集中と解放のバランスを保つライフスタイル
吉川康雄 吉浜にあるこの家は、SAKURAさんにとってどういう場所なの?
SAKURA 週末を過ごすセカンドハウスでもあるけれど、ロケーションスタジオとしてや、ブランドとのエクスクルーシブなコラボレーションの体験会など、ビューティを発信していく空間にもできたらと思って、『スタジオS』と名づけました。
吉川 僕もブルックリンに住んでいた頃、都会で仕事していると、忙しすぎて気持ちが安まらず、キーってなっちゃって耐えられなくって……。そんな時、森の中にあるカントリーハウスに行ってよく仕事をしていました。忙しくって自然を楽しむ余裕はなくても、朝起きたら鳥のさえずりが聞こえてきて……。仕事に行き詰まったら家の周りを一周して雑草取りをしたり。
SAKURA 自然はリフレッシュになるわよね。
わたしも普段は東京に住んでいるので、ここに来ると海や空、風を感じて気持ちが解放されます。でも、常に交感神経がONの状態(笑)。わたしは、歯の噛み締めがひどくて、夜はマウスピースをしないと眠れなかったり……。去年から約1年間もじんましんが出ちゃって。
吉川 えっ、一年間も!?
SAKURA 自分の体にもう一度向き合おうと思った中で出合ったのが、「エリートナチュレル」の「オーガニックコールドプレスドリンク」。こういうフレッシュなオーガニックドリンクや、イギリス王室キャサリン妃も愛飲している「有機コーディアル」というハーブドリンクを生活に取り入れることで、免疫力もあがってだいぶ良くなりました。
吉川 SAKURAさんはずっと忙しい人生を送っているから、頑張ることが癖になっていると思うんだけど、体は正直だから……。
SAKURA そうかもしれないけど、進まないとね。海外に一人でモデルの仕事をチャレンジしにいって、長年“SAKURA”という看板をしょって歩んできたから、タフにできているのかな。
逃げずに立ち向かってきたから今がある
吉川 SAKURAさんがパリにいっちゃったのは、いつでしたっけ?
SAKURA 1989年。日本がバブル期に向かっていくとき。
当時は日本で広告の仕事をたくさんしていたけれど、インターナショナルなファッション誌がなかったから、『VOGUE』に出たいとか、海外のショーに出てみたいという強い思いを抱いて、パワー全開でパリ・ミラノに行ったのが良かったのかな。若かったから怖いもの知らずだったしね。
吉川 スーパーモデルが全盛でいちばん華やかだった頃ですね。
SAKURA そう。当時パリで同じ事務所だったスーパーモデルの“カーラ・ブルーニ”が、エージェントのドアをバーンと開けて入ってきた瞬間驚いてね。ミニスカートとジャケット、シャネルスーツを着て、両手にはブランドのショッピングバッグをたくさん持って「ボンジュール♪」って華やかに登場!「えっこれがモデルなんだ!」って度肝を抜かれて(笑)。
私なんか白いシャツに穴の開いたデニムという、当時の日本人モデルの基本みたいな格好をしていたけれど、「わたしもコンサバスタイルでかっこいいモデルに見せたい!」と思いましたね。
時にスーパーモデルと一緒に仕事をすることで、プロのモデルの本質を体感し、モデルという仕事を突き詰めようと思いました。帰国後も何年かモデルの仕事に集中しましたが、モデルだけではなく違う表現にも興味があるのかもしれないと考えたり。何をしたらいいかわからなくて、悶々とした時期もありました。
吉川 今はモデルだった頃と真逆のとこから見ているんだよね。
SAKURA ジャーナリストの肩書きをつけて18年ぐらいになるけれど、モデル・ビューティジャーナリストという肩書きにしているのは、モデルの時代があったから今の私があると思っているから、自分のアイデンティティにしようと。
始めた頃は、私は書くことのプロではなかったけれど、ジャーナリストという肩書に見合うように自分の連載は自分で書かないとダメだと思って、ずっと書いてきました。上手くはないかもしれないけど、私にしか書けないことを書かなくてはって、いつも思っています。
吉川 SAKURAさんには、培ってきた経験と、前に進むエネルギーをすごく感じるな。
SAKURA 目の前に起きるちょっとしたことから大きなものまで、立ち向かうにはパワーが必要だけれど、逃げずにやってきたからこそ、次のステージに登れたと思う。モデルからビューティジャーナリストに変化しながらも、こうやって30年間メディアに出続けられるのは、真面目にやってきたからかな。
吉川 過去の自分があって、今の自分があるわけだからね。
SAKURA 自信があるかどうかはわからないけれど、揺らがない強さはある。というのは、一度もこの仕事を嫌いになったことがなく、どんなにイヤな思いをしたとしても、この業界でしか自分は生きられないと割り切って、ちゃんと向き合ってきたから。
吉川 ただのトップモデルの人だって思っていたんだけど……(笑)。
SAKURA せっかくチャンスがあるから成長したいなと思って。今の仕事の方向転換のきっかけになった「anan」(マガジンハウス)のビューティ連載では、6年間ライターさんにリライトしていただきながら書くことを学びましたし、大学の講師の仕事にもチャレンジしたり。常にチャレンジャーの立場で続けてきたことが良かったんだと思う。
いろんなチャレンジが成長の糧に
吉川 大学の非常勤講師は今もやっているの?
SAKURA 毎週金曜日、神戸の大学に教えに行くのを10年間続けていたんですけど、最近卒業させてもらいました。
吉川 僕も1度だけSAKURAさんにゲストとして呼ばれて参加したけれど、あれを毎週やっていたら相当なパワーを使うよね。
SAKURA 当時は、自分は教えるプロではないし、トークショーで話すのとは違うから、最初は絶対にできないと思っていて。頭が真っ白になって喋れなかったり、泣きそうになって落ち込んだことも数えきれないほどあるけれど、授業が終わったらまた来週も行かなくてはいけないというルーティンから逃げられない(涙)。
でも学生ってすごくピュアで、とってもキレイ。若いエネルギーが渦巻いていて、あの場に行くことによって自分もこのパワーを吸収し、良い循環になっているんだなと、始めてから少し経って気づきました。
吉川 モデルというキャリアの次のステージを歩いてる感じですね。
SAKURA 毎週90分の講義は大変ですけど、自分自身の勉強にもなると同時に、自分の講義を受け終えた学生たちの提出するレポートを読んで、何か伝わったんだなという実感もあって、教育の醍醐味を感じ素敵なことだなと。親でもないのに自分が発信したことで、学生たちが具体的にやりたい仕事や夢を描くなんて。
吉川 あのくらいの世代の人たちって、経験をもったプロフェッショナルな人の話しにとっても興味があるんじゃないのかな。たとえ親がそうでも他人からちょっと違ったアングルで聞いたほうがいい時もあるし。
SAKURA 例えば、ブランドの魅力を伝えるのに、ブランドの歴史やトレンドはどういう風に生まれるのか?ブランドの過去・現在・未来を考察し、自分の体験も交えながら伝えてみるなど、様々な角度からブランドの本質を伝えてみたり。吉川さんにも帰国中に神戸までお越しいただき大学で講義をしていただきましたが、吉川さん自身の過去・現在の作品を見せて直接解説してくれたりすることで、世界的に活躍されるアーティストとしての本質、また「キッカ」のクリエイティブディレクターとしての深みが当時の学生たちにも伝わり、一生忘れられないぐらい貴重な体験だったとレポートにもありました。
吉川 普段学校で学ぶ知識も大切だけど、SAKURAさんの経験とパーソナリティーがあってこその講義だから何かを感じれた……? きっとみんなにとって大切な時間だったろうな……。
SAKURA 色んなことを通じて学生の本音も聞けたし、何より夢を与えられたのが良かったな。
そういえば、講師をやっていた10年間、1度も風邪を引かず熱も出さなかったのに、辞めた半年後に高熱が出て、そこから半年の間、ずっと風邪が治らないということがあって(笑)。人って緊張感を抜くと、こんな風になるんだと思いましたね。
世界のトップモデルもコンプレックスの塊!
吉川 SAKURAさんは19歳からモデルとして活躍して、普通の人たちが経験できないようなことを若い時にいっぱい学んだと思うんだよね。きっと、いろんな人にいろんな良さを褒められて、「え! そうなんだ? ここもキレイ? あそこもいい? そっか、そのままでよかったんだ」って。そうゆうことって自分の人生のいろんなインスピレーションになったんじゃないかな。
SAKURA そうですね。今もそれが自分のエンジンになっていると思います。
吉川 そういう経験が少ない一般の人たちや悩んでいる人たちにこそ僕も声を上げなきゃって思うし、SAKURAさんの大学での10年間もきっとそういうことなんだよね。もしモデルの経験がなかったら、いろんなことになかなか気づけなかったかもしれない。だけど、一番感受性が繊細な10代での気づきって大きいんじゃない?
SAKURA 人生の早い段階で感じとれたのはよかったかも。
それにモデルといえど、プライベートを見ると全員コンプレックスがすごい。こんなに完璧な、世界のトップに選ばれるような、パーフェクトに見えるモデルたちにもコンプレックスがあるんだと知ったとき、私ももちろんコンプレックスだらけだけど、向き合える気持ちになりました。
吉川 僕も同じような経験がある。あ、みんなも僕と一緒で大したことないんだ、自信ないんだって(笑)。
SAKURA 全員そうですよね。普段はそれを感じさせないけれど、ふっと垣間見られる瞬間に立ち会えたのは良かったな。
吉川 ヒラリー・クリントンさんの撮影をしたときに、ファッションカメラマンの巨匠リチャード・アヴェドンさんと初めて仕事で出逢えたんです。彼は僕の憧れで、最も会ってみたかったクリエイター。いつもどんな人なんだろうって想像してたくらいなんです。その日、ヒラリーさんと仕事をしたことがなかった彼は、僕のところにやって来て「ヒラリーさんってどんな人? 怖くない?」って聞くから「いや、すっごくいい人ですよ」って答えたな(笑)。
SAKURA 素直に聞いたところがかわいいですね。
吉川 こんなわけのわからない、アジア人のメイクさんに、あの世界のリチャード・アヴェドンが「どんな人?」って聞きに来た。変なプライドも自信も持たない、やっぱり彼は作品から滲み出てるパーソナリティーそのものだったなって。凄いなって思えてなぜか嬉しかった。
SAKURA それって一生忘れられない瞬間ですよね。
吉川 さっき話していた、SAKURAさんのスーパーモデルのコンプレックスを垣間見た瞬間と一緒だと思う。
SAKURA みんなが持つ太る恐怖とか、甘いもの、チョコレートを食べたくても普段我慢しているから朝一番に少量食べるなど(笑)。みなストイックにコントロールしてる。
自分を輝かせる方法を伝えていきたい
吉川 世界一の美女みたいな人たちに会っているのに、性格がすさんでいて全然魅力的に見えなかったり。それはそれでデカダントなビジュアルにはなるんですけどね……。そうすると、例え顔の皮一枚が美と判断されても、いわゆる魅力っていうのとは全然違うんだなって。
SAKURA 誌面でキレイを提供することはできるけれど、それが本当の美しさかどうかはわからないですよね。美しさの表現は本当に幅広いし奥深い。キレイって、メイクでも着ている服でもなくて、その人自身なんだと思う。
吉川 SAKURAさんがモデルやジャーナリストの経験を通じて培ってきたキレイになるということのメソッドとかは、みんな知りたいんじゃないかな。
SAKURA 私が今経営に携わるモデル&アーティスト事務所イプシロンには、プロフェッショナルなレジェンドジャーナリストから美容家まで多く所属されているので、そういうチームをプロデュースし、美しい生き方に関する教育に携われるしくみをつくれないかな?とずっと思案中です。せっかく大学で10年間教育について学ばせていただいたので。
吉川 ほとんどの人が一度といわず傷ついているわけで、そんな自分に自信をつけさせることって大切だと思うから、そういうのを教えてくれる場所があったら素晴らしいよね。
SAKURA ビジネスとして成り立たなくてはいけないけれど、純粋に伝えたい気持ちもある。このバランスが取れていないと上手くいかないと思うけど、残された人生で今までやっていないことにチャレンジしたい。ずっと考えてきたことを行動に移したいなという気持ちはあります。
吉川 僕も世の中に伝えたいメッセージが湧き出ていて、それを表現出来る化粧品を研究していこうと思ってるんです。世の中に絶対必要なものだって思うから。
SAKURA それなら吉川さんと一緒に何かできたら面白いですね。価値観も伝えたいこともとっても近しいと思うから!
Photos / Interview : Yasuo Yoshikawa
Text : Tomomi Suzuki