NYでおにぎり屋さんを開くまで
吉川康雄 「RICE&MISO」、とてもお洒落なお店ですね。おにぎり屋さんというよりアートギャラリーのような雰囲気です。
初島美香 もともとこのお店は、長女を妊娠中に立ち上げたんです。伝統的な和食が食べたいのに、そういうお店がなかったので、自分でやれば毎日食べられるし、きっと売れるだろうと。最初の4年間はマーケットに出店する形式で、オーガニックの玄米を使ったおにぎり屋さんを開いて、その後ここブルックリンにお店を持ちました。その前にモデルをやっていた頃はタバコとコーヒーで生活していたから、正反対のライフスタイルになりましたね(笑)。
吉川 モデルの仕事は待ち時間も多いし、ストレスがたまりますからわかります。それでも、モデル時代を懐かしく思ったりしませんか?
初島 もともと向いてなかったと思うので、スパンと辞められました。
吉川 モデルって華やかだけど、結局はクライアントのための存在だから、いまの自分のためのビジネスとは立場が真逆ですよね。初島さんは、どんなきっかけで海外に来たんですか?
初島 背が高かったので、大学時代からアルバイトでモデルをしていました。その当時『ASAYAN』というオーディション番組があって、事務所が応募したら合格して、イタリアンヴォーグに出られることになったんです。そこからトントン拍子に仕事が決まって、これは海外に行ったほうがいいということで、卒業後ロンドンに行きました。
吉川 いきなりヴォーグだなんてすごいですね。背が高いことに対して、ご自身ではどう感じていたんですか?
初島 「でかい」と言われてばかりで、コンプレックスでした。好きになる男の子はみんな私より背が低いから見向きもしてくれないし、目立つのは好きじゃないのに、日本にいたら背が高いだけで自然に目立っていたので。でもこちらに来たら、知らない人に「でか!」と言われることもなく、放っておいてくれるから気が楽です。
吉川 ロンドンからNYに来たのは?
初島 当時のロンドンはアレキサンダー マックイーンとか、ステラ マッカートニーが出てきた頃で、ファッション業界がものすごくパワフルで楽しかったんですけど、まったくお金にならなくて(笑)。物価も高いし、ご飯はおいしくないし、ここにはいたくないなと思うようになって。パリコレの仕事でパリにも行きましたが、どうにも馴染めなくて……。そのあとNYに行ったら、一発で気に入って「ここなら住める!」と思ったんです。
吉川 僕と同じですね、 N Yに来た理由が。パリは美しい街だけど住めないって感じていました。
初島 NYに来て「こんな自由なところがあるんだ!」と感じて、25か26歳の時に引っ越してきました。モデルをやりながらイラストの勉強をしたり、映画編集の学校に通ったりするうちに前の旦那さんと知り合って。あれよあれよという間に結婚して子どもができたタイミングで、旦那さんが突然会社をクビになって、お金がなくなってしまったんです。何とかして稼がねばと編み出したのが、おにぎりを売ることでした。自分でイラストを描いてデザインもしたり。
吉川 それまでに学んだことを全部使って始めたんですね(笑)。
初島 はい。私の集大成です。
いつの間にかビジネスウーマンになってしまいましたけど、昨年2店舗目を開いて「ようやくこれで軌道に乗っていける!」と思った矢先にコロナが来てしまって……。現在、その2店舗目は一旦クローズしていますが、これからもっと店舗を展開して、でも一店一店のクオリティは絶対に下げず、お客様に喜んでもらえるように続けていきたいです。
価値観の違いを乗り越えるために
吉川 お子さんは?
初島 女の子が二人です。上が10歳、下が3歳なんですけど、パパが違うんです。長女のパパはイラン人、次女のパパはフランス人で今の夫です。
吉川 このお店のように、ご自宅も素敵そうですね。
初島 私はミニマリズムなアートとかが好きで、ここは私のテイストなんですが、家は全然違うんです。旦那さんはカラフルなものやアートが大好きで、実はこの間も私が日本に帰国中に内緒でリノベーションをしていて、戻ってきたらまったく違う家になっていました。床も違うし、私のお箸もお茶碗も捨てられていて……。
吉川 全然趣味が違うっていうのはよくある話だけど、それはすごいな。
初島 だから毎週夫婦でセラピー通いです。それがないと、もう大変。文化の違いもあるし、コミュニケーション不足ですね。言葉が違うのもありますが、疲れていたり面倒くさくなると、「もういいや」となって喋らなくなるんですよね。でもそうすると、お互いに言いたいことが溜まっていく。だからセラピーに行くのはいいんです。二人でワーワー言い合って、「あれって、そうだったの?」と発見して。
吉川 心の通訳みたいにね(笑)。
初島 セラピストに「お互いの怒りのスイッチを入れないようにするには、どうすればいいの?」と聞いてみたんです。それまでは怒りのスイッチ押しまくってたから(笑)。押さないようにしつつ、コミュニケーションは取らないといけないから、そのバランスが難しい。
吉川 日本人同士だとそこまで違わないっていう意識があるからパッと見は平和そうだけど、本当は日本人だろうが外国人だろうが、全員違うバックグラウンドを持っていますもんね。
初島 お箸を捨てられることとか、ないじゃないですか。夫は和食があまり好きではなくて、私が心を込めて作っても美味しいと思ってくれていないのが、また悲しくて。日本人同士だと美味しいと感じるものは似ているし、そこでストレス度は下がりますよね。
吉川 日本だと、セラピーやセラピストは身近な存在ではないですよね。
初島 私もそうでしたけど、どちらかというそういうことにはネガティブな感じですよね。前の旦那さんと上手くいかなくなったときに「カップルセラピーに行こう」と言われて、「そんなこと言ってるくらいなら別れる!」って、本当に別れちゃったんですけど(苦笑)。
吉川 僕もその気持ちわかります。僕たち夫婦も、思春期の娘がいろいろ大変だった頃、家族全員でセラピーに通いました。僕も妻も忙しくてコミュニケーションがなくなると、話し方がわからなくなったりして距離が出てくる。そこでセラピーに行って、他人とのコミュニケーションの取り方を習ったり。
初島 第三者が入ると、見えないことが見えるようになりますよね。
吉川 色々な人と出会うNYだから、人間関係の問題ってたくさん起こるし、必要性を感じますよね。 日本にいて日本人同士だと「わかる!」って思いがちだから気がつきにくいけど。
それで旦那さんは、初島さんがお箸やお茶碗を大切にしていたこと、理解してくれましたか?
初島 ごめんねと言われました。悪気はなかったんだろうけど、こっちはすごく傷ついたから。
吉川 大切にしていたものを全部捨てられて、彼がその意味を理解して謝ってくれたって、それって最高に大切な部分ですよね、人との付き合い方の中で。
初島 やっぱり、そこに気持ちを感じるというか。
吉川 誰でも間違いますもんね。相手のことをわかっていないのに、わかると思ってしまう勘違いがあるじゃないですか。そうすると、その思い込みと一緒にどんどん相手を傷つけてしまう。
初島 ほんの些細なことからわかり合うだけでも、全然違いますよね。
旦那さんとはアップダウンがありますけど、いろいろな事を乗り越えて、だんだん絆が強くなってきているなと感じます。
吉川 そういうつながりってとっても貴重だし、簡単にまた他の人とイチからなんてものじゃないですよね。
初島 1回失敗していますし、3回目をやる体力も残ってないですね(笑)。
セラピーは最近始めたばかりで、以前だったら拒絶していたセラピーを受けてもいいかなと思えるようになったのは、自分が変わったからかな。自分ももう少し成長しないといけない。常にそうなんですけど。
吉川 ニューヨークは、本当にそういうことを感じさせる場所ですよね。
オイルが中心のシンプルケアを実践
吉川 普段はどんなものを使ってお手入れしているんですか?
初島 いま私は47歳で、これまではスキンケアもナチュラルなもので良かったけれど、それこそ、レーザーとかでないとシミも取れないし、この先は肌の蘇りみたいなのを促してくれるようなケアをしないといけないのかな、と思っています。
吉川 食べ物と違うので、オーガニックだけにこだわるお手入れという考えはあまり必要ではないと思います。革靴をお手入れするような感じで、自分の肌が心地よく感じてくれるちょうどいい保湿をしてあげたら、あとは健康なものを食べたらそれで十分じゃないかな。
初島 寝る前に椿オイル「天然椿油 ダーマクイーンジャポニカ」をつけています。塗った時はべとっとするんですけど、朝起きたらサラサラ。必要な脂が奪われてしまうから石鹸は使わずに、朝の洗顔も水ですすぐだけですし、シャンプーも1週間に1回しか使いません。最初はかゆかったのが慣れると全然大丈夫になって、フケも出なくなりました。シャンプーは、Aesopのシャンプーだけで洗っていますけど、髪質も変わって良くなった気がします。夫が匂いが嫌いなタイプなので、食器用洗剤から柔軟剤まで無香料のものを使っているんです。
吉川 フランスの人って香り好きな人が多い印象ですけど、意外ですね。
初島 シャンプーの匂いも嫌みたい。私は石鹸を使わなくなってから乾燥が治りました。寝る前の椿オイルと、日中はトレーダー ジョーズの「100%ホホバオイル」をつけて、日焼け止め「ママ&キッズ UVライトヴェール」を塗って完了です。これ以上ないくらいシンプル(笑)。
Photos:Mikako Koyama
Interview : Yasuo Yoshikawa
Text : Tomomi Suzuki