from Japan

肩の力を抜いて自分とのバランスをとって生きていく

曽田啓子 ビューティビジネスプロデューサー

▼Profile

曽田啓子 KEIKO SODA

元・阪急うめだ本店、化粧品トップバイヤー。阪急百貨店に入社後、いくつかの売場を経験したのち化粧品担当に。以後16年間にわたり化粧品バイヤー、化粧品開発担当部長を務める。

2018年に退職し、独立。ビューティビジネスプロデューサーとしてプロデュースやコンサルティングを中心に活動するほか、化粧品やビューティに関する幅広い知見をいかしてトータルビューティアドバイザーとしてメディアでも活躍している。

http://threepeace.co.jp/

知っていることを伝えて、お役に立ちたい

吉川康雄 僕がCHICCAのブランドクリエイターをやっていた時も、曽田さんにはいろんなことでアドバイスをもらいましたね。一番いろんなことを相談させてもらったバイヤーさんだったかもしれません。いろいろ勉強させてもらったこと、すごく感謝してるんです。

おそらく他のブランドでも同じようにアプローチしていたと思うので、曽田さんには、すべての化粧品ブランドの関係者が同じように思っていたのではないでしょうか?でも32年間も勤めた百貨店を退職されたことを知らなくって…。聞いた時はすごくびっくりしました。いつ退社されたのですか?

曽田啓子 2018年の3月です。50歳過ぎごろから考えていて、55歳で独立しました。上司にも同僚にも、周りにはすごくびっくりされましたけど。

吉川 あんなに積極的に仕事に取り組んでいたわけだから、社内でもすごく存在感もあったんだろうなって想像しているのですが‥。

曽田 会社の看板をフル活用して、言いたいことを言っていましたから(笑)

。時には厳しいことを言いすぎて、誤解もいっぱいされましたけど……でも百貨店なので、お客様にいいものを届けたいですよね。そこは厳しいことを言わざるを得ない時もあるんです。もともとお節介なので、お客様はどう思うかとか、どうやったら顧客が増えるかとか、言わずにはいられない。

吉川 それ、僕にすごく伝わっていました。だからお話しもちゃんと聞けたんですけどね。でも曽田さんみたいな人は少なかったかなあ〜。中には言いにくいこともあるわけだし。

曽田 こだわりがあるところだけなんですけどね。

仕事をしていると、ビューティに関わることって、女性として、プロとして、いろいろ気が付いてしまうじゃないですか。そうするとお伝えしたくなっちゃう。

時には百貨店というビジネスの枠を超えてしまうことがあったとしても、自分の経験の中で知ったことや、勉強したことを、もっとお伝えしたいという気持ちが出てきてしまって、思い切って独立したという感じですかね。最初は家族も反対してましたよ。「それだけ機嫌よく働かせてもらえるなら、やめることない」って。しかも、あと5年と少しで定年だったので。

吉川 定年まで待てなかった理由ってなんですか? 1歳でも若く?

曽田 65歳、あわよくば70歳まで働けるとするならば、今すぐものにはならないかもしれないけど、いずれはやれるかも、と思ったんでしょうね。すぐにでも女性たちのお役に立ちたいというのが一番かな。

吉川 お役に立つというのは世の女性たちにだけじゃなく、きっと曽田さんの周りにいるブランドとか、すべての人ですよね。

曽田 そうそう。ブランディングとか売り方とか。

会社員時代の後半に化粧品担当になって、大きい店のバイヤーをやらせてもうようになってから、色々な経験をさせてもらいました。海外出張に行かせてもらったり、メーカーの営業さんだけでなく、クリエーターやマーケティング、PR、編集者、代理店、イベンターなどいろんな職種の方々とお仕事させてもらいましたので、ネットワークがものすごく広がりました。そういう意味ではずっと恵まれたところにいたのかもしれません。

吉川 曽田さんのようにクリエイターと意見の交換を出来たりするようなバイヤーさんって、なかなかいないと思うんですよ。

“独立”って簡単なことじゃないとは思うんですけど、そんな曽田さんだから、個人でも存在価値があるなあって思います。

曽田 会社では、商品を知ることとその売り方、この2つのことをずっとやってきました。

ものの良さをわかって、それを上手に伝えて売るっていうのは、特に大きい店になると一元化しづらいものがありますけれど、私はそこをずっと担当してきましたから、それが強みになっているのかもしれません。

吉川 その2つがわかるのは素晴らしいですよ!

商品のこだわりもお客様に伝わらないと意味ないですからね。

すべてはバランス

曽田 美に関していうと、やっぱり心身のバランスが一番大事。それが肌に現れて、内面と外面に出てくると思います。

吉川 体だけ健康になっても、心が満たされてないと。逆もしかりですよね。食事だって心が沈んでいると美味しくなくなっちゃうし。どちらかだけになると体壊しますよね。

曽田 動いて、休んで、休んだらお腹減るでしょう。だから食べる、そして出す。(笑)これは健康的な代謝ですからね。

吉川 エネルギーを使ったら、ちゃんと取り入れないとね。

曽田 そうそう。取ることの心地よさもあるし、寝ることの心地よさもあるし、動くことの楽しさもある。そのバランスは突き詰めていくと、陰と陽が両方あるから、それをいい意味でとらえて楽しんでいけたら、それが表に出てきますよね。

吉川 曽田さんにとって、自分を大切にすることをビューティで言ったら、そういうバランス感覚なのかな?

曽田 それに尽きると思います。常にそういう感覚は持っていたいし、緊張と緩和なんて、絶対にどっちもないといけないものだと思います。どちらかだけ、っていうのはないと思う。バランスをとって、もう少し肩の力を抜いて楽になるような生活とか、女性の生き方なんかをお伝えできたらなと思います。

AMPP認定メディカルフィトテラピストとして、化粧品だけでなく、インナービューティとか、女性のライフサイクルやサーカディアンリズム(1日のリズム)を整えることとかも語っています。

吉川 話を聞いていると、ライフスタイルのアドバイスまで広がっていきそうな感じがしますけど。

曽田 そうなんですね。今まで経験してきたいろんな知ってることをお伝えしたほうがいいかなと思っていて。ホルモンバランスとか、女性特有のお悩みのこととか。

もちろん化粧品のことも、百貨店ブランドなら100以上、担当していましたから肌のお悩みにもお答えしています。

せっかく身につけたことをアウトプットしたいというのがあります。

あとは自分が一番、心地よくないといけないと思う。

私もきちんと生活をして、体調も整えて、自分のライフサイクルを見直したり。

できるだけ体にいいものを取ろうというのもあるけれど、そこにいき過ぎるんじゃなくて、取れる範囲でバランスを取りたいと思っています。

お守りコスメ

吉川 そんな曽田さんが、毎日の生活の中で“これはっ!”って感じて愛用している美容プロダクトってすごく興味があります。

曽田 新しものがどんどん出てきますので、仕事柄、いろいろ試していると、その発想やこだわりに“素晴らしいな”って肌で感じるものが、正直、たくさんあります。その中でも、調子が悪い時や、肌が敏感に傾いている時こその“お守り”のようなコスメって、私にとっては大切で、気がつくと長年使っていますよね。

例えばこのSK-Ⅱのフェイシャルトリートメントエッセンス

“今日はちょっと…。”って思う日でも、私にとって“一発逆転”できる愛用の一品です。独特の香りも私好みなのですが、コットンパックをするとその保湿感で、肌が元気になるのを感じるんですね。

もう一つはDe la Merのクレーム  ドゥ・ラ・メール。重めでしっかり感触を感じるクリームが、体温でふっと軽くとろける瞬間にすごく癒されたりします。

吉川 僕も De La Merの感触は大好きです。

自由を得た先にあるもの

吉川 曽田さんは、自分のことを大切にしていらっしゃるけど、他人のお世話も好きって、それってどうバランスとっているんですか?

曽田 何しろ放っておけない性分で、気になるんです。お世話というよりお節介好きで。

でも、それも自分のためかもしれないですね。ある意味、そうやってお世話して動き回っている自分が好きなのかもしれない。

吉川 それ、いいですよね。

人の世話なんかは、「人が好きだから」だけで終わっちゃいそうじゃないですか。

それで「あなたのためにやってるのよ」と言われるよりは、「私、そういうことをするのが好きだから」って言われると、されている側は、もっと楽になるかなと。

曽田 母からは「私のことを好きな人も半分いると思うけど、半分は嫌いな人もいる」って言われて育ったんです。それもバランスっていうか、中庸を保とうとしている。色々お伝えしたいと思って、こっちが良かれと思っても言いすぎて聞きたくない人もいると思うし。でも、言わずにはいられない性格なんで、言っちゃうんですよ。

吉川 曽田さん、正直に生きている感じがして、そこが好きなんですけど。

曽田 もちろんオブラートに包むように気をつけているけれど、お客様目線ということだけは、わかって欲しいんですよ。32年間も百貨店にいて、それが染み付いているので。

で、10年後に、ちょっとぐらい毒を吐いても嫌われないぐらいになれたらいいなと。ビューティ業界のマツコ・デラックスさんみたいな立ち位置をひそかに目指していて(笑)。

吉川 彼女は正直だし、毒も吐くけど、あんまり相手に対して悪意を持たないですよね。この人をいじめようとか、そういうんじゃない。

曽田 でもまあ、フリーになったら、そうそうね。

吉川 吐かないと。そうでないと曽田さんの存在価値がなくなっちゃいますよ。

曽田 実は私もそう思っているんですけど。

吉川 自分らしく生きていくために、独立された気がするんですよ。

色々な経験をされて気がついたことを、自分で伝えたいという感じでしょうか。

そうなると、先に進むしかないですもんね。

曽田 そう決めてしまったんでね。後悔もしていないし、自信なんか1ミリもないけど、やっていくしかないなと。

将来に不安はいっぱいありますけど、それもいいかなと思う。色々な感情が出ては消え、出ては消え……どこかで保とうとしているけど、最終的に「それもありかな」と何事も楽観的に考えてます。

 

Interview :  Yasuo Yoshikawa

Text : Tomomi Suzuki

取材を終えて

After the interview

曽田さんと仕事をしていると、厳しいアドバイスの言葉が出てきても、そのなかに思いを感じることができたので、後から“ありがとう”って素直に感謝の気持ちが出てくるんです。

なかなかそんな人っていないなって、いつも思っていました。

独立されたお話しの中でも“1ミリも自信がない”って、自分自身に投げかけている言葉が、僕にアドバイスしてくれた時のようにストレートで大好きでした。

人に対しても自分に対しても正直だから言葉もフェアーなんだなあって。

独立しても変わらない曽田さんを感じて安心した言葉でした。

僕は何十年も独立してやってますが、今でも1ミリも自信なんてありませんので、“独立業”の先輩としてアドバイスさせてもらうなら、「それは普通ですのでご安心ください」ということでしょうか。

これからも何かあったらまた今までのように相談させてくださいね!

吉川康雄