from Japan

全身全霊で女性を撮る

寺田茉布 フォトグラファー

▼Profile

寺田茉布 MAHO TERADA

2005年よりフォトグラファー高橋ヒデキ氏に師事。2008年に独立し、フォトグラファーとして活動を開始する。素肌感を生かした美しいライティングやレタッチ技術に定評があり、女性ファッション誌やビューティ誌を中心に活躍。女優、モデルからの信頼も厚く、表紙撮影やフォトブック、カレンダー撮影などでの指名も多い。プライベートでは1児の母。

女性が女性を撮ること

吉川康雄 寺田さんと初めてお会いしたのはNHKの撮影の時でしたっけ?

寺田茉布 独立して2年ぐらいだったので、26か27歳だったと思います。

吉川 見た感じが、若いって思ったのを覚えています。カメラマンってある程度経験が必要な仕事っていうイメージがあったけど、ニューヨークでも最近は若くて上手な人が多くって。寺田さんの仕上がった写真を見たら、きれいで上手だなって思いました。その後はたくさん仕事でご一緒しましたね。何回かやるうちに思ったのは、寺田さんの写真はあからさまの女性目線ではないけれど、節々に女性らしさや繊細さを感じます。女性が女性を撮るのはどうですか?

寺田 もともと魅力的な方がキレイにメイクされて、素敵なお洋服を来て撮影するという中で、カメラマンは最後にまとめる役割みたいな感覚でいます。モデルさんでも、撮る人が男性か女性かによって表情が違う方もいらっしゃいますし。

吉川 あれは不思議ですよね。女の子って、男の子と一緒にいると自動的に変わっちゃう。男の子もだけどね。

寺田 男性に撮られるほうが合うんだろうな、という表情をされる方もいらっしゃいます。

吉川 それはどう思う?

寺田 でも、そういうモデルさんや女優さんにも「寺田さんは大丈夫」って言われたり。女性目線ですけど、あんまり女オンナしてないところがあるのか……。撮影の時は客観的な部分をキープして、同じ女として戦っていかない部分はあると思います。

吉川 その人の女性らしさを邪魔しないということですかね?

寺田 染めたりはしないですね。

吉川 誰を撮ってもそのカメラマンの写真、みたいになる人いますもんね。寺田さんを見ていると、モデルさんにあまり近づきすぎないで、心地良さそうな距離をいつも持っている感じがします。

寺田 私は向こう側に委ねているというか、広がる感じのほうが好きで。こんな面もあった!とか、そういう一面が見られるのが好きなんです。

吉川 僕もそういうのが好き。モデルさんの個性を消して自分色にしちゃおう、というのはないんです。あんまり顔を変えたりしないし。そうすると今まで思ってもいなかった新しい魅力とかに気づいちゃうからそれが楽しいです。そこにちょっとニュアンスを与えてあげるくらいで。

寺田 メイクさんによっても、“その人のメイクの顔”っていう感じで仕上げる方もいらっしゃいますもんね。

 

デビュー当初はイロモノ扱い!?

吉川 撮影する時、いつも比較的静かな人だなって思っていたんですけど、その程よい距離感というか、被写体に入り込みすぎないのは最初からですか?

寺田 私の師匠はモデルさんと密にコミュニケーションしながら撮影するタイプで、すごいなと思っていたんですが、私自身はデビューしたのが若くて25歳だったので、年上のモデルさんが多い中で、なかなか師匠のようにお喋りをしてコミュニケーションを取るのは難しかったんです。それに当時は特に幼く見られがちだったので……。

吉川 幼く見える自分は嫌でした?

寺田 やっぱり見た目の印象というのはすごく感じていました。周りに女性が多い仕事なので、若いだけでこう……なんというか、女性って若さに対する何かがありますよね?

吉川 僕は一時若い女性のアシスタントがいた時があって、その時、連日同じ女優さんと仕事が続いたんですが、ある日、僕のアシスタントを変えてほしいというリクエストが女優さんの事務所から来て……。若い女性に対していろいろ思っちゃたのかなって。被写体として自分を表現する時って、普段なら些細なことかもしれないそういうことでも気になってしまうことがあるんですよね。きっと。

寺田 私がデビューした頃は、ビューティ誌だと圧倒的に男性カメラマンのほうが多くて、数少ない感じだったんです。そんな中でも変わらず対応してくださる方もいたので、恵まれていましたね。

吉川 今でも男性が多いですけどね。女優さんは? そういう女性に対しての当たりはどうなんだろう?

寺田 男性スタッフで固めてらっしゃるような女優さんの現場でも、撮っていくうちに自然と許してもらえたみたいな感じはありました。

吉川 寺田さんの雰囲気でそうなるということもあるかもしれないけど、結局は写真が上手だから、それを見て安心するんだと思う。

カメラマンって一緒に働くのが大変なくらい偉い人もいるし、いろいろですけど、ぐっとくる写真を見せられると、特にコンピューターの時代だとそういうことが現場のモニターで同時に見えてしまうから、例え若い女の子のカメラマンだったとしても「あ、そういうのとは全然関係ないんだな」って瞬時に思わせますよね。

寺田 私は学生時代からデジタルがやりたかったんです。10代の私には、アナログの作業がすごく無駄な作業に感じて……。自己満の枠を超えないというか、「この工程が大事なんだよ」みたいな感覚は素晴らしいのかもしれないけれど、デジタルでやったら一瞬で終わるのになと思っちゃいます。

吉川 両方やってきた僕でさえそう思います。もう前のテクノロジーには戻れないって。

 

はじまりは、母への憧れ

吉川 フォトレタッチは自分でするの?

寺田 はい。

吉川 レタッチの加減はどうやって?

寺田 動画だと、声や動きなど色々な要素があるなかで、見る人の見たいポイントだけピックアップされますけど、静止画だと全部が均等に写って見えてしまうので、そのズレを埋めるぐらいの感覚でレタッチしています。

吉川 僕も自分でレタッチするからわかります。レタッチする人の主観がすごくはっきりと形に出てしまうから、よくも悪くも写真が変わっちゃうこともありますよね。

寺田 フォトグラファーとレタッチャーが違うと別の作品になるように感じるので、自分でやるスタイルが崩せないですね。

吉川 そうすると、納品するまで時間がかかっちゃいますね。

寺田 はい。もう一度撮影するぐらいの時間と労力をかけて、一番気になる部分からレタッチを始めます。

吉川 僕もメイクしている時に「ファンデーションはどこから塗るんですか?」って聞かるけど、寺田さんとまったく同じことを答えてます。一番気になるところから塗るんです。ちょっとしか気にならない部分をキレイに塗っても気になるところとのギャップが激しくなるだけだから。気になるところから直すと、それだけでOKになったりすることもあったり。メイクとレタッチってすごく似てると思う。

寺田 他のカメラマンの写真を見てライティングも気になりますけど、レタッチのほうが断然気になります。ここは直さなかったんだなと思ったり。あと私は、普段から人を見るとレタッチしちゃうクセがあって(笑)。

吉川 え~、僕も一緒で、人の顔を見てメイクが気になると心の中で直してあげてる! 自分の探しているものに近づきたかったらレタッチは他人には任せられないよね!

寺田 感覚的なところをレタッチする人に伝える自信がないのもあります。残したい個性と、残したくないところって人によってありますよね? どっちがどうと思えるのは自分しかいないのかなって。

吉川 そこが仕事なんだもんね。この人がどう見えたのかというのが。

ところで女性として女性を見て、写真を撮っている寺田さんは、女性のキレイさはどこにあると思いますか?

寺田 自分の記憶では中学生ぐらいの頃には、もう女性を見ていました。いろんな女性、特に自分がキレイだなと思う女性の顔とかディテールとか、街ですれ違っても、男性を見るより女性を見ることのほうが圧倒的に多かったですね。

吉川 子供の頃から今の仕事をしてたんだ。

寺田 小さい頃は母のことをキレイだと思っていました。“すごく美しいもの”みたいな感じで見ていた気がします。

吉川 尊敬に近い、憧れみたいな感じ?

寺田 そうですね。こうあって欲しいみたいな。女性に対する感覚も、根本的にはそこがスタートなのかもしれません。

 

女性を撮る時はすべてを預ける気持ちで

吉川 この女性のこんなところがキレイだなと思うでしょ。そしたら自分に対しての思いは?

寺田 たぶん最初は自分と比較して、あの人のほうがいいとか、それで自分を実感していたのかな。キレイな人が好きだから、目の保養的な感じで可愛い人やキレイな人を見つつ、自分のことを悲しみつつ、みたいな思春期だったと思います。

吉川 思春期はとくに自分を卑下しちゃいがちだよね。でも多くの人の話を聞くとみんな似たような思いを持っていて……。ここが好きという気持ちよりどこかが気に入らないみたいな。

プロとして写真を撮ると、その人が嫌いという部分も意外と嫌いではなかったりしません? 「そこ、いいところだよ」という気持ちは、自分にそのまま返ってきたりしないの?

寺田 確かにそうですね。特に若いモデルさんは割と個性を嫌うというか、他人に指摘されて嫌いになっているのかもしれないですけど。だから、相手の一番の個性と魅力だと思うところは、もうめちゃめちゃ褒めます(笑)。

吉川 周りからここはダメとか、隠そうとか言われると、そう思い込んでしまうし、心の傷になってしまう

寺田 顔の片側しか向けてくれない子に、でも反対側も素敵だよと伝えて、相手が「いいかも!」と言ってくれた時は嬉しいですね。

吉川 女性を客観的に見て、仕事して、そして自分が女性というのは、すごく成長するだろうな。

寺田 自分は女性ですけど、撮影する時は性別がなくなる感じがします。男性を撮る時は、また全然違う感覚になったり。

吉川 男性の難しさは何ですか?

寺田 やっぱり、そこまで興味が持てない(笑)。自分を通して見ているから、自分に男性のフィルターをかけても何も得られないというか。

吉川 女性を撮りに行くぞとなった瞬間スイッチが変わるの?

寺田 仕事場に向かう車に乗った瞬間に変わります。女性を撮る時は全身全霊のように全部を預けて、その空間に憑依するような勢いで行くんですけど、男性のときはニュートラルで、無かもしれない。

吉川 歩いててリタッチしちゃうぐらいだから、男性を見るときもそういう目は引きずっているんじゃない?

寺田 でも女の人しか見てないです(笑)。習慣になりすぎて、テレビを見ていても女の人が写っていればそういう目線で見ちゃいます。男性は興味がなさすぎて……、でもビューティとして男性を撮影するなら違うのかもしれないですけど。

吉川 寺田さんにとって男性は、美を当てはめるものじゃないんですね、きっと。だから無になって、そのあるがままを撮りに行く? 僕はそういう男性観、好きです。女性の場合もいわゆる世の中でキレイじゃないと言われているところもキレイだなって思う“素材重視”のところが僕は多くって。そういう意味では男女とも同じような目で見ているのかもしれないですけど。

寺田 人間を見ているということですね。

吉川 そう。でも寺田さんのレタッチの感覚と、僕のメイクをするときに見えてくる美の感覚が近いというか。だから寺田さんの写真のファンなのかも。

 

 

Photos / Interview : Yasuo Yoshikawa

Text : Tomomi Suzuki

取材を終えて

After the interview

世の中にはいろんなカメラマンの人がいて……。大先生や、いろんなふうに変わった人、とってもいい人……。
でも一枚の出来上がった写真がカメラマンとしては全てで、それが好きか嫌いかだけが一緒に仕事するものにとっては大事だなっていつも思います。
そういうのって逆にカメラマンにはプレッシャーになっちゃいますよね。

僕もメイクという“きれいを探す”仕事をしていて同じ気持ちを感じます。でもそれは仕事の前だけで、始まったら自動的に見つけちゃう。そういう脳に育っているから。
そんなふうに仕事をする現場にいると寺田さんのように若く見えちゃう女性でも関係なく尊敬できちゃうのです。

だからできる人みたいに見えるように頑張る必要なんてないですよね。せっかくの自分を自分らしく。
そんなふうに見える寺田さんのお話はやっぱり独特で楽しかったのです。

吉川康雄