from Japan

LOVE YOURSELF 〜美人の定義なんていらない

▼Profile

Born in 1977, Anna Osada is a writer and beauty journalist. After working in sales at an online company, she became a freelance magazine editor, and now regularly contributes to women’s magazines and beauty websites. Osada also recently published a best-selling book on embracing one’s own unique beauty, available in bookstores throughout Japan.

 

 

長田杏奈・美容ライター
1977年神奈川県生まれ。ライター。ネット系企業の営業を経て週刊誌の契約編集に。フリーランス転身後は、女性誌やwebで美容を中心にインタビューや海外セレブの記事を手がける。近著に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)。生花を使った花飾りを作るユニット「花鳥風月lab」主宰

長田杏奈 対談 吉川康雄

いろんな個性を美容で

長田 一時期、美容整形のタイアップページをよく作っていたことがあったんです。あらすじとしては、恋愛や仕事などのいろいろな悩みがあって、そのすべては顔が原因である。そこで、悩みの元である顔を整形で変えたら“人生が変わって毎日が輝いた!”という話にまとめるんですけど。最初に会った時には個性的で色とりどりだった顔ぶれが、先生のセンスにのっとった“何となく似た正解の顔”になって終わる。ご本人たちがハッピーになったならいいんだけど、世の中的な美に合わせることがハッピーエンドでいいのか、それ以外の選択肢はなかったのかとか、毎回ジレンマを感じてガクッと疲れる取材だったんです。

なんなんでしょうね?

吉川 顔の悩みって深いから色々考えちゃうよね。

長田 コンプレックスから解放されてハッピーならいいんだけど、そのコンプレックスの元凶となった本質的な部分は、全然触れてない気がしました。

美容業界に携わるものとして、ただ綺麗な“正解の顔”のビジュアルを見せて、そうじゃない自分を感じさせ、“こうメイクして、こう痩せて”みたいにしないと自分の美しさを認められないように刷り込んでしまうことに罪悪感があって……。誰もが手放しで認めるような美への憧れはあるけれど、画一化された美の正解ばかりを取り上げてコンプレックスを植えつける行為は、美容のダークサイドだと感じます。だから、これからは、それぞれの個性でしか表現できない魅力が一目でわかるようなビジュアルと文章で後押ししたいって思うんです!

吉川 そういうのが嬉しい人はいっぱいいると思うな。

むかしは“おちょぼ口”だけが美人だったのに“大きいのも大好き!”ってなっちゃったみたいに…。

長田 ほんとですよ! 一時期は安室ちゃんみたいな細眉がブームでみんな躍起になって眉を抜いたり剃ったりしていたけど、今は太いのがおしゃれだよ!となっているし。その時は絶対に思えても、美の基準なんて簡単に移り変わる。

吉川 デブかな?って思われていた体型は魅力的だったとか…。

長田 ジェニファー・ロペスやキム・カーダシアンの登場で、カーヴィーボディの魅力をみんなが思い知りましたよね。どんなボディタイプも、蔑む言葉ではなく、賛美する言葉で語り合いたい!

モテって一体?

吉川 例えば、ポッチャリさんが好きな男性はいっぱいいるのに、“モテるぞ”みたいな記事になるとなぜかそこは排除されて、「痩せよう」みたいな話にされません?

長田 このweb時代、日本では“モテ”って入るだけで記事の閲覧数が上がって、数字になるんですね。そうなると特にエビデンスのない記事でも、たくさんの人に見てほしいから“モテ”という言葉をつける。“こういう女はダメ!”みたいに、現実よりも厳しい、想像以上のモテルールが勝手に膨れて脅してる。

吉川 よく、合コンとかでモテるには?みたいなことを訊かれるけど、

僕は仕事とかで会って、何度も会ううちにお互いを知って付き合うとことが多かったから、ピンとこなくて。

いつも会う人なら、自分を取り繕えないし生き方も見えるじゃないですか。

合コンで素敵に見せてる人は、本当のところは謎でしょう?

日常で出会う人がいるのに、それはさておいて、一生の伴侶を探すために合コンに行くっていう感覚が、よく分からないんだよね。

長田 日常で会う人にピピッとくる人がいないから、新しい出会いの場所で第一印象でモテたい、ということですかね。人として深く知り合う以前の、野生的な直感でグッとこられたい。出会いや初対面の間口を広げたいという、切実な気持ちがあると思います。

婚活リップ

長田 私の周りには、エッジのきいたイケてる女性がたくさんいるんですが、そろそろ婚活しなきゃってなると、コンサバにしなきゃとか、モードなメイクをやめなきゃという話になるんです。

吉川さんは、婚活リップって知ってます?

それを塗るとみんなクセがなくなって品良く大人しそうに見える、婚活の王道リップなんですよ。

吉川 作ってるコンセプトがすごい…。で、使ったの?

長田 勇気や自信をもらえる女性は多いだろうし、もしかしたらそういうリップを塗った顔が好きな男性はたくさんいるのかもしれません。でも、いい感じに個性を育てた大人の女性が塗るには、あまりにも無難に思えてしまって……。

私はモテメイクの取材をすると、反動で激しいリップを塗っちゃうタイプなので…。

拒否反応ですね。

間口を広げたいらしいんですよ。くせのないルックスになって。

吉川 合コンで間口を広げても、誰がいいのかますますわからなくなりそうだけど。

長田 今は合コンだけじゃなく、マッチングアプリもありますね。

吉川 じゃあもっとだね。

その日だけの婚活リップで、見栄え良く作られた経歴の人に会って、現実と違っても後悔しないのかな。

長田 蜃気楼を見せ合って、様子を探るファーストコンタクト。

真面目に出会いを追求するなら、ある程度自分の内と外の一致を目指してもいいんじゃないかなって思うんですけど……。

吉川 そしたら自分らしさを好きになってくれる人と恋愛できるよね

長田 自分らしさと一致した魅力で訴えかける「NEOモテメイク」が必要ですね。

愛着が綺麗を支える

吉川 例えば一流の女優さんを考えてみたら?
彼女らは誰かみたいになろうなんて思わずに、
自分の顔の魅力を探して素敵にって思っているはず。

長田 私は、女優級の美を発見できなくても、とりあえず毎日自分の顔にメイクやスキンケアすることで、愛着が湧いたら儲けものだなって思うんです。香りやテクスチャーが心地良いクレンジングミルクで気持ちよく顔を洗ったり、お気に入りのクリームをやさしく塗っていたわりながら、ありのままの今日の私を愛でる。慌しく毎日を過ごす中で、スキンケアの時間ぐらいは、自分と向きあっていたわる時間にしたいですよね。

もういくつリピートしたかわからないクレ・ド・ポー ボーテのUV下地。日焼け止めには、全アイテムの中でいちばん投資します。塗りたくなる感触と機能だから続けられます。

疲れた肌も、生き生きと見違える最近のお気に入りは、みかん色の血色。

大人に似合う、鮮やか過ぎず元気過ぎないくすみオレンジにはまっていて、このセルヴォーグRMKをよく塗っています。

唇はマットな気分の時はちょっと透け感のあるシャネルのルージュ アリュール リクィッド パウダー。つやがほしいときはパープルニュアンスが好きなので、このサンローランキッカが好きです。

吉川 自分に対する愛着と綺麗の知識が直結してますね。

長田 だけどこの前、お花持って歩いていたら、おばあちゃんに“お花素敵ね”って話しかけられて“今、活けてきたんです”って答えたら“私も若い頃は綺麗な人がいいって思っていたけど、今は心の豊かさが一番だと思うから”って言われて…。“それ、どういう意味?”って(笑)。

男の子にも“俺は顔とか見た目じゃなくって内面がいいって思う”って褒められて“えっ、顔は?”ってなっちゃって。

吉川 ひどいね(笑)!

長田 自分の顔、嫌いじゃないから全然余裕ですけどね。ふふふ。

吉川 そうか。自分はイケてるってちゃんと思えてないと、笑えないってこと?

長田 そうですね。じゃなきゃこうして笑って話せないかもしれないです。

大人キレイを発信したい!

長田 吉川さん、北野武さんの映画で『アウトレイジ』のシリーズって観たことあります?

吉川 見てないけど男っぽいやつですよね?

長田 そう、西田敏行さんが出てくるんですけど、目袋のあたりがオランウータンみたいになっているし、他のキャストもなかなかすごい形相なんです。決して若くない、くたびれて味が出た男たちの顔の迫力に、夢中で魅入っちゃう。そういう顔の魅力の受け止められ方って、女の人に対してはまだないのかなぁってもどかしい。ビューティー的見地から、NGとされがちでしょ。

吉川 だけど同時に若くて可愛い男の子も好きでしょ?

長田 そうですね、たしかに。

この最近の役所広司のアーティスト写真を見ていただきたいんですけど、メチャクチャいい顔になったなあって思っていて…。私、それを加工アプリで、シワとかカゲを消して、若い感じにレタッチしてみたんです。

女性に対しては、こう加工が良しとされがちでしょう?

吉川 役所さん、バカバカしいルックになっちゃって!それっていいの…?

だけどこの歳とった素敵な役所広司も、綺麗なわけじゃないよね。

めちゃ可愛いくて綺麗なジャニーズの男子と並べたら、輝いて見えないかもしれない。役所さんは喋って、動きも入って、よく見えるってことでしょう。

長田 すごく素敵な大人を、こうリタッチしないで…。

例えば松本千登世さんのような透明感のある方と話していて、笑った時に目尻にスッと微笑みのやさしいシワが入るっていうのは最高って思って、そういう瞬間をもっと見たいし、作品としても見せたいなあって思うんです。時が味方した、大人の動の美しさを!

吉川 大人のピュアーネスですね。

その瞬間の魅力を美しく切り取れるカメラマンが必要!

長田 見て、一瞬で感じて欲しいですもんね。

原稿を頑張ってメッセージが良くても、ビジュアルで説得できなければ、“あ〜、現実はこれ?”ってがっかりさせてしまうから。女性の未来に待っている夢を証明したい!

 

大人キレイのメンタリティー

吉川 僕が昔NYで出会ったトップモデルはすでに40過ぎて50近いけど、あの綺麗を維持するプロでさえ昔の美しさとは違う。美を極めても、必ずどこかで“元美人” 扱いされちゃうんですね。昔と同じではない自分を魅力的だと思えるかどうかって、全ての女性に突きつけられると思うんですよ。

長田 私は北欧の小説を時々読むんですが、リアルな歳の重ね方を隠さない女性のセクシーなシーンもあったりして、歳をとることを恥じたり隠したりする感じがなく、年齢と女性の魅力の相関関係が日本ほどエグくないっていう感じがします。

吉川 日本は男性もね、大人の女性に向かって、“その歳で…”とかいうリスペクトのなさ。大人女性への意識は変わるべきだと思う。だけどそのすべを考えるより先に女性に根付いてしまったネガな気持ちを少しでも変えていきたいなあって。

長田 男の人を変えるのは難しいと思うから、私は女性に向けて“美容は自尊心の筋トレ”というメッセージを送っています。女性がセルフコンフィデンスを育むことができれば、男の人も次世代は変わるって思うので。

吉川 大人の女性も綺麗だよって、男女ともに分かればいいだけのことなんですけどね。

長田 女性自身も歳をとった自分の見た目に対して、「お見苦しいのでは?」みたいに、後ろめたく思って卑下してしまう部分がありますしね…。みんな年は重ねるし、若い頃が最上って思って寿命100年時代を迎えたくない。

ネットフリックスの番組で“クィア・アイ”という人気コンテンツがあるの、ご存知ですか? ゲイの5人組がインテリア、フード、美容、ファッション、メンタルで悩める人をメイクオーバーするリアリティ番組なんです。その中で“LOVE YOURSELF”っていうメッセージが強く打ち出されていて、“自分を愛せないと、真の意味では他人を愛せない!”という大切なことに気づかせてくれるんです。

吉川 そんなメッセージは日本では聞けないね。

長田 だけど必要ですよね。

自分を大切にするって、決してエゴイスティックに甘やかすことじゃなく、自分を受け入れることだと思うんです。嫌いなところの方が目につきやすいけど、いかにいいところを見つけて伸ばして愛でるかというのは、もう努力と意識ですよね。

大切な人に愛情を込めて励まされても本来の自分像とはズレていたりするし、他人からのケアで根本的に満たされるのって難しいしアテにならない。

真の意味で自分を大切にしてあげられるのって、自分しかいないのでは?と思っています。

 

個性あるキレイを発信したい!

長田 来日していた外国モデルが、すごく素敵な作品が撮れたのにモニターを見ず、“自分の見た目が嫌いなんです”って悲しそうな顔をして。すごくびっくりしたことがあって。

吉川 モデルも正統派美人ばっかりじゃないから、個性で勝負!っていうくらいまでメンタルがいかないと大変なんだと思う。

長田 ファッションの世界では個性があるのがオシャレという風潮が強いように感じるのですが、ビューティーの世界ではまだ時間がかかるのかな……。

吉川 きっと世界的に美人の定義って無くなろうとしているんですよ。

いろんな魅力があるっていう考え。僕は共感するな。

長田 去年のNYファッションウイークで、リアーナが、SAVAGE X FENTYのショーでさまざまな肌色・顔立ち・ボディタイプのモデルを起用して、多様な個性のカッコ良さを思いっきり見せつけたじゃないですか。申し訳程度の配慮じゃなくて、一歩進めた賛美! 私も美容の仕事で、いろいろな個性を賛美して、見た人が心から“あっ、美しい”って思えるような説得力のある表現をしないといけないって感じます。

そのためには世の中的に大正解と褒めそやされるような美だけでなく、とりこぼされがちな多種多様な綺麗を感じ取れる、ピュアな審美眼に磨きをかける事が大切ですよね。固定概念にとらわれると、見えなくなってしまう美もありますから…。取りこぼされた美を、自分で見るだけじゃなく、その眼差しをおすそ分けできるようになりたいです。

Photo : Yasuo Yoshikawa     Make up : Yasuo Yoshikawa

インタビュー・文 : Yasuo Yoshikawa

取材を終えて

After the interview

長田さんの美容に関わる表現には、デリケートな感性と強いメッセージを感じていつも気になる存在でした。
彼女の著書『美容は自尊心の筋トレ』もめちゃくちゃ好きだったし…。
このインタビューでも目をキラキラさせながら“これからの美容が女性たちの個性をもっと後押しできるように”とおっしゃってました。そのためのこだわりは“女性の見た目の悩みと直結している美容だからこそ、そのメッセージはいいビジュアルなしでは届かない!”とのこと。
僕も大賛成!その個性でしか表現できない圧倒的なビューティーを一緒にやりたいですね。

吉川康雄