from Japan

自分に正直に

原田麻子
「氷舎mamatoko」オーナー

▼Profile

原田麻子 ASAKO HARADA

1983年神奈川県生まれ。多摩美術大学に在学中に出会ったかき氷に衝撃を受け、それ以来かき氷に興味を持つようになる。卒業後は一般企業に就職するものの、無類のかき氷好きが高じて2016年に自身のかき氷専門店「氷舎mamatoko」をオープン。これまでにテレビ番組『マツコの知らない世界』に3度登場するなど、かき氷の女王”としてメディアでも話題に。現在も年間1000杯以上のかき氷を食べる日々。

「氷舎mamatoko」公式Instagram:https://www.instagram.com/hyousha_mamatoko/

安定よりも好きなことを

吉川康雄 どうしてこのお店を始めたんですか?

原田麻子 私の場合は、かき氷のことしか考えていなくて。会社員時代も、終業後にかき氷を食べに行くために一切残業しなかったですし。自分の人生を切り売りしている感が強くて、全然楽しくなかったんです。

吉川 安定を求めて会社員になる人もたくさんいると思いますけど。

原田 私もそれを求めていたんですけど、人間ってやりがいがゼロだと続けられないんだなって気づいたんです。お金の安定のためだけでは生きられない。それでお店を開くための貯金を始めて、最低限のお金が貯まったところで辞めました。

吉川 毎日かき氷を食べられるようになったわけですね。

原田 それが、自分の好きなかき氷を作っているはずなのに、自分で作ったかき氷は全然食べようと思わなくて、人が作ってくれたものがいいんですね。だから今も毎日かき氷を食べに行きます。うちのお店が午後からオープンなのも、午前中はかき氷を食べに行きたいから(笑)。

吉川 会社員の時は仕事の後だったのが、仕事の前になっただけなんですね。

僕も好きだけど、頭がキーンてなっちゃうからそんなに食べられない。

原田 最近のものは温度管理されてるので、ならないですね。冷凍庫から出したばかりの氷はマイナス20度ぐらいあるんですけど、かき氷に使う氷は室温で戻してから削り始めるので、マイナス5度ぐらいになっているんです。

吉川 そうなんですね! だからキーンでなっていたんだ。納得……。

僕は綿菓子みたいに細かいかき氷が好きなんですけど、原田さんのはどういう感じなんですか?

原田 いまの主流はフワフワのですけど、夏だとみんな喉が乾くので厚めに削ったり、季節や湿度によって変わります。乾いてる状態のほうが氷にはいいので、冬のほうがかき氷はおいしいと言われるんです。

東京のかき氷屋さんは、フワフワなのがベースですね。かき氷は温度がすべてといっても過言ではないくらい。屋台のは冷たい氷をガリガリ削って小さい粒にしているから、噛んだ時の振動がこめかみに伝わって寒いんです。

吉川 え~、科学なんですね!!知らないことばっかりです。原田さん、すごい!

でも、かき氷って儚いですね。

原田 とても。時間とともに失われていくので。

吉川 ゆっくり食べると水っぽくなっちゃうから一気に食べるでしょう。だからまたキーンって……。そんなによく食べるかき氷って、原田さんにとって何ですか?

原田 よく聞かれるんですけど「あなたにとって、ご飯って何ですか?」って聞かれるのと同じことで。人によって生きていくためだったり、楽しみだったり、色々あると思うんですけど、それと一緒なんですよ。私の場合は「ご飯何食べようかな?」が、かき氷に置き換わってるだけで。かき氷毎日食べてると言うと驚かれますけど、私にとってはご飯だから。「よく飽きないね」って言われますけど「ご飯食べてよく飽きないね」っていうのと一緒なんですよ。

吉川 ほぉ、そうか。

原田 かき氷は持ち帰れないから、その場で食べなきゃいけないじゃないですか。それを毎日食べるということは、自分が健康でいないとできないことだから、年間1000杯以上食べるようになってから5年間ぐらい、食べなかった日が1日もないんです。ということは、起き上がってお店に行けないほど体調崩したこともないし、風邪も引かないので、めっちゃ健康なんです。

吉川 原田さんみたいな人見たことない! ミステリアスで素敵です!

“楽しむこと”は悪ではない

吉川 コロナ禍でお店はどうでした?

原田 最初の緊急事態宣言の時もお店は閉めなかったんです。飲食だから「やらないのが普通じゃないですか?」と言われましたけど、考えに考え抜いて開けました。自分の考えはきちんと伝えて、来るか来ないかはお客さんが選ぶことだから。あの時は働いている人も多かったので、働いてる人たちが仕事終わって、ちょっと喋ろうっていうことのありがたさを感じてくれたし、正しかったとは思わないですが、私はやってよかったなと思います。

吉川 人は楽しくないとね。

原田 どんな時でも楽しいことがないとダメだし、それを追求するのは悪いことではないと思うんです。楽しいことをするのが悪みたいなのが嫌で。あの時に思ったのは、みんな気分で物を言いがちなんだなということ。結局その時のノリでしか言ってなくて、自分の言葉に責任を持ってないんだなって。お店をやることに対しては批判的な意見が多かったから、私は逆にものすごく考えました。

吉川 ただその時流のノリで発せられる攻撃って、あとで振り返って、あの時って何を言いたかったの?それが正しかったの?って思うこともあるよね。

原田 あの時は、美容院で髪切る必要はないって言われましたけど。おうちにいても、美容院でキレイにした髪で過ごすのは絶対に気持ちいいじゃないですか。意見が違うからダメではなくて、人それぞれ大変なんだからお互いに受け入れましょうって思うけど。

吉川 気持ちを上げようとするのって、大切で必要なことなんだけどね。でも何か起こると、全員がこう考えなきゃいけないみたいなのが出やすいよね。

原田 立場が違うから、全員同じわけないですよね。飲食なんて人が来なければ開けても0円だし、選ぶのはお客さんなんですよ。店は開くか、開かないかしか選べないから、売上が上がる補償なんてないし。

吉川 そういう批判の言葉や力に、いかに避けて関わらずにいくかが大切なのかなって。

原田 そういう人は何をやっても悪くとるから、人生に関係ないと思って生きていかないと。それより賛成してくれる人と楽しいことやったほうがいいですよね。

好かれる努力はしなくていい

吉川 原田さんの肌はハリがあってとても健康的ですけど、愛用品を教えて頂けますか?

原田 美容には疎いのですが、「HAKU」の美容液は雑誌で見て購入しました。高いけれど化粧品は値段に比例すると思うので、投資する価値はあるのかなと。「HAKU」はファンデーションも持ってます。

吉川 美白には気を使っているんですか?

原田 実は高校生の時にギャルだったので(笑)、ガングロまではいきませんけど日サロで黒くしていたんです。その頃に無茶したのがシミになって出てきているので、今は冬でもSPF30ぐらいのUVを塗ったり、日焼けしないように気をつけています。

吉川 肌って強いから、若い時の無茶は意外と跳ね返せちゃうんですよね。で、このクリームは?

原田 「エンビロン」のモイスチャークリーム4は、美容に詳しい友達が使ってるのを見て買いました。このクリームはビタミンAがたくさん入っていて、化粧水もここのものを使っていますけど、皮膚科でしか処方してもらえなくて。1から4まであるんですけど。2本以上使わないと次のステップに進めないんです。

吉川 ビタミンAは美容にとって大切な成分ですもんね。ところでこの金髪、すごく個性的ですけど、いつからなんですか?

原田 今年の1月からです。なんか人工的になりたいなっていう気持ちが出てきて。

吉川 似合ってるからいいですね。目の色は?

原田 渡辺直美さんがプロデュースしたコンタクト「N’s COLLECTION」で「さば定食」っていう色です(笑)。人工的になりたくて、これは地の目の色を消してくれるので。髪の色を変えてからはメイクが楽しくなりました。

吉川 よく日本人と外人の肌色って違うでしょって聞かれるんですけど、瞳や髪、眉の色を変えるとびっくりしちゃうくらい違いって無くなっちゃうんですよね。だから原田さん、人工的かもしれないけど、ある意味、馴染んでいてナチュラルだと思います。

でも、原田さんのようにそこまで自分がはっきりしていると、生きづらいって感じることとかないですか?

原田 マツコさんにも言われました「あんたみたいのは生きづらいでしょ」って。基本的には生意気に見えるのと、はっきり言うのに意外としっかりしてない。だらしないんですよ(笑)。だらしないくせに人には言うから生意気ってなる。

吉川 原田さんは誰とも似ていないですよね。お店もそうだけど原田さん自体が。

“周りと同じであること”に安心感を持てる人とは真逆の存在だと思うけど、それに対してはどうですか?

原田 その時代は2年ぐらい前に終わりました。

吉川 というのは?

原田 『マツコの知らない世界』に初めて出たのが5、6年前なんですけど、あんなに影響力のある番組だと知らなかったので、すごい反響があって。SNSのメッセージでも知らない人からいろいろ言われたりしました。

私は昔から割と許されて生きてきて、周りがみんな優しい人ばかりだった。だから傷つきましたね。攻撃的な言葉も多かったので。その頃はまだ理想の自分みたいなものがあったので、その誰かもわからない匿名の人たちの意見に影響されて、直そうとか、好かれようって思って努力してみたけど、でもやっぱり「それって嘘じゃん」と思って。

変にいい人ぶって怒らせた人もいるし、離れて行った人もいますけど、それは私の中にも迷いがあったのに、“よく見せよう”っていう気持ちがあったから。そして、よかれと思って言った“良い嘘”の引き継ぎが自分の中で出来ていなくて、すぐ忘れちゃう(笑)。私は取り繕うのがとても下手くそなんだって気が付きました。

 人は誰しもよく見られたいという気持ちは持っていると思うんですけど、大事なのは、誰に対してそうありたいか。誰のためなら自分と相手を心から大事にできるか。

吉川 確かに。

原田 でも私のこと嫌いな人は、私のことめっちゃ詳しいんですよ。めっちゃ知ろうとしてくれてる(笑)。

吉川 嫌いって、きっとある意味好きなんですよ。だから原田さんの好き、嫌いも実は好き、好きなのかも。でもそういう好きが嫌いになっちゃう人と近くにいるのはしんどいかもね。

原田 近くにはいないですね。私の近くにいる人はみんな優しいです。ちゃんと本人に足りないところを補う形で、一緒にいてくれる人は増えていくものなんですね(笑)。

でも女の“嫌い”は殆ど妬み、僻み、嫉みなんですよ。私も20歳くらいの頃は人と比べてどうかが自分の価値だと感じることが多かったのでわかります。でも妬んでる、羨ましい、ずるいって言うの悔しいじゃないですか。だから何とか違う方向から揚げ足を取りたいんです。

これは私が歳を取ったことも大きいと思うんですけど、むしろ愛おしささえ感じる時があります。直接言いに来て欲しいなって思う。そしたら「言ってやった!」って向こうもスッキリするだろうし、直接話してみたら、サッカーのユニフォーム交換みたいに、もしかして最後は仲良くなれちゃうかもしれないじゃないですか。

吉川 好きが嫌いになっちゃっている人なんて、そんなことしたら大好きになっちゃうかもね。

原田 自分に正直にいようと思ってからは、すごく楽になりました。コロナの時もそうですけど、絶対的に私のことを応援してくれる人がいるとわかっているのと、支えてくれる人がいるのが強いですね。それこそ私が何者でもなかった時から私のことを知っている友達は、私が周りから嫌われてようが好かれていようが何も変わらない。そういう人たちは、コロナ禍で会えなくても宝だなと思います。

吉川 支えって必要だよね。一人ではメンタル的にできないから。

原田 一人では強くいられないですね。絶対的に強くいられるっていうのは、今のパートナーもそうですけど、自分を守ってくれる人がいるとわかっているからで。

私は、迷った時とか何かを選択しなければならない時、“人生本番一回これっきり”って思ったら、何を選ぶかというのを毎回自問しています。そうすると、意図していてもいなくても、ふりかかった機会はせっかくだから経験してみたいじゃないですか。だってもうあと数十年で今生きてる人みんな死ぬんだもん。

だから、顔も名前も知らない人に向き合って生きている時間はないと思っていて。なので、今はすごく楽しいです。気にしなくて良い。図太くなった(笑)。

人生が一度で、出たいと言ってもらえる機会ではないメディアに対しては、気軽に楽しもうって思って出させてもらっています。だけど、それじゃぁ許せない人たちもいるんです。メディアに出るなら誰よりも詳しく知識がなければならない、みたいな。評論家みたいな像を求められる。私はもちろん評論家じゃないし誰よりもかき氷に詳しいなんて一度も言ったこと無いです。ただ異常にかき氷が好きなだけ。

吉川 評論家じゃないからこそ自分の感覚やスタイルで深くなれるよね。

原田 きちんと評論できて、これはこう、ってできる人がいるなら、「あなたが私の立場になった時はそうすれば良いと思います」と言いたい。私に役割を押し付けないで(笑)。

さっきも言いましたけど、たった一度しか生きられなくて、みんな自分が主役の人生だから、楽しく生きたいじゃないですか。実際そんなことばかりでなくても、好きなことのための苦労と、そうでないのとは違ってきますよね。好きにやるということは自由なわけではなくて自分に責任を持つということだから。

吉川 原田さんの好きなようにやっている感じがします。だからお店の雰囲気も、ここにあるあらゆる小物も、すべてが原田さんという感じで、かき氷は美味しかったですけど、それすら一部分なんだなって。ここに座っていると原田さんの中にいるみたいです。

こんな独特が当たり前みたいな人がもっと増えてくれたら、世の中楽しいですし、ピースですよね。

原田 でも、みんな世界に一人しかいないはずですよね。

吉川 そうなんだけど、現実にはそれを嫌がってる人たちが多いんですよね。

 

 

Photos / Interview : Yasuo Yoshikawa

Coordinate / Edit:Maki Kunikata

Text : Tomomi Suzuki

取材を終えて

After the interview

原田さんの個性はすごく印象的だったのですが、それでも一番印象的だったのは、僕にとってはかき氷……。

ちっちゃい時から大好きで、でも頭がキーンとしてたくさん食べられないから水を飲んで頭をあっためながら食べていたのですが、原田さんのかき氷を食べた瞬間、あまりに美味しく、未経験の味に感動!

味噌麹やゴマ、ブルーベリーやマンゴなどを使ったオリジナルのソースで特別に作っていただいたのですが、氷の温度のせいか、頭はキーンとしないで、次から次へと出てくる5種類を一気に全部食べてしまいました!!!

かき氷の観念、変わりました! でもやっぱり食べ過ぎは後で大変ですから気をつけてくださいね。

彼女の作るかき氷は、深いこだわりがないと出来ない味がしました。それは絶対評論家じゃなくってクリエーターのスタンスなんです。なんのクリエーターかって? それは原田さんから自然に生まれるものすべてで、お店に行くと感じれますよ。

吉川康雄