体も機能も違うからこそどっちも同じようにかけがえも無く大切という考えが社会の中でもっと染みてほしいなって思います。だって生まれ持った性別も、姿かたちも年齢も肯定しないと、人生楽しく生きていけないじゃないですか。
せっかくなので、fermataで扱っている商品を紹介していただけますか。
Amina fermataでは色々な吸水ショーツを扱っていますが、これは日本初の吸水ショーツブランドとして2018年に誕生した「Period.」のもの。履き心地の良さに定評があって、デザインも可愛いんですよ。私はこのハイウエストのタイプが気持ちよくて使っています。
右にあるのは韓国の「EVE」というブランドの月経カップ。折りたたんで膣内に挿入し、経血をためて使用します。月経カップを使うと自分の経血量がわかりますし、経血が空気に触れないから匂いも気になりにくいんです。初心者の方は取り出すためのステムが長めのものを選ぶと出し入れしやすいのでオススメです。
左のボトルはEVEのデリケートゾーン用のソープ(※現在は販売終了)。体の肌とデリケートゾーンはph値が違うので、デリケートゾーンを普通のボディソープや石鹸で洗うと刺激が強すぎてしまうんです。かゆみを感じた時や生理中はもちろん、デイリーに使って欲しいですね。
女性も男性も生きやすい世界に
Amina 今回吉川さんにメイクして頂いて思ったのが、メイクという身近なものを通じて「自分らしい美しさってなんだろう?」と考えるようになれば、それが体のことを考えるきっかけにもなるんじゃないかなって。
吉川 確かに。杉本さんのメッセージって僕がやっている「UNMIX」と同じところを向いていると思います。どちらも女性を生きやすくすることを目指している。僕たちコラボレーションしたらいいのかも!
Amina 是非やりましょう! 自分の体を知ることに対して抵抗感やタブー意識のある方は多いのですが、美しくなりたいという気持ちはすべての女性が持っているはず。だから美容から入って自分の体のことも知ろうという流れは、スムーズに受け止めてもらいやすんじゃないかと思います。
吉川 美容って、自分のことを知る大きな入り口になるって僕は思っていて……。例えば年齢を重ねるごとに、その時の自分の個性を受け止めて、自分らしい魅力って何だろうって考えられたら、そんな美容は一生のクリエイティブなライフワークになると思うし、ポジティブに生きていくためのモチベーションになるじゃないですか。
Amina 年齢を重ねてもファッションもセルフケアも自分に合ったように変えていけるといいですね。
吉川 今までの美容って、「みんなこうなりましょう」みたいなポジティブな言い回しで伝えてはいたけれど、それって「あなたのここはダメ」と否定しているようなもの。それぞれ違う容姿に生まれてきているのだからそれを肯定したいな。
Amina この人すてきだなっていうタレントの方がいたとしても、全く同じ顔にはなれないですしね。
吉川 自分がもともと持っている骨格の良さを生かした方がクオリティが上がる。あと僕はいつの日かみんなが「目が大きくなりたい」と言わない、思わない時代になったらいいなと。「目が大きいほうが良い」という思い込みがなくなってほしい。
Amina 人と自分の違いを見つけてなんぼですよね。
吉川 倫理として言ってるわけではなくて、本当にそう思うんです。目が小さいことは、目が大きいこととは違う魅力があるから。
Amina 私は3年前に日本に帰ってきた時に、「美魔女」という言葉にびっくりしました。
吉川 「そんな年齢なのにセクシー!」だとか。褒めているようで、その言葉の裏には若いほうがセクシーという考えも見えちゃったりして。でももともと「若い女性がいい」っていう日本の男性が多かったから、こういう褒め言葉が次のプロセスのために必要だったのかも。
体も顔も変わっていくものだから、その変化をどう受け入れていくかが一生のテーマだと思う。人生は自分の研究のためにあるものだからそれを助ける美容になってほしい!
Amina すごい名言! 吉川さんとコラボしたら面白そうです。私たちが扱うものって、最初に手を出すのに勇気がいるものなんですよね。でも一度手を出してしまえば、みんな当たり前に使えるものだと思うので、美容をスタート地点にして少しでも間口を広げて、自分の身体や自分自身を知る過程にワクワクを感じてもらえたらいいなと思います。
Photos / Interview : Yasuo Yoshikawa
Coordinate / Edit:Maki Kunikata
Text : Tomomi Suzuki
撮影協力:New Stand Tokyo