from Japan

多様性のなかで

室井麻希 H&M PRコミュニケーション マネージャー

▼Profile

室井麻希 MAKI MUROI

 1980年生まれ、宮城県出身。国際基督教大学卒業後、外資系広告代理店に入社。3年ほどで退社後、モデル活動をしながら香港をベースに台湾、シンガポールなどアジア各地で暮らす。2008年にピーチ・ジョンのPRに転職。マーケティングPRマネージャーとして活躍後、H&Mにヘッドハンティングされ2012年より現職に就任。プライベートでは5歳と1歳の息子を育てる2児の母。

語学力より自分の意見を持っているか

吉川康雄 グローバルに展開するH&MでPRマネージャーをされていると海外の人との仕事も多いと思いますが、外国に住んでいたとかいうバックグラウンドとかがあるんですか?

室井麻希 いえ、日本で育ちました。高校入学前の約3週間カナダに短期留学して、大学在学中にもカナダに留学しました。あと大学がバイリンガルでした。

吉川 海外に行ったときの印象はどうでしたか?

室井 最初の留学では「英語が通じる!」と感激したのを覚えています。中3までの英語で通じるんだとわかって、楽しかったですね。

吉川 僕は英語がわからないままNYに行って、行く前は喋れると思ったのに、喋れなかった(苦笑)。

室井 今はどうですか?

吉川 今もすごく下手。でもそんなに気にしてないかもしれない。上手になれないってわかっているし、今更上手に見せようとかいう気持ちもないかな。それよりも言いたいことを伝えるために話すっていうのがはっきりあるから下手でもそんなに恥ずかしくない。言葉が話せないところにずっといると会話の意味や伝えることの大切さってすごく感じますよね。

室井 私もH&Mに入って、会話って語学力じゃないなと思いました。文法が間違っているとかを気にしていたら、全然進まないですもんね。吉川さんは話したいことが明確だから強いんです。本当にそれを感じます。うちの子供も、今は日本語の環境ですけど、自分の意見をハッキリ言うとか、気持ちを表現するほうを大事に育てていきたいです。

吉川 海外で感じたことは、言いたいことがあってそれが興味深いと一生懸命聞いてくれる。日本はみんな似たようなカルチャーの環境で育つから、何かを見たら自然に同じような発想をしたり、そういうのを人にも求めるから当たり障りなく空気を読んだりして。だから伝えるためのコミュニケーションをあまり意識しないから、人との距離も知らずに遠ざかっていることがある気がします。

室井 吉川さんがおっしゃっている以心伝心みたいな文化を、ハイコンテクストカルチャーと言うんですって。それに対して欧米諸国は、言葉が必要なローコンテクストカルチャー。ローコンテクストでは、相手に察してもらうだなんて期待できないですよね。

吉川 そういうのも文化の違いとして混在してもいいのかもね。でも、色々なカルチャーの人が混在していると、人は全然違うという意識が前提になるはずだけど、日本人はうまくそこができないところが難しいかも。自分の価値で人を判断しちゃいがちだし、そこから遠いと、ぼくなんてよく“ガイジン”扱いされていますよ。

室井 長男は幼稚園に通っているんですが、園で自由に過ごしているので小学校に上がるのがちょっと怖くて……。授業中は静かにしてなきゃいけないとか、個性を出していくことが悪いことにならないといいなと、心配しています

吉川 迷惑がかかるからさせないんじゃなくて、迷惑がかからないように工夫して色々やってもらって満足してもらう。そこが大切ですよね。どういう状況にいても自分が楽しめているというのは大切かなって。

室井 同感です。自分らしくいられるのが一番大事ですよね。

意思は通しつつ、相手を喜ばせる

室井 私は自分の八方美人なところが嫌いで……。持って生まれた性格だし、今まではとくに困らなかったんですが、H&Mに入社して外国の人と会議する機会が多くなったときに、この性格がすごく邪魔になったんです。感じの良い言い方だと意見が伝わらなかったり、ニコニコしていることでも弊害が起きたり。自分や部署のやりたいことが通っていないなと感じて、これは変えないとダメだなと。感じ良く振る舞うのは悪くないと思いますが、意見を伝えて反対することが悪ではないですよね。

吉川 八方美人って言葉が悪いけど、感じがいいのってすごくいいところじゃないですか。それは絶対大切に思った方が……。

そうしつつも相手の顔を見て「伝わってるかな?」って思い図るのは大切なのかな。

室井 確かに、言いっ放しは危険。

吉川 言うのと伝わるのは違うから。

最近思うのは、相手に伝えるときにガツン!と言うのは簡単だけど、できるだけ気持ちよくやってもらえるように、相手を思いながら気持ちよく伝えたい。それがたとえ反対の内容でも、そうすると、最後には相手も気持ちよく一生懸命やってくれるから。

室井 自分の意思を通したいけれど、相手がうれしくなって、乗り気でやってもらえるように持っていくのが大事ですよね。

吉川 それが最高だと思います。

ところで、10代の頃はどんな子供だったんですか?

室井 優等生タイプでした。学校の勉強でいい点を取るのが好きだし、学級委員長やるのが好きだしっていう。自分が親になってみて思うのは、「つまらない学校生活を送ってきたね」って(笑)。今は「もっとハメを外せばよかったのに」と思います。

吉川 ハメを外した時代はあるんですか?

室井 大学の時かな。そのあと血迷って(!?)、香港に住んだことがあるんですけど、その頃ですね。やっぱり発散しないと。

吉川 今はそんなに我慢してない?

室井 あ! しています。育休中なので、家事を全面的にやらないといけないんですが、とにかく家事が苦手で……。仕事をしている時は夫と分担していましたが、さすがに今は私のほうが時間があるので、やらないと。

吉川 優等生にも苦手があったんですね。

室井 以前、会社でリーダーの強みを見つける“ストレングスファインダー”という診断テストをやったことがあって、その時に「素晴らしいリーダーは自分の強みと弱みを理解していて、自分は全部できるとは言わない」と聞いて、なるほどなと。これは自分にはできないから得意な人に振るとか、そういうデリゲーション(権限委譲)を仕事でやっていたんですけど、これを家事にも応用したくて。今の課題は、どうやって家事をデリゲーションしていくかなんです(笑)。

吉川 できないことはできないからね。きっと得意な人がやった方がいいですよね。

室井 ですよね! でもまあ、仕事でデリゲーションできていればいいのかなって。掃除はルンバにお任せですし、あとは子供に「ママ苦手だからさ〜」と頼んだり……ひどい母親です(笑)。2度目の産休育休で、キッチンに呆然と立ちつくす時間が多くて、日本が描く良いお母さんとは程遠い自分を認識しています。

ジェンダーレスな子育てが理想

室井 最近、子供のランドセルを探しているんですけど、色問題にぶつかっていて。

長男は赤がいいと言うので見に行ったら、お店の方に「赤を選ぶ男の子はほとんどいない」と言われて……。たぶん、心配してアドバイスしてくださっているんですよね。確かに赤いランドセルで学校に行ったら、日本だといじめられるかもしれない。

でも、私は子供がそう望むならいいと思うんですけど、パパは心配していて。そうは言いつつも、自分も子供にピンクの服を着せたいけれど、どこかで「男の子だからな」ってブレーキをかけたりして。ジェンダーレスに育てたいと思っても、日本で暮らしていると実際は複雑です。吉川さんだったら、男の子が赤のランドセルがいいと言ったら買いますか?

吉川 アメリカで子育てしたので買うと思うけど、日本にいたら、やっぱりちょっと考えるかもしれない。

室井 いろんなことの選択が、自分が思うことと、ここは日本だからな、っていうことのせめぎあいで。

少し話が逸れますが、長男の幼稚園は自閉症など発達障害と診断されているお子さんも受け入れる園なのですが、子供たちを見ていると、どの子もみんな一緒だなって。じっとしていられない子とか、気性の激しい子もいるし、喧嘩もあるけど、子供たち自身は何を区別することもなく、普通に過ごしている。社会もそうあったらいいのにと思います。

吉川 社会生活にうまく適応できないと判断したりされる時点で“~症”という名前が付けられるわけで、自閉症もその一つだと思うけど、人は誰でもどこかしらそういう部分を持っているんじゃないかな。誰でもうつ病になる要素を持っているのと一緒ですよね。

ちょっと前までアメリカではその境にいる微妙な人にもどんどん病名をつけていたけど、最近はそういう人には病名をつけないという流れもあります。それも人としての個性として考えアドバイスしていく感じで。病名つけられちゃうと、もうそれってダメって思っちゃうから。

室井 あと、結婚していないとダメだとか、子どもがいないとダメという社会の風潮もなんとかならないかなと思います。スウェーデンやオランダとか、海外のH&Mから日本に駐在で来ているカップルって、自国では事実婚の人たちが多いのですが、日本のビザの関係で、結婚をしていた方が日本で住みやすいという話も聞きます。そうなると同性愛者の場合は相手のビザが保証されなかったりもあるんですよね。おかしい話です。

吉川 結婚していると得する制度が多すぎるし、逆に結婚していないとビザが取りにくいとか……。そういう制約もたくさんあって。結婚していなくても不便じゃない社会になって欲しいですよね。人に迷惑かけない限り、いろんな考えや生き方の人がいていいという風潮になってきているけど現実はなかなか追いついていないかな……。

やりがいを感じる社会貢献活動

室井 長男が生まれたとき、保育室に並んだ赤ちゃんを見て、私はどの子をあてがわれても愛する自信がある!と思ったんです。自分は血の繋がりで人を愛するタイプじゃないなと。その気持ちが今も続いていて、いつか里親になりたいんです。

吉川 日本では里親って少ないと思うけど、そう思うきっかけがあったんですか?

室井 うちの母親がちょっと変わったタイプで、ホームレスの人に、うちの家のお風呂に入りに来てくださいと言う人で。そういう人に育てられたせいかもしれないですが。夫に相談したら「それはすごくいいことだと思うけど、まず掃除とか、家のことをちゃんとやってからにして」と言われて、育休中は家事力を見せるチャンスだったんですけど……。

吉川 家事が苦手だしね(笑)。

室井 そう(笑)。それで、週末や夏休み中に子どもを迎える“週末里親”をやろうとして実際に面談に行ったのですが、私の住んでいる区ではやりたい人が多くて2年待ちで。

吉川 そんなに!? 手を挙げている人が多いんですね。びっくりしました。

室井 そうなんです。でも、何かやりたいという想いが捨てきれなくて、去年、児童養護施設に住んでいる子どもたちのサンタさんになる、というプロジェクトをSNSで立ち上げたんです。

施設の子たちは、必ずしも自分が欲しいプレゼントをもらえていないというのを聞いて、ある施設から子どもたちの欲しい物のリストをいただいて、インスタで36人のサンタさんを募集したんです。プレゼントは、クリスマスイブの深夜に施設の方が枕元にこっそり置いておくという。どれくらい集まるか不安だったんですけど、約半日で36人分すべて埋まって。クレームもなく、ネガティブなことを言う方も一人もいなくて、サンタさんはものすごく協力的で。私の中で100点満点のプロジェクトだったので、これは1回きりで終わらせちゃいけないなと。できる限り続けていきたいです。

吉川 続けていったらどんどん違ったアイデアも出てきそうで楽しそうですね!

STAY HOMEを経てアートにハマり中

吉川 ずっとオシャレ業界にたずさわってきている室井さんですが、普段使っているこだわりの化粧品とかって見せていただけますか?

室井 本当にガサツなんですが、唯一ずっと使っているのがこのシャネルのコーラル系のチークです。

吉川 肌に馴染んで健康的に見せてくれそうな色ですね。

室井 顔がパッと明るく見えるのでこれは欠かせないですね。

室井 こちらの2つは、H&Mのファミリーブランド「アンド・アザー・ストーリーズ(日本未上陸)」のもの。モロカンティー ボディミストは、爽やかさと甘さのバランスがちょうど良くて、仕事をしている時も家でも、常に近くに置いています。フィグ(イチヂク)の香りのボディオイルも気持ちが落ち着きます。

室井 アヴェダの「チャクラ バランシング ミスト 7」と、「ローズマリーミント ボディ ローション」は、ミーティングの前の気合入れに使っています。打ち合わせの前につけていくことで、香りが応援してくれる感じがします。チャクラバランシングミストは1から7まであるのですが、つける日によって感じ方も違うので、自分の状態のバロメーターにもなります。

室井 私は美術系の才能が皆無なのですが、身近にアートを置くと元気が出るし安心するので、友人や家族の作品を家に飾って、エネルギーチャージしています。一角獣はぬいぐるみ職人の友人が作ったもので、ものすごくパワーをもらっています。お椀は青森に住む漆職人の友人の作品。

室井 こちらの絵画は、那須に住んでいる父が描いたもの。今回の自粛期間中に、ますますアートにハマりました。

Photos / Interview :  Yasuo Yoshikawa

Text : Tomomi Suzuki

取材を終えて

After the interview

室井さんの相手の気持ちを明るくしてくれるような笑顔には、やっぱりそういう色の頬紅を選んでいました。好きな香りも軽やかでぼくは気持ち良かったです。

自分では八方美人っていうけど、自分を心地よくするためにやっていることが人を心地よくしているんじゃないかなってちょっと思いました。笑顔も相手のためというよりも、きっと自分に微笑みかけて自然とその場も気持ち良くしている。誰かが楽しんで作ったアートも飾って楽しめるなんて、ぼくにはなかなか出来ませんし……。

ものすごい才能を持ったムードメーカーなんじゃないかなって思います。

PRにヘッドハンティングされるの、分かります。だってぼくのところでもやって欲しいですから。

 

吉川康雄