from Japan

人に喜んでもらうことが幸せ

中村育美
ヘアデザイナー

▼Profile

中村育美 IKUMI NAKAMURA

新潟出身。“髪を健康で綺麗に育むこと”をコンセプトにしたヘアスタイルを提案する、表参道のヘアサロン「sui」に在籍。ショートやボブ、ミディアムヘアを得意とする。プライベートでは2児の母。
sui公式サイト:https://sui-beauty.net/

出産して働き方に変化が

吉川康雄 お子さんが二人いらっしゃるんですね

中村育美 はい。5歳の男の子と3歳の女の子で、毎日バタバタです。出産前はヘアメイクの仕事もしていたんですけど、まだ突然熱を出したりする年齢なので、今はお受けしていないです。正直、今は子育てが一番なので。

吉川 今まではサロンワークもしたい、撮影もしたいとか、色々やりたいことがあったと思いますけど、子供が生まれて忙しさで変わっちゃいますよね。

中村 今後のことを考えるにあたって、出産は大きかったですね。あと、産後しばらくしてから円形脱毛症ができて、あれはショックでした。

吉川 それは精神的なことから?

中村 たぶん精神的なことでした。その時はあまり感じているつもりはなかったので、初めて体に出てきたことがショックで……

吉川 美容師をやっていると相当我慢強くなっているはずだから、メンタルはできてるはずだけどね。

中村 うまく抜いているつもりだったんですけど。

吉川 体は正直だから無理が出ちゃったのかな。中村さんの我慢レベルが高すぎて(笑)。ところで美容師のキャリアはどのくらいなんですか?

中村 19年になります。

吉川 美容師さんの世界は男性だけが出世するとかなくて、男女平等でしょ?

中村 うーん、どうだろう? 私が美容学校に通っていた時は女性が多かったんですけど。かつては有名サロンに行くと、カリスマ美容師と言われる人たちはみんな男性でしたよね。体力的にも精神的にもキツい仕事なので、「女性はすぐ辞めるから採用しない」というサロンもありました。

吉川 僕も美容師をしていたことがあるので、美容師の生活は知っていますけど、ものすごい体力が必要ですよね。最初は1日中お客さんの髪をシャンプーして、手がボロボロになって。で、閉店後から練習が始まる。技術者の人も一生懸命教えてくれるんだけど、だいたい12時ぐらいまで練習しているよね。

中村 家は帰って、寝るだけの部屋みたいな感じでしたね。

吉川 練習は絶対にやらなきゃいけないから、一人前になるのに10年くらいはかかるかな。それでカットが上手くなったり、カラーリングの勉強をしたりするんだよね。今でも女性に大変な感じですか?

中村 今はかなり優しくなった感じがしますね。

 

「手に職を」の思いから美容師に

吉川 美容師を目指したきっかけは?

中村 母親が看護師で、父親も自営業で塗装の仕事をしていたので、両親から「手に職だ」と言われて育ったんです。姉は看護師になったんですけど、私はファッションが好きだったので美容師かなと。「美容師になるなら東京だ!」と思って新潟から上京しました。美容師になると決めてからは、割とブレずに進んできましたね。

吉川 ひとつのこと勉強していくって、辞める理由がない限りは、続けることで心が楽なところがありますよね。

中村 ここまでくると、新しい環境に行くのがちょっと怖いですね。

吉川 きっと今は、サロンで人を指導する立場ですよね?

中村 時短勤務中なので、今はしていないんです。普通は閉店後に反省会や練習会をするんですけど、そこに参加できていないことで勝手に疎外感を感じていたり……。お店の中でも、私は特殊な立ち位置にいるんですよね。

吉川 お子さんがいる女性スタッフは中村さんだけ?

中村 私だけです。みんな20歳前後の若い世代なので。

吉川 これから子供をもつ人もたくさん出てくると思うけれど、それでも働けるというお手本になるよね。中村さんは疎外感を感じているかもしれないけれど、そういうライフスタイルがあることも見せているわけだし。

中村 確かに「子供を産んでも美容師は続けられるよ」というメッセージにはなっているかもしれませんね。私自身、20代の頃はひたすら美容に明け暮れていましたけど。

吉川 捧げてた感じ?

中村 捧げきれていないところもありました。私が入った時って、寝ても冷めても髪のこと考えるのが当たり前みたいな感じがあって。

吉川 そんなキツいの何年ぐらい続けられてた?

中村 私は全然続きませんでした。入った時は、それこそ練習も誰よりも遅くまでやってやる!という熱い気持ちはあったんですけど、どこかでオフの時間がないと緊張が切れてしまって。

吉川 気持ちも体も続かないよね。

中村 そうんなんです。練習しても、ただ時間を費やしたことに満足するだけで、何も入ってこない。当時は周りもすごくて、ずっと髪のことだけ考えている人たちばかりだったので、それがプレッシャーでした。

吉川 スペシャリストとしてヘアだけやってる、それは確かに大切なことだけど、広い目でものを見ることも大事だよね。撮影とサロンワークは違うけれど、やっぱり素敵なものを作る人たちって、自由さがある。

あと撮影業界のヘアーさんも女性は少ないけれど、これから変わる感じもするな。昔は撮影でやるヘアーってドラマチックだったけれど、今はリアリスティックの方向にシフトしているから。そうなると女性のほうが細かく感じられますよね?

中村 そうですね。技術もそうなんですけど、接客の面とか、気持ちを共感することとかも。

吉川 僕の知っている男性ヘアドレッサーってすぐに派手なことしたがる(笑)。

中村 それはちょっとわかります(苦笑)。自分の好きな方向に持っていったりとか。

吉川 男性スタイリストの弱みだよね。

中村 やっぱり女性と男性とでは違うとは思います。

吉川 それぞれの違いは特徴だから、どっちがすぐれてるものでもないけれど、それにしても色々な業界で、女性が出世できないことが多すぎますよね。美容師さんの世界でさえも、もともと女性の仕事だったのが、いつからか男性メインの世界になってしまったり。だけどまた戻ると思うけど。

 

復帰後には葛藤も

中村 育休から戻ってきて、また1年も立たないうちに2人目の産休育休に入ったので、復帰した時にだいぶお客様が減ったんです。SNSをやれば確かに集客できると思うんですけど、私はずっと携帯を見ている生活が嫌でSNSはやらないので。一時期facebookもやっていたんですけど続かなかったし、私には向いてないと思って。

吉川 僕もfacebookは苦手。何か来たら返さなきゃとか、それにすごく疲れた。

中村 わかります。いいね!を押さなきゃとか、あれがダメなんですよね。でもSNSで集客して、売り上げを上げている人もいるので、すごく葛藤したんですけど、続かないで中途半端になるなら最初からやらなくていいやと割り切ることにしました。そういうツールをやっていなかったのもあると思うんですけど、復帰後のお客さんの戻りが悪いことはすごく悩みましたね。

でも今は少しずつでも、戻ってきてくれることに喜びを感じてます。新しいお客さんとの出会いもありますし、なかには「女性にやって欲しい」という方もいたり。あとは久しぶりに私の名前で検索かけて、ここで働いているのを知って戻ってきたというお客さんもいらして、今はそれで満足してるところもありますね。だけど売り上げ下がるのはちょっと……

吉川 それは少しずつ戻せばいいのでは?

中村 そういう思いもありますが、ちょっとは焦らなきゃっていうのもあるので、いまは揺れ動いてます。

吉川 新しいステージで勉強中ってことなのかな。中村さんは産休がきっかけだけど、誰にとっても次のステージって必ず来ると思う。

中村 円形脱毛症ができたときに「美容師を辞めようかな?」と考えたことがあるんです。

吉川 でも、美容師の仕事は好きだったでしょう?

中村 実はそれもわからなくなっていて。40歳を過ぎて、5060になって、表参道で美容師をやっているのかな?と考えてしまったんです。いっそのこと辞めて、まったく違う仕事をするのもいいのかな?とも思ったのですが、その時に、人に喜んでもらうことが好きなことに気づいて、やっぱり自分には美容師しかない!と。お客さまに「中村さん以外に考えらない」と言われたりすると、それだけでもう十分だなと思うんですよね。

吉川 人に喜んでもらえることが、自分の好きなことなのかもしれないね

中村 本当にそう思いました。喜ばせたいとかって、おもてなしの精神ぽいじゃないですか? 海外のサービス業はどうなんですか?

吉川 日本のサービスは形式ばっていて、プレゼンテーションとか言葉遣いを大切にするけれど、海外はもっと本質的だと思う。例えば海外の高級店で何万円もするシャツを買ったのに、紙にささっと包んだだけで、最初は「なんだコレ?」って思ったけど(笑)、よく考えたらいらないし。ホテルマンも日本のような丁寧な言葉遣いはしないけれど、困った時に相談すると、ホテルのルールをある程度誤魔化しても、それが必要なことなら一生懸命やってくれる。でも日本は絶対にやってくれない。考えてみれば、美容師さんもサービス業だもんね。

中村 サービスは常に課題ですね。長くやっていても本当に難しくて、帰り際までお客様の目の奥を見ちゃいますね。「本当に喜んでくれてるかな?」とか「満足してくれたかな?」とか、そういう所を見てしまいます。

吉川 人は本心を語らないかもしれないと、どこかで思っているのかな?

中村 思います。特に満足そうにして帰ったのにリピートしなかったりすると、違ったんだなって。

吉川 海外の人たちはお世辞の時はそれってはっきりわかるし、でも、嫌いなものを好きとは絶対に言わない。だからモヤモヤな気持ちにはならないことが多いかな。

中村 日本の人ってわからないですよね。すごい喜んでくれたのに「あれ?」と思うこともあるし。

吉川 撮影でも、あとで何か言われたりすると、「もうその場で言ってよ~」と思うよね(笑)

中村 ヘアサロンの場合「おまかせします」とおっしゃる方が多いんですけど、その「おまかせ」の中に100%何をしてもいいというのは入っていないんですよね。「察して」みたいなのって、日本人ならではなんですかね?

吉川 そうだと思う。でもそれって、なかなか治らないんだろうな。

 

ツヤ髪の秘訣は『HIKARI TREATMENT

吉川 では、中村さんの愛用品を見せていただけますか?

中村 今日は吉川さんにメイクして頂いたのでかけていないのですが、メガネです。昔はコンタクトを使っていたんですけど、ずっとつけていると目がボヤけてきて、前髪のカットラインが見えなくなることがあったので10年ほど前からメガネに変えました。メガネって、かけるだけでおしゃれな雰囲気が出せるので好きなんです。シンプルなものよりはクセがあるデザインが好きで、ブランドに関わらず色々揃えています。

中村 韓国コスメの「FEMMUE(ファミュ)」のスキンケアは、田中みな実さんのお気に入りという記事を見て、試しに使ってみたら本当に良くてリピートしています。韓国コスメって、洗練されたデザインのものも多いですし、日本のものよりお手頃なので手を出しやすいんですよね。そこまでお金もかけられないので、最近行き着いたのが値段の割に効果を感じられるこちらです。黒いボトルの「ルミエール ヴァイタルC」は、ビタミンC誘導体配合のブースター美容液。肌のキメが整い、くすみが抜けて明るくなる感じがします。白いパッケージに入っているのは「ローズウォーター スリーピングマスク」。塗って寝るだけでOKなので時短になりますし、翌朝の肌のもっちり柔らかな手触りにも感動します。

吉川 僕も使ってる。香りが好きです。

中村 うちのサロンのオリジナルで「HIKARI トリートメント」というメニューがありまして、1カ月近く持つのでとても評判がいいんです。そのトリートメントを自宅で体感できるものとして開発したのが、こちらのシャンプー、トリートメント、マスクの3種類。私も使っていますが、これを使うと、質感は軽いけれど芯のあるツヤ髪になれるんです。「HIKARI トリートメント」後のホームケアで使うとトリートメントの効果が2カ月ぐらい伸びるので、併用するのもおすすめです。

 

Photos / Interview : Yasuo Yoshikawa

Coordinate / Edit:Maki Kunikata

Text : Tomomi Suzuki

取材を終えて

After the interview

昔、美容師をしていた頃、女性の先輩にカットを習ったことを思い出しました。その人はすごく上手なのに、技術より感覚を大切に教えてくれました。
結局あんなに上手にカットが出来るようにはなれなくて、当時はそれが悔しかったけど、今思うともっと大事なことを習った気がします。
いい美容師さんに男女は関係ないから、女性がもっと働きやすい環境になるといいですよね。

吉川康雄