from Japan

心を耕すほうへ

ふくしまアヤ スタイリスト

▼Profile

ふくしまアヤ AYA FUKUSHIMA

多摩美術大学卒。ファッションデザイナーを経てスタイリストに転身し、モード誌や広告を中心に活躍。服のスタイリングを見せることよりも、アイテムの“世界観”や“温度感”を伝えることをモットーとしている。“熱量の高いもの”をこよなく愛し、全てにおいて究極に飛び抜けているものが好き。2021年秋に“NO BORDER”をテーマにしたアート作品のECサイト「ART Is.」 を立ち上げるべく、現在はその準備に奔走中。

公式サイト:https://otua.co.jp/
公式インスタグラム:@ayafukushima_

ART Is.公式サイト:https://www.art-is.net/
ART Is.公式インスタグラム:@art.is.art.is

顔はキャンパス!

吉川康雄 はじめまして。ふくしまさんのオフィスはアートがいっぱい。すごく楽しいですね、大好きです! 今日のお洋服も印象的だし、お持ちのメイクパレットもすごく強烈な色たちで、ウキウキします。

ふくしまアヤ これは新宿のオカダヤで購入したパレットです。いつも変なメイクをいっぱいしてるんです。富士山を描いている日があったり、鳩を描いたり、顔をキャンパスだと思っているので何がきても大丈夫です。

吉川 今日は僕がふくしまさんのパレットを使ってピンク眉のメイクにしてみましたけど、どうですか?

ふくしま 面白かったです! ここまでビビッドなピンクを眉に塗ったことはなかったですけど、洋服にも髪型にも合っているし、それでいてナチュラル。ピンクの眉なのにナチュラルですね。

吉川 アイデアは奇抜だけど、いつもこんな眉をしているみたいに似合っているからナチュラルだしキレイです。

ふくしま 私も、何をやっても最終的にエレガントであれば美しいと思っています。でもエレガントに落とし込むのが一番難しいんですよね。

吉川 僕もそこに一番こだわっていて…。アイデアは自由に。でもそこには広い意味での何か自分が引き付けられた気持ちを表現しないとダメなんですよ。それを自分がキャッチしているとメイクってすごく楽しい……

ふくしま 吉川さんにメイクしていただいて、本当にメイクが好きという純粋なパワーが伝わってきて、嬉しかったです。こんなにピュアな魂でメイクされる方なんだなと思いました。

吉川 ふくしまさんにはじめてお会いして、髪型や洋服やお持ちの化粧品から思いついたお化粧をしてみました。ほとんど子供が無邪気に遊ぶ感じです。

ふくしま さすがです。真のアーティストですね。今日のメイクはピュアネスがすごい! と思いました。

吉川 ふくしまさんへの肯定感100%のピュアメイクです。

ふくしま 私のピュアがこれなんですね。そういうの嬉しいですね。

みんな同じである必要はない

ふくしま 私、思ったことがあって、なんで目は大きくなくちゃいけないんだろう?って。

吉川 本当にそうだよね。

ふくしま なんで目の小さい人も大きい人も、同じように目を強調するんだろう?と疑問で。

吉川 みんな自分に生まれてきて、自分のことをもっと好きになれるはずなのに、勝手な美を強制させられるよね。

ふくしま 雑誌とか広告とか、色々なものによって洗脳されていたことが怖いなと思いました。

吉川 小さな頃から洗脳されているから気づかないし、親世代も洗脳されているから世代を超えて愛情として伝わってしまうから逃れようがない。

ふくしま あれはダメとか、これはNGとか、そういうコンプレックスの作り方もよくないですよね。自分の欠点を愛することができなくなってしまう。

吉川 とにかく人と違うということを自覚したほうがいいし、それは全然恥ずべきことではないから。

ふくしま 自分のチャームを伸ばすということですよね。吉川さんは、いつ頃からそう思っているんですか?

吉川 この仕事をして辿り着きました。僕は美意識のある家庭環境で育たなかったので、美への先入観が全然なかったから、子供みたいに「何でこうなんだろう?」っていうのがずっと消えなくて、「なんでそんなことするの?」って思っちゃうんですよ。

ふくしま きれいな心のまま大人になったんですね。

吉川 それって聞いた感じはキレイだけど生きにくいっていうか…(笑)。

ふくしま ちゃんとお仕事されてきているから説得力があります。

吉川 それでも最近は、自称ですが、結構社会性はあるつもりなんです。でも、周りの人が優しくしてくれるのは社会性がないからなのかな(笑)。

ふくしま そこを超えていくカリスマ性があるんじゃないですか。

 

宿命を感じた絵との出会い

吉川 ふくしまさんの本職はスタイリストさんですけど、新しいプロジェクトに取り組んでいらっしゃると聞きました。

ふくしま はい、今年の秋に“NO BORDER”をテーマにしたアート作品のECサイト「ART Is.」 を立ち上げる予定です。

吉川 どんなきっかけでECサイトを立ち上げようと思ったんですか?

ふくしま 「スタジオクーカ」という、色々なハンディキャップを持ったアーティストさんが100人ぐらい所属していて、アート活動をされている施設があるんです。以前からそこのインスタグラムをフォローしていて、去年のコロナになる直前に「原画は買えますか?」とお電話したら「原画に興味を持ってもらえるんですか?」とすごく驚かれて。実際に見に行ったらもう、虜で! パリコレを見てアドレナリンが出るのと同じくらい興奮したんです。その時に買ってきた絵を去年の3月末頃かな、自粛期間中に家に飾ったら絵から出るパワーにすごく元気をもらって、毎日楽しくて幸せで仕方がなかったんです。これは独り占めするのはもったいないぞと。

吉川 そこは障害者の方がアート活動をされている場所なんですか?

ふくしま 障害という言葉は使いたくないんですけど、今の言いかたでいうと、アール・ブリュットアートアウトサイダー・アートといって、絵を正式に学んでない人の絵を指します。私が惹かれたのは、彼らが売ることを目的で作っているのではなく、自分の心から湧き出る欲求をストレートに絵にしているところなんです。評価を気にしていなくて、心のままに描いている。昔からそういう熱量や純度の高いものが好きで。

吉川 100人のアーティストとは、すごい数ですね。

ふくしま 毎日描いていらっしゃるので、どんどん増えていくらしいんですよね。それで思ったのが、原画のまま売るよりも、私がスタイリングして額装することで、もっと人に価値がしっかり届くし、より買いやすくなるんじゃないかなって。

吉川 描いたものを誰かが飾って楽しんでくれたら、アーティストも嬉しいでしょうね。

ふくしま より多くの人に届けたいというのが最初の気持ちでしたけど、でも私は彼らを障害者として見ているわけではなくて、純粋にアーティストとして、非常に尊敬しているんです。私は美大でデッサンを学んだけれど、この絵は描けないし、こんな絵は見たことがないこんな風に世の中にまだ出ていない素敵のものはたくさんあって、それを私がキュレーションして世に出すお手伝いができないかなと思ったんです。

吉川 もう、やるぞ!っていう感じですね。

ふくしま 宿命を感じました。いわゆるアーティストのキャリアやバイオグラフィーを見ずに私の魂にまっすぐにセレクトしたものを、現代アートやブラジルの先住民の椅子、写真や陶、伝統工芸に書、そしてバッグやハイジュエリーなどを同列に並べて、作品の魅力だけを感じて、肩書き以外のものを信じて購入していただきたいと願っています。その為、人ありきでなく、あくまでも作品ありきでピックアップしています。

吉川 ふくしまさんが今までやってきたことにピタッと合いますよね。

ふくしま それもありました。正直、私は自分がファッション業界にいる意味がわからなかったんです。色々な人に「ファッションの人っぽくない」と言われてきたので。(笑)。

吉川 アートとファッションって、限りなく近くにあるものですよね。

ふくしま ファッションはアートを内包しないけれど、アートはファッションを内包してると思うんです。アートの中には、ファッションや建築や料理やメイクや音楽や全部が入るけれど、ファッションの中にアートは入らない。

吉川 洋服もアートの一部だし、自分の存在もアートの一部になるし。そういうアートとファッションの関係を感じます。

ふくしま 私もそれに気づいた時に飛び上がって喜んだんです。私が今まで生きてきたところはすごく狭くて、でもそこをアートと捉えれば全部入れられるなと。自分の職業も、今まで見てきた美意識も生かせると気づいた時はガッツポーズしました(笑)。

吉川 海外にいるとアーティストがファッション撮影を手伝ってくれたりもするし、アーティストがファッションを並列に見ていて……。ファッションのクリエイターもアーティストも結局同じようなところから出てきた人なんだなって最近すごく感じます。

ふくしま それぞれに対してリスペクトがありますよね。

あと私、愕然としたことがあって、美大時代の友達でグラフィックデザイナーの子と一緒に絵を買いに行ったんですけど、友達は絵の飾り方がわからなかったんです。額装がわからないし、どの部屋に飾るかもわからないし、それがいい意味で衝撃で。デザインを職業にしている人でさえ、アートは遠いものなんだなって。

どうしたら良いか分からずに、何もせずに部屋の隅に置いたままというのにビックリして。額装をして売ってみようというのは、その経験からきています。例えばスタジオクーカさんだと、額装するのはもうひとつ目的があって、ギャラリーで原画が売れた場合の取り分は、普通はギャラリーと作家さんでおおよそ半々にするんです。でも私はどうにかして彼らに最大限の支払いができないかと考えて、それで私がスタイリングすることで価値や見え方を上げようと。スタイリング料を別にもらえれば、原画代は100%彼らに渡すことができるんじゃないかって。

吉川 アートのスタイリストですね。

ふくしま そしたらお互いにハッピーだし、お客さんもハッピーだし。

吉川 額装も含めてどこに飾るとかのアドバイスもするんですか?

ふくしま シミュレーターというのを開発していて、その家にこの絵、またはこの身体にこのジュエリーを飾るとどのくらいのサイズというのわかるものなんですけど、それ以外にzoomでアドバイスも出来るかもしれないし、どこまでやろうかまだ試行錯誤中です。

心揺さぶられるものが自分にとってのアート

吉川 学校の教育で、もっと美の意識を勉強する環境があったほうが、多くの人にとって絶対人生が豊かになるのにと思います。

ふくしま 教育には言いたいことがいっぱいあるんですけど、笑、美術の採点とかも、まず点数つけるのやめようよ!て思うんですよね。アートって何があってもいいじゃないですか。感じたままに、何を描いてもよしとしないと、楽しいに行くまでに終わってしまう。

吉川 アートって自分の自由な感性を表現するものなのに、そこに評価をつけちゃうなんて、あなたは何点っていってるようなもの。そんなの絶対楽しいわけない。

ふくしま 小学校の段階でも点数をつけるのがおかしいなって。自分もそこにどっぷりいて違和感もなく大きくなりましたけど、彼らの作品を見ると感覚が揺さぶられて、素晴らしいじゃないか!と。例えば、スタジオクーカさんのアーティストさんたちは絵なんて学んでいなくて自己流だし、誰かに褒められるために描いていないけれど、なんともいえない力強い魅力がある。何より陽のパワーが強烈で、自分の中にグッと沸き起こるものがありました。

吉川 いろんな人のそれぞれ違った感性や才能って、実はものすごく社会にとって大切なものだって思うのに、そこでマルバツをつけてマルを目指させる社会ってすごくかたよっちゃう。空の色を青くしないと点数をもらえない社会の考えがすごく残念。

ふくしま 個性を尊重して伸ばしてあげるのがいいし、特にこういう時代こそアートは光だなと思うんです。心を豊かにするものが必要。

吉川 こういう人たちや作品を、社会にもっと堂々と見せたい、伝えたいって思うよね。

ふくしま どちらかといえば今まで隠されてきてしまっているので、見せ方も福祉展とかアール・ブリュット展とか隔てられてきたんですよね。でもその時点で人の心って距離が出来てしまうから、私は彼らを一人のアーティストとして、障害者と一切書かずに売りたいんです。でもそれって、まだ誰もやっていないことで。アーティストの受賞歴とか、どこの大学を出ているとか、そういうことを一切取っ払って売っているプラットフォームが世の中に存在しないので、私がそれをやろうと。正当な価格で販売して、安売りも値下げもしないし、蘊蓄じゃなくて私が惹かれた理由だけで売りたいんです。

吉川 ピカソならいいとかじゃなくて、自分にとって価値があればなんでもいいわけで。いつか、そのひとの感性で美を楽しめるような学校教育に変わってくれたらいいのにね。

ふくしま 心が揺さぶられるものであればいいと思うんです。あともう一つ、投資のためのアートはやりたくないんです。マネーゲームじゃなくて、心を耕すほうのアートをやりたいので、純粋に心を温めたい、照らしたい。耕したい人に売りたい。

吉川 日本ってすぐに「本物か?」とか騒ぎ立てますよね。

当事者目線で見ることの大切さ

ふくしま 少し話が逸れますけど、渡辺直美さんの衣装を担当した時に、プラスサイズの人がおしゃれになれる服の選択肢がないことを初めて知ったんです。それまで私は自分の体型とモデルの体型を基準に生きてきて、そういう目線で服を見たことがないことに気がついて。そういう人の側にいたり触れていないと、一生理解しないまま終わっていたのかもしれない。

吉川 ファンデーションの色にも標準色という表現を使っていたりします。肌色に標準とかつけちゃうのって、それ以外は何ってなりますよね。

ふくしま トレーナーあります、スウェットもあります、だけどドレスはないとか。ハイヒールやブーツもないし。

吉川 標準という意識のもとにそれ以外を切り捨てるって、問題を意識していかないとなくならない。

ふくしま そういう仕事したいなと思いました。私は心を耕すほうに行きたい。

吉川 でも間違いなく、それだけで一生終わっちゃいますね。終わりがないから。

ふくしま 確かにそうなんですよね。

本当に今日のタイミングで吉川さんに会えたことも奇跡で、心強いというか、海外で思いをもって活動されて、ブランドもやってみて、まだ叶えたいことがあるから自分のブランドを立ち上げて諦めずに動き続けている。戦い続ける思いが自分を突き動かしている素敵な例に会えました。

吉川 僕は自分のメッセージや活動をマイノリティとして終わらせようというつもりはなくってメインストリームを目指しているんです。でもそれを決めるのは世の中の女性たち。もし彼女たちが「そんなのどうだっていい」と思うものなら、僕の活動は形にならないし、「絶対に必要!」と思ったら残るものだと思う。それを無理してどうこうするつもりはなくて、残念だけど僕が続けられなかったらいつか誰かがやるかもしれない。もしかしたらその時には伝わるかもしれないし。

ふくしま 私もこれから立ち上げるECサイトを大きくするイメージはなかったんですけど、一緒にブランディングを考えてくれている人に「これはマイノリティで終わったら意味がない。メジャーになることで価値が生まれるから、そこまでやりましょう」と言われて、一から奮い立たされました。

今こそ日常に美意識を

吉川 僕はアートはライフスタイルだと捉えているので、みんながもっとライフスタイルを大切にしたら、自然とアートの敷居は下がるはずだと思うんです。コロナのステイホームを経て、そういう部分に目を向ける人も多くなりつつあるのかな。

ふくしま コロナの一過性で終わって欲しくないですよね。インテリアに限って言うと、なんで多くの日本の人ってイケアとニトリと無印で考えちゃうんだろうって。

吉川 作っている箱がどうしようもないし、街を美しく発展させようという気概を感じないよね。家具とかも海外の場合、良いものは値段が下がらないのに。

ふくしま 日本はコンビニ的な感覚で、今さえよければいいというか即物的ですよね。100均とか確かに便利で安いけど、プラスチックのゴミを増やすのをやめて……って思います。

長い目で見たら、ずっと愛せるものを買った方が、人もモノもハッピーなのにと思います

吉川 値段が高いものに憧れるとかではなく、目の前にどれだけ綺麗なものがあるかだよね。自分の環境を自分のように愛してあげること。

ふくしま 美意識の問題ですよね。お金があるとかないとか、そういうことではなくて。お金がなくてもいつかはそれが欲しいとか、そういった目線、気持ちが世の中を豊かにすると信じていて。

それにしても吉川さんとは美に対する思いが共通していたり、初めて会った気がしないです。

吉川 社会に対する思いとかもね。

Photos / Interview : Yasuo Yoshikawa

Coordinate / Edit:Maki Kunikata

Text : Tomomi Suzuki

取材を終えて

After the interview

はじめてふくしまさんとお会いして、その瞬間から話が始まって盛り上がり、メイクが始まりました。まるで5、6歳児の気のあった子供同士が、思いっきり遊びに没頭するような時間。
お互い無邪気なまま育ったからなのか、話すほど、どんどんインスピレーションが湧いて楽しくなっちゃうのです。

僕とはまた全然違うことをしてきた人生のお話しでしたが、人としてのベースが同じだからか、まるで自分の擬似体験のように感じてしまう、ちょっと不思議な時間でもありました。

アートもファッションも美容も本来は人生を楽しくさせてくれるもの。それを感じられるなら、眉がショッキングピンクでもなんでもOK。人がそれぞれ違うなら、楽しくさせてくれるものもそれぞれに違って当然で、それはその人にとってナチュラルなんですよね。

吉川康雄