from Japan

「私って何だろう?」を問い続けて

AKI INOMATA 美術家

▼Profile

AKI INOMATA

1983年、東京都生まれ。2008年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。アーティスト活動のほか、多摩美術大学非常勤講師、早稲田大学嘱託研究員も務める。

生物との共同作業による作品制作が国内外で注目され、代表作に、3Dプリンターで制作したヤドカリの殻に引っ越しをさせる「やどかりに『やど』をわたしてみる」、飼犬の毛と作家自身の髪でケープを作ってお互いが着用する「犬の毛を私がまとい、私の髪を犬がまとう」などがある。2019年に十和田市現代美術館で国内初の個展が開催されたほか、海外の展覧会にも多数参加。初の作品集『Significant Otherness 生きものと私が出会うとき』(美術出版社刊)も刊行され、今後の活躍が期待されるアーティストの一人。

公式サイト:https://www.aki-inomata.com/

やどかりにやどを渡してみた

まず最初に、AKI INOMATAさんの作品「やどかりに『やど』をわたしてみる」の映像をご覧ください。

 

 

 

AKI INOMATA《Why Not Hand Over a “Shelter” to Hermit Crabs? -White Chapel-》 from Aki Inomata on Vimeo.

 

 

 

吉川康雄 僕がINOMATAさんを知ったのは、知人から「吉川さん、絶対に好きだと思う」と教えてもらったのがきっかけなんです。僕は昔から女性と美容の関わりを話すときにやどかりの話をよくしていて、ヒトを守るためには皮膚という外側にしっかりとしたバリア機能が必要なんだよ、って。

それでINOMATAさんのサイトを見たら「やどかりに『やど』をわたしてみる」シリーズが載っていて、“オーガニックとは関わりない最先端のやどに身を包んだ美しい生きもの”を見つけてしまった。

「僕の想像を形にしている人がいる!」と。これはもう絶対に話を聞くしかないと思いました。

AKI INOMATA ご本人からオファーのメールが来たので、私もびっくりしました(笑)。本物かな?って

吉川 本当に斬新な作品ですね。可愛いし、アヴァンギャルドだし。

あの貝はどうやって作るんですか?

INOMATA これは3DCG(3次元空間でのコンピューターグラフィックス)で作ったデータを、3Dプリンターで出力しています。

吉川 アイデアはどこから?

INOMATA 展覧会に向けて、どんな作品にするか考えていたときに、友人との会話で弟さんがやどかりを飼っていると聞いて。その時に、色々な考えが合体した感じです。

吉川 僕はやどかりが、発泡スチロールのゴミを“宿”にして歩いている写真を何かの本で見た時に、「やどかりのやどって、ケミカルなものでもいいんだ!」と思って。その瞬間、スキンケアと繋がっちゃって。女性の肌はやどかりのやどに隠れた体のようにデリケート。だから肌をいたわるスキンケアも、オーガニックとか、浸透する有効成分とか、そういうのにこだわるんじゃなく、ひたすらに人に刺激を与えず安全なバリアにこだわったほうがいいんじゃないかと。

INOMATA なるほど。

吉川 海に遊びに行ったときに、僕と娘でやどかりの赤ちゃんを探して、小さなコップに砂や壊れたサンゴ礁を入れて、1週間くらい飼ったこともあったなあ。

INOMATA やどかりの赤ちゃん、可愛いですよね。

吉川 でもよく見ると、仲間内でいじめとかもあるんですよね。大きい奴が小さいやついじめたり。

INOMATA そうそう、貝殻を取り合ったり(苦笑)。数匹入れておくと喧嘩するので、私はなるべく一匹ずつ入れたりしています。

吉川 人間と一緒ですね(笑)。

 

柔らかい気持ちを大切にしたい

吉川 アーティストとしての活動している時の自分と、普段の生活の自分と、ボーダーラインはありますか?

INOMATA ないです。普段から、ひたすらあれこれ考察していて。「突然、アーテイストモードに豹変する!」といったことはないですね(笑)。

吉川 独特なものの見方をされている方だから、周りから自分がどう見えるかをあまり気にしないのかなと思ったのですが。

INOMATA いえいえ、普通に気になります(笑)。

撮影協力:櫻井焙茶研究所

吉川 ものすごく斬新でユニークな作品ですが、あれを出す時に、すごく勇気がいりませんでした?

INOMATA 作品について色々と言われるのと、自分について言われるのは、  ちょっとモードが違うかもしれません。作品に関してのほうは、私の中では人に対してガッと開いている感じで。作品については色々言ってもらっても平気ですが、自分のことだと気にしてしまうかも……。

吉川 僕なんか昔は作品は自分の脳内を見せているようで、その恥ずかしい気持ちと戦う感じで、普段の自分も恥ずかしさを消さなきゃなんて心の訓練してましたけど、結局今はINOMATAさんの感じに近い感じかもです。

そしてそのアンバランスさはとっても自然でいいんじゃないかって思えるようになりました。

だからかもしれないけど、INOMATAさんの作品を見たときにピュアなムードが伝わってきました。“やどかりがああいうものと合体している”作品から、勝手にすごく女の子っぽさを感じてしまって。斬新でクリエイティブな部分に小さな女の子が同居しているというか。

INOMATA 子供のときの好奇心や、柔らかい気持ちは大切にしています。あまり子供っぽくない子供だったので、はしゃいだりとかできなくて、「マセてるわねー」と言われることも多かったですが……。今になって、そこを退行しているというか、作品をつくることで、どんどん子どもっぽく戻っているのかもしれません。

100年後にメッセージを送る

INOMATA 最近、いくつかの美術館に作品の所蔵が決まったんです。

吉川 それは素晴らしいですね。

INOMATA 美術館に収蔵される場合、5年後10年後ではなく、100年後の人が見たときにどう思うかまで考えないといけなくて。そうすると、例えば5年前の雑誌を見ると「あれ? 全然昔っぽい」と思うじゃないですか。でも名作映画だと、そうは思わないですよね。その違いが気になるんです。

美術作品は、もっとスパンが長く生きていかないといけない物だから、今の人を意識したトレンディドラマを目指すのは違うなって。

吉川 気がつく視点が、いかにもその仕事のプロというか、アーティストならではの時間の感覚ですね。

撮影協力:ヘアーサロンSUI表参道

INOMATA でも思いませんか? 毎年トレンドが変わるのは、どうやって考えているんだろうって、不思議なんです。メイクでも、古びてしまうメイクと古びないメイクがあって、そこの差ってなんだろうって……。例えば100年後に誰かがわたしの写真を見たときに、古びないでそこにいたいって。

吉川 流行があると、みんながそれを元に洋服を作るし、お化粧もその年の傾向が出てくる。そうするといろんなジャンルでバラバラにならないから伝わりやすくなる。

でも、トレンドのメイクが似合えばいいですが……。

みんな流行に対して一生懸命やってしまって自分らしい顔ではなくなるとしたら残念だな。

INOMATA 新しさは感じさせたいから、その塩梅が難しいですよね。

吉川 流行は、新しいものにトライするきっかけになるからとてもいいですけどね。

INOMATA そうなんです。 私もサムシングニューは欲しいという気持ちはあります。

あと、昔のヘップバーンとかを見ると、すごくキレイですよね。あれはなんなんでしょうね?

吉川 オードリー・ヘップバーンが出てきた当時、彼女のような顔は主流ではなかったですよね。彼女が出てくるまでの女優さんの眉は細かったけど、彼女は太眉。違っていたからこそ、インパクトがあったんじゃないかな。

INOMATA 確かに、そう考えると勇気ありますね、ヘップバーン。

吉川 顔のことに関してだと、よほどメンタルの強い女性でない限り、自分一人で「人と違っているけどOKなのよ」とは言えないから、きっと周りの人間が「素敵だよ」「いいよね」って押してあげたのもあったと思います。

目指すのは、肉眼で見てキレイな私らしさ

INOMATA  アイシャドウを発明した人って、すごいなと思うんです。どうしてここにアイシャドウを乗せようと思ったのか不思議。

吉川 朝日でも夕日でも、光のいたずらで、素のまぶたに色を感じることがありますよね? そういう時に、あ、キレイだなと思ったり、そんなところから始まっているんじゃないかなって僕は勝手に思っています。そんなイメージをもってアイシャドウで色のニュアンスを感じさせてあげて、素のまぶたの皮膚感の美しさを見せるために輝きやツヤをだしてあげたら美しいと思うんです。

INOMATA   私はCHICCAのリッドフラッシュ 04が好きでよく使っていますが、まさにそういう感じですよね。

INOMATA   撮影の時などは、これにさらに別のCHICCAのアイシャドウを重ねたり、フローフシのモテライナー“チェリーチーク”(2018年12月で販売終了)という色のアイラインを入れたり。このアイライナーの筆はとっても描きやすくって大好きなんです。今日も使ってもらいましたが、自分でやるとどうしても“やりすぎ感”が出ちゃってこんな風にはなかなかできません。

INOMATA   でも、今日メイクしていただいた目元を写真に撮ってみたのですが、映らないですね。

吉川 これは映すためのメイクじゃなくって肉眼で見てキレイな仕上がりです。人が見たときに「なんかキラキラしてる?」と思う感じ。写真に撮ってもメイクに目はいかないでその人に目がいく。

INOMATA   メイクのやり方を保存しようと思ったから残念だけど、 肉眼でキレイって一番目指したいですね。

吉川 INOMATAさんの顔はメイク映えするので、お化粧に目がいきすぎない塩梅にとどめておくのがいいんじゃないかな。今日のメイク可愛いねと言われたら、もう失敗と思って。

INOMATA 確かにその通りですね。レッドカーペットの上を行くのならまだしも。

吉川 あの人たちは、ものすごくメイクが濃いですから。INOMATAさんが表彰式とか、フォーマルな所に行く時は、「あの人薄化粧だけどキレイだね」と言われるくらいを目指してみてはどうですか?

INOMATA まさにそれを目指しています! でも、ドレスアップする時は写真も撮られるし、不安になるので、今までやりすぎていました……。

私の眉毛、短くないか? とか、伸ばさなくて大丈夫かな?とか自問して。

撮影協力:ヘアーサロンSUI表参道

吉川 僕は大丈夫だと思います。眉は長くするほど顔はドラマチックになりますし、アイラインも同じ。でもINOMATAさんにはこれ以上付け足さなきゃいけないドラマはいらないかなって。

INOMATA いいこといいますね(笑)。

私は、初対面の方に「芸能人の誰々に似ている」と言われることが多くて……。それって何なんだろう?と悩むことがあるんです。誰かに似ていると言われると、自分のオリジナリティーや存在意義がないような気がして。

吉川 そういう感じで人が誰かに対して「似ている」という時は、褒め言葉のつもりだと思うんですけど、価値観って、人それぞれ違いますもんね。

INOMATA そうなんです。そんなに似ているかな??って。

吉川 自分らしさを大切にっていう時代になってきている筈だけど、まだまだね……。

お化粧でもすごく変わるのもたまには楽しいけど、透明感を大切に自分の魅力をもっと活かして欲しいって思います。

実は僕は今日、メイクする前にINOMATAさん自身がやっていた素肌にワセリンを塗っただけの状態がとてもキレイでドキッとしてしまいました。何にもしないで、ツヤだけあるのがとても素敵だったと思います。

そのINOMATAさんの印象が消えないように透明感のある美しさを大切にメイクしたんです。今度ドレスアップする時にこんなふうにやってみて下さい。みんな絶対にドキッとするはず。

INOMATA エッ! 嬉しいですし勇気付けられます! ワセリンは肌との相性が良くって、乾燥した時に顔だけじゃなくって全身に使っています。Sun Whiteを主に使っているのですが、携帯する時は小さいPure Lipを持ち歩いて、唇だけでなくどこにでも使うのが私のやり方。

ワセリンでちょっと重く感じるときは、アルガンオイルを使います。今日は桧 spa hinokiを持ってきましたが、いろんなアルガンオイルを使っていて、どれも好きです。

吉川 ワセリンやアルガンオイルは肌に優しくって保湿効果やバリア効果も高いですけど、艶々になって見た感じも綺麗で、スキンケアと化粧効果が両方備わっている優れものですよね。

肌に対する刺激も少ないから僕も愛用しています。

INOMATA それと、CHICCAのBEAUTY GLOW BODY CREAM(限定発売)も大好き。米糠がたくさん入った保湿効果で肌がモチモチになるんです。つけるとフワッと香って張り詰めた気持ちがリラックスできるから、お風呂上がりに全身に使っています。

INOMATA でも今日していただいたメイク、素人の私にはハードルが高そうですがトライしたいですね(笑)!

吉川 もし難しかったら呼んでください。駆けつけますから。それか、僕がメイクする前のツヤだけの素顔でもばっちしです。

Photos / Interview :  Yasuo Yoshikawa

Text : Tomomi Suzuki

Hair:Shinichi Fuyuki (sui)

撮影協力:櫻井焙茶研究所ヘアーサロンSUI表参道

取材を終えて

After the interview

はじめてINOMATAさんの作品を見た時、見たことないものを見せてもらったショックがあって……。

そんな新しいものを考えだすのだから前衛的なアーティストのようにエクセントリックな女性かもしれないって、つい想像してしまったのですが……。

お会いしたら、好奇心がたくさん詰まった小さな子供のような目でものを見るピュアーさを感じ、風変わりなものを奇をてらって作り出すんじゃなくって自然に湧き出たものがかたちになったのかなあって思いました。自然体がクリエーティブっていうのは楽しくっていいですよね。

でもそれって元々みんないろんなかたちで持っていたものかもしれませんね。

 

吉川康雄