from Japan

美容から“自分らしく”って教わった

佐藤希奈佳  三越伊勢丹 海外化粧品バイヤー

▼Profile

佐藤 希奈佳(KINAKA SATO) 三越伊勢丹 海外化粧品バイヤー

1979年生まれ

2002年(株)伊勢丹入社。新宿店に配属され、婦人肌着・婦人特選担当を7年務めた後、2009年に女性の美と健康をサポートするコンセプトショップ、ビューティーアポセカリーのバイヤーに就任。

2011年から1階化粧品バイヤーに。

2012年9月には世界でも稀有なフレグランスショップを作り、2013年3月に業界では初めてとなるヘアケア単独ショップをオープン。

2015年9月では銀座三越化粧品フロアのフルリニューアルを実施。日本のブランドだけを集めた、Japan beauty zoneを立ち上げ。

2016年4月より現職の海外事業部海外MD担当へ異動し、化粧品を通して日本と海外の橋渡しとなるような海外事業の立ち上げを行っている。

趣味はラグビー観戦

メッセージのある発信をしていく大切さ

吉川康雄 佐藤さんとは僕がCHICCAという化粧品ブランドをやっていた頃、伊勢丹新宿店の化粧品バイヤーさんとしてお会いしたのが初めてですけど、そのあとすぐに銀座三越に移動して2015年の化粧品フロア大改装の時に僕は対談させてもらって…。

これからの日本の化粧品ブランドの話ですごく盛り上がったのが印象的でした。

ところで今やっていることを教えてもらえませんか? 

佐藤希奈佳 今は日本ではなくアジア、最近ではフィリピンでお店を作っているんですけど、お客様の“吸収しよう!”っていうエネルギーがすごくって。

私はそこに“他にない独自性”にこだわってきた三越伊勢丹の特長を活かして答えていきたいって思っているんですよ。

吉川 でも正直、デパートってどこも同じような化粧品ブランドが入っていて…。

佐藤 海外でも美容とグルメって人気で、日本食はすごく興味を持たれているし、食べたらストレートにわかっていただけるからいいんですけど、化粧品って、ただそこに置いてあって塗るだけだと伝わらないことがあると思うんです。だから私は“仕上がり”を提案して、そのための美の考え方やメッセージから始まって、そこに行きつくための使い方。そんな“スタイルごとの提案” を、三越伊勢丹だから出せるメッセージとして発信しつつプロダクトを紹介していこうとしてるんですよ。 

吉川 プロダクトに価値観を繋げて紹介するっていうことですね。

佐藤 なんでこれなのかっていうことを伝えられること。

ここに来たらその良さがわかった、という価値観ですね。

私がメイクから学んだこと

吉川 でもどうしてそういう考えに至ったんですか?

佐藤 私自身、いろんなことが理由になってメイクの価値観っていうのが変わってきたというのはあると思います。

若い時は、いつも他人と比べて、鏡を見ては「私のここがもっとこうだったらいいな」とか思い、それをベースに20代になってメイクでどんどん盛っていくようになって…。

その頃の写真を見るとブサイクだなあって思うんですよ。それはやっぱり自分を活かしてないからで、作っているから可愛くないんだと思う。やっぱり可愛いなって思う子を見ているとすごくナチュラルですもんね。

吉川 今はこんなに自然なメイクと表情なのにね。

佐藤 自信がもてなかった時は、人との関係も“自分よりも相手”ってなっちゃっていたかもしれません。今思うと20代はずっと相手に合わせてきたように思います。

助けてあげるとか、尽くすみたいなのが愛情だと思っちゃって。

自分は我慢してたらいいやって思っていたんですね。

吉川 自信のない佐藤さんが無意識に依存しあうように持っていったのかもしれませんね。 

佐藤 今は逆で、お互いに対等で認め合うような付き合いっていうのを考えるようになりました。

吉川 でもそんなふうに自分を変えるのって簡単じゃないでしょう?

佐藤 前みたいなのって、結局行き詰まっちゃうから…。

でも恋愛だけじゃなく自分自身を変えたいと強く思って、いろんな啓発本を読み込んだこともあったんですけど、その頃、仕事を通して吉川さんにお会いして“自分の素材を受け入れてその良さを活かす”という考えのメイクをしていただいたのですが、それが今まで自分でやってきた“こう在りたい”みたいな気持ちで塗り固めていたお化粧と全然違っていて…。

良い意味でショックだったんですけど、ありのままの自分を受け入れるというお化粧の考えが自分の悩んでいるところと重なって、すっと入ってきたんです。

吉川 自信を取り戻したいっていう気持ちなんですかね。

佐藤 自分を好きになるとか自分を大切にするみたいなことをすごく考えるようになったのは、教えてもらったメイクの力っていうところが大きかったです。

吉川 よかったですね。すっと入っていく時期にそういうメイクに出会えて。

佐藤 女性にとってメイクをするって、“どういう自分を見せるか”ってことなんだなあって思いました。だから生き方と密接ですよね。メイクを通してそれを伝えることができる美容って、女性にとって哲学なんだなあって思いました。

自分らしくいるっていうメッセージが私にはストンと入ってきたから、その自分を信じると、いろんなものをこれからも好きになれるわけで。 

吉川 メイクの考えがそんな風に変わると、そのあとに出会う化粧品の見方も変わりますよね。

日本ブランドの魅力を伝えたい

佐藤 そういう価値観をメッセージとして発信したいんですよ。

それと、こんな気づきをもらえた日本のブランドは、まだまだ海外の女性にとって未知なので、どんどん紹介していこうと思ってます。

吉川 欧米で海外進出してる日本ブランドって大企業のものだけなんだけど、思いっきり伝統的なフジヤマ、キモノみたいなイメージのジャパンを強調してて、いつもあれって今の日本じゃないよってニューヨークの人に言い訳するんですよ。

佐藤 伝え方はそれだけじゃないのに、って思うんですけどね。

私は日本のブランドって素晴らしいメッセージが込められたものがあるって思っていますから、それを伝える価値が十分あると思うんですよ。

吉川 そういうアプローチって普通、デパートからは感じにくいから、独自の存在価値につながりますよね。

佐藤 そうですね。でもそれは海外だけでなく、日本でも同じだと思うんです。

このネットで買う時代でも、1個目は話題性でポチッとしても、どこかの時点で自分に合っているのかどうかをお店に確かめに行くって、あると思うんです。特に化粧品は五感で感じるものだと思うので、それを確認できる場所は絶対にこれからもなくならないはずだから、それを追求していくことになると思うんです。

吉川 触らないと絶対にわからないことってありますよね、例えば見た目が似てても食べたら全然違うお寿司とか。

佐藤 そこが価値じゃないですか。

吉川 食べないとわからない食と同じだと思うからインターネットだけでというわけにはいかないって僕も思います。

佐藤 感じられるお店じゃないとね。

吉川 どこにもいかなくても良くさせちゃうのがインターネットっていう発明かもしれないけど…。

佐藤 インターネットで買ってもそれを誰かに見せて楽しみたいですしね。そうしたら外に行きたくなるし、そこでショッピングして盛り上がったり。

結局ネットだけの世界にはならないと思いますね。

吉川 自分の美容で大切に考えていることとかってあるんですか?

佐藤 お風呂の時間が大好きで40分くらい入りますかね。本を読んだりする時間でもあって、思いついたことも書き留められるメモ帳なんかも置いてあるんですよ。

リラックスするためにバスソルトは必ず入れるんですけど、このSHIGETAのローズ系の香りは心地よくって最近のお気に入りです。

吉川 お塩はお湯がなめらかになるから肌にも優しいですしね。

佐藤 香るものは大好きで、中学生の頃からフレグランスに興味を持って試していたくらいなんです。最近はTOBALIっていう日本のブランドが大好きです。どこかに和を感じるようなこだわりの香りを作っているんですよ。

今日は「気分を変える3種類」、IRON WINDWHITE STORAGECYPRESS MASKを持ってきました。

吉川 美しいオブジェみたいにすごく綺麗な容れ物ですね。

佐藤 香りも共通しているんですけど日本のミニマルでモダンな美へのこだわりを感じますよね。でもこのブランドは最初に日本ではスタートしないでパリのセレクトショップColette(2017年末で閉店)でスタートしたんです。

吉川 ビジネスセンスもすごいですね。

佐藤 最後はこれ。もう手に入らなくなるけど、私のメイクを変えてくれたもの。ソリッドファンデーションですね。

私はお勧めするものがあっての仕事ですから、こういう考えにこだわりのあるプロダクトたちが存在してくれて次の時代を担ってくれると嬉しいですよね。

Photos :  Yasuo Yoshikawa

インタビュー・文 : Yasuo Yoshikawa

取材を終えて

After the interview

佐藤さんと僕は違う仕事をしているけど、今回お話しして、改めて同じ方向を向いたメッセンジャーだなって思いました。

佐藤さんの世の中に伝えたい気持ちが作り出すエネルギーは、僕の言葉が佐藤さんにインスピレーションをあげたように、僕が化粧品を作る気持ちをまた元気づけてくれるのを感じました。

こんな関係をクリエイターと百貨店が持てたら、世の中の女性たちはそれを感じてもっと楽しくなれるって信じています。

 

吉川康雄