from Japan

ヘルシーでいることがすべての基本

鈴木結美子 型染め作家

▼Profile

鈴木結美子 YUMIKO SUZUKI

江戸時代から続くかまぼこ屋「鈴廣」の次女として生まれる。慶應義塾大学卒業後、広告代理店を経て作家の森川章二氏に師事。古典的な日本の染色技法である型染めを習得し、図案・型彫から染色に至る全工程の制作を手掛ける。現在は型染めを軸に、企業へのデザイン提供やブランドディレクションなど、“百年後の世界に日本の美を伝え魅了するデザイン”を目指し、多方面で活躍中。

公式サイト :  https://yumikosuzuki.jp

Instagram :  @yumiko_szk

受け継がれてきた世界観を追求していく

吉川康雄 鈴木さんは型染め作家をしていらっしゃるそうですが、お仕事について教えていただけますか?

鈴木結美子 型染めというのは、下絵を描いて型紙を彫り、その型紙で布や紙を染め上げる伝統的な技法です。今は実家のかまぼこ屋「鈴廣」の包装紙やカレンダー、お客様に差し上げる手拭いなどの型染めを手がけていて、それと同時に「鈴廣」のブランディングも担当しています。このほかにも外部からお仕事をいただいて、包装紙やロゴをデザインすることもあります。

吉川 あの「鈴廣かまぼこ」のパッケージのような味のある伝統技法は素晴らしいものだと思いますが、とても現代的に見える鈴木さんはモダンの良さも知っているわけで、そのあたりのバランスはどう取っているんですか?

鈴木 「鈴廣」には脈々と受け継がれてきたビジュアルイメージがあって、最初の頃は自分の世界を表現しようとしていたのですが、それはあまり良いことではないと気が付いたんです。実家ということもあり混同しやすかったと思うのですが、私がやるべき事は自分のテイストを打ち出すのではなく、これまで築き上げてきた鈴廣の世界観を突き詰める事だと発想を変えたら、気持ちが楽になりました。個人的な作品制作などで自分らしさを加えるほうがヘルシーだなって。

吉川 伝統として引き継がれるべきことと、自分の実験みたいなことと切り分けているんですね。

鈴木 はい。「鈴廣」は創業155年になりますが、“いつもと違う”と思わせないことが大事なんです。片や、自分の実験のほうでは素材や染料を変えてみたり、金箔を使ったらどうなるかなとか、色々とトライしています。そうやって実験で作っていたものが気に入ってもらえて、父に「今度こういうのを作ってよと」と言われることもありますね。

吉川 時代と共に自然と変わっていくのは、世界中の伝統工芸の中でも起こっていることですよね。素材がモダンなものに変わったり、そういう変化は絶対に大切だと思う。止まってしまうとただの骨董品になってしまうから。

鈴木 昔から使っている図柄も、素材や技法を変えてモダンにして進化させないと、好きな人にしか届かなくなると思います。

吉川 型紙をつくる時は、配置などをきっちり計算してバランスを作り上げるのだと思いますが、そういう風に計算するのではなくて、ふっと無造作に置いたときの感じがいいな、ということはありませんか?

鈴木 あります。型染めはまず初めに図案を作り、その図案を彫るので、出来上がるまでの間に整えていく作業がいくつも入るんです。でも、一番最初のラフのほうが勢いがあったなと気がついたり、きれいにする段階で当初の勢いが落ちてしまうこともあって……。

吉川 メイクもまったく同じです。僕の場合はモデルさんにお会いした時の印象や素顔から、相手のいい所を見つけてメイクするのですが、あまり整えすぎるとモデルさんの良さが消えてしまうんです。今はやっていてその消えた瞬間がわかるから、消さないようにしますけど、時にはある程度なくして、あえて遠くに行ってみるのも面白いなと思うこともありますよ。

鈴木 本当に同じなんですね。型染めは製作の工程が色々とあるので、私の場合はどこを変えると消えてしまうのか、いま検証している段階です。それから型染めは民芸品から派生しているので、もともとが粗野というか……。

吉川 お殿様が使うのではなくて、庶民に向けていたものなんだ。

鈴木 はい。私が作品をつくる時も、無骨さを保とうとはするのですが、どうしても可愛いとかキレイなものになりがちなので、多少荒っぽい感じに作って、元々の世界観に近づけてみたり。

ドレスアップは自分の表現

吉川 僕の印象では、鈴木さんはそんなに“可愛いもの好き”っていう感じには見えないですが……。

鈴木 意外と可愛いものも好きで着ていましたが、ファッション的には、いろんなテイストに行ったり来たりしてきたかもしれません。大学を卒業して広告代理店に就職して、6年ぐらい経って実家の仕事に戻って結婚したのですが、その環境によっても変わってきましたし。

吉川 どんな感じだったんでしょう?

鈴木 ザラにはよく行っていましたね。でも実家は食べ物屋なのでアクセサリーもネイルもしないし、お化粧も最低限にという感じでした。結婚をしてから、夫がクラシック音楽に関わる仕事をしていることもあって、音楽会やパーティに行くようになったのでドレスアップするようになったんですよね。そうしたら服選びがすごく楽しくなって(笑)。クールでモダンなスカートやワンピースを選ぶようになりました。

吉川 パーティに行くときに心がけていることはありますか?

鈴木 自分がどういう立場でそこに参加してどうあるべきかを考えますね。その場がお祝いなのか、誰をどういう立ち位置にしてあげたらいいのかが最優先で、あとはそこに関係するような色や柄や素材を選んだり、その場に集まる方のテイストや年代を考えた上で服を選んでいます。

吉川 年配の方が多いと、少し控えめな感じを演出するとか?

鈴木 はい。ただ私は作家という自分の仕事がら、没個性になるのは嫌で……。目立ち過ぎないけれども自分らしい、個性が感じられるような装いをしたいと思っています。

吉川 社交の中で奥様という立ち位置はあっても、自分の感性を表現している人でもあるわけですしね。

鈴木 そうですね。そのバランスを楽しんでいます(笑)。

吉川 色々な素材や色を着るときに、似合わせるための工夫はありますか?

鈴木 最近は「コレが好き!」と思うものを着ているので、服と気持ちが喧嘩しなくなったというか……。そういうのはムードにも出てくるので振る舞いもオドオドしなくなってきたと思います。

吉川 オドオドしないって、それだけで素敵に見えることだと思います。でも簡単なことじゃないと思うけど……。

鈴木 30歳を超えたという年齢から来る経験もひとつかもしれません。例えば仕事でもいろんな方と会うわけですが、「この人にお願いしたい」と思われるにはどうしたらいいだろう?って思った時に、自分らしさを受け入れて堂々と振る舞っているほうが良い印象を持ってもらえるだろうなと。

吉川 色々な人を見ると、相手からの何か新しい発見に気づくし、同時に自分のことも見つめ直せるから……。

鈴木 デザインの仕事の場合、私が身につけているものが私自身のセンスとして判断されるので、服を選ぶ時も相手の目線になって考えます。クライアントも、素敵なものを着ている人に頼みたいと思うので。

吉川 すごいなあ! 僕はそういうの、なかったから……。考えていたほうがよかったかもです。僕も人と接する仕事だから相手が自分に持つ印象って良い方がいいですし。

鈴木 功を奏しているのかわかりませんが、そういう基準で取り組んでいます。

それから、義理の母がヴァイオリニストで、衣装でジバンシイやドルチェ&ガッバーナのドレスを着ていたり、めちゃくちゃお洒落なんです。彼女のように、自分を見せる場があってキャリアを積んできた人の可愛さや、年齢とかは関係ない魅力に触れると、素敵だなって思います。

吉川 年齢を重ねることはネガティブに捉えられがちだけれど、そういう風に語れる人が近くにいて良かったですね。年配の大人たちが素敵だったら、これから素敵になろうとしている若者と、違う世代同士でも楽しく話ができますよね。

鈴木 やっぱりそういうのは、年齢差があっても話のツールになりますよね。パーティに行くときは、なるべく日本人デザイナーの服を着るようにしていて、「それ、素敵ね」と言われたら、「実は日本人の同世代の人が作っているんですよ!」とお話しすることで会話が広がるし。お酒と服とアートと食事、それから音楽は、本当にボーダレスな会話のツールだと思います。

似合うかどうかは自分の気持ち次第!

吉川 でも、ドレスアップが自分をプレゼンテーションするという事だとすると、色々と勉強すると思うのですが、その中で、自分の嫌いな部分を見つけることもあるのでは?

鈴木 まさにその通りで、少し前までは、背も低いし、すごく細いわけでもないし、何を着てもおしゃれに見えないと思っていました。

吉川 そのおしゃれは鈴木さんじゃない他の誰かをイメージしているから?

鈴木 確かにそうかもしれません。自分がいいなと思う人。

吉川 そこからどうやって脱出したんですか? というか、脱出できました?

鈴木 脱出しつつあるところかな(笑)。

でも、少しずつですが「これ私は似合うのよ!」という気持ちでいるとか、自分の気の持ちかた次第だなと思うようになりした。

吉川 今までは多くの女性が “美人”という同じ理想を目指してきたけど、少しずつ、“色々な人たちが、その人なりに着こなして似合っているのが素敵”という風潮になってきているので、いろんな素敵が当たり前のようにみんなが思い描けるようになるといいなって僕は思います。

鈴木 コンプレックスでいうと、私は白目の部分が多くて、黒目が小さいので怖く見えることが多くて、うーんと思っていたのですが……。

吉川 確かに黒目が大きいとぬいぐるみみたいで可愛いですよね。鈴木さんはそういうキャラには見えないけど、キリッと知性的で素敵ですよ。誰かが「これいい!」って言って、自分がそこに当てはまらないと嫌だなと思うのはわかるけど、違う魅力があるのも確かなことだから、自分のことを好きになるのが一番だよね。

鈴木 本当にその通りですね。最近は、このアゴが張っているところも、自分が好きな系統の服と合うのがわかってきましたし。

吉川 僕も同じアゴですけど、こういうのって斜めや横のアングルって綺麗なんですよ(笑)。

すべての美しいと言われる人たちは、美人なのではなくて、自分の良さを受け入れてそれを上手に見せられる人たちだと思うんです。有名な女優さんやモデルさんたちって誰にも似ていないでしょ? それは誰かになろうとしてない証拠だし、自己肯定の大切なところだと思うんです。

鈴木 なるほどー。ちょっと変えてみます。白目に関しては、夫から「魚みたいな目で可愛いいね」と言われて(笑)。

吉川 僕の知っているモデルも、私の目ってサメみたいでしょって。噛みつくわよ!って言われて可愛いって思っちゃいました。

日本は、可愛いと言われる範囲があまりにも狭すぎるよね。色々な人が色々なキレイさを持っていると思うから、それを広げていきたいなというのがこのサイトを立ち上げた目的でもあるんです。

鈴木 確かに、自分のことを好きという気持ちでいるほうが、毎日が幸せですよね。

それに私は自分がやっている仕事も大好きだから長く続けられるように工夫するのも大事だなと。健康でいればずっと活躍できると思いますし、健康管理も仕事のうちと思うようになりました。

吉川 そのために工夫していることはあるんですか?

鈴木 以前は悪夢を見ることが多くて、ぐっすり眠れていなかったのですが、この「RUE UN(ル アン)」の香りが心地よく自然を感じられて、ふっと気持ちが軽くなって癒されます。100%オーガニックのエッセンシャルオイルなんですよ。

話がちょっとそれるかもしれないのですが、私が作った「鈴廣」のカレンダーにお客様から感想のお手紙を頂くことがあるんです。「あれを見て、すごく元気になりました」とか「春が来た感じがして、とてもいい気持ちになりました」とか。

海や山などの自然を見た時に、嫌なことをちょっと忘れられるみたいな安らぐ作品を作れたらいいなって思ってきたからとっても嬉しくって。

そういうことがこれから先もあるように、心身ともにヘルシーでありたいですね。

吉川 自分の仕事で誰かが喜んでくれるって、最高に癒されますよね。

大変でもそんなふうにストレスをリリースしながらやっていけたら長く楽しんで続けられそうですね。

Photos / Interview :  Yasuo Yoshikawa

Text : Tomomi Suzuki

取材を終えて

After the interview

プレゼントされた蒲鉾を、取材が終わったその日の夜いただきました。

ちょっと厚めに切って。

嬉しいプリッとした歯応えと口の中で広がる香り。

奇をてらわない、当たり前なのに最高の味を、包まれた紙、鈴木さんの作品を見ながらお酒と一緒に。

ペロリと最後まで美味しく食べちゃったのですが、

こんなふうにして鈴廣さんがこだわってきたという「“いつもと違う”と思わせない世界観」を、

娘である鈴木さんも感じたのかなあって思わされました。

中味とパッケージが合わさった最高の作品、ごちそうさまでした。

 

吉川康雄