from NewYork

端くれで面白いことを

松井綾香 AYDEA合同会社 代表取締役

▼Profile

松井綾香 AYAKA MATSUI

東京都生まれ。高校を米国オハイオ州で過ごし、ボストン大学を卒業後、上海のシンクタンクで日中関係・外交政策における研究者として参画。日系企業やシリコンバレーを経て、2018年に海外進出マーケティング戦略・異文化コミュニケーションのコンサルタントとして独立。NYと東京を拠点に、企業の海外進出におけるコンサルティング業務を行う。

海外との架け橋を目指しNYで起業

吉川康雄 松井さんは海外は長いんですか?

松井綾香 中2でアメリカのオハイオ州に来て、そこからほぼずっと海外です。大学はボストンで、在学中にスイスとイギリスに留学もしました。

吉川 今の会社を起業したのはNY?

松井 NYと東京が拠点です。もともとは日本と海外をつなぐ外交官になりたくて勉強していたんですが、上海のシンクタンクに勤務していた時に、外交官にこだわらなくても民間レベルで架け橋になれる道もあるのではと思って路線変更しました。

吉川 僕もNYに住んで日本でブランドを立ち上げてますから、松井さんと同じですね。アメリカに住んで両方のカルチャーを見ていると、アメリカ人が気づけないこと、日本人が気づけないことを感じたり、そういう事を伝えたいという気持ちが出てきませんか?

松井 出てきます。そこには言語化できるものとできないものがある気がしますけど。

吉川 今はコンサルティングという形で、海外進出の際のマーケティングとか、日本とアメリカのビジネスをつなぐ仕事をされているんですよね?

松井 日系企業のアメリカ進出のお手伝いをしたり、その反対の場合もあります。

メッセージングやキャンペーンする際、どういう風に伝えたら相手に響くかは、現地の人の価値観を深く理解していないと共感は得られないので、そういう感覚を持てる経験していることが大事だと思うんです。私はアメリカは中西部から西も東も住んでいましたし、ヨーロッパにも中国にも住んでいたので、自然にそこを感じれるというか……。文化的な差異は、長くいないと理解できないことも多いので。

吉川 世界には色々な価値観の人がいるということが、自分の中に本当に入ってないとできないことですよね。コンサルタントとして助言する立場の責任の大きさにプレッシャーもかかりませんか?

松井 大企業の場合はロジックを組み立てて説明する必要があるので、確かにプレッシャーはありますけど、楽しいです。どこをつついたら理解してもらえるのかな?って工夫していると、ゲームのような感覚になって(笑)。問題をひたすら解いていくと「ああ、わかった!」と思う瞬間があって、それが達成感につながったり。

吉川 仕事をする上で大切にしていることはありますか?

松井 責任をもつことが大事だと思っています。そのためには自分が本当に信じられるものや人、社会にとって必要だと思えるプロジェクトに関わる仕事をしたいなって。そう確信できるもの以外は全部削ろうと思ったんです。

スティーブ・ジョブスの言葉にある「自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが本当に世界を変えているのだから」じゃないですけど、そういう思いを持ちながら、端くれで面白いことやっていけばいいや、って。

吉川 そういうものに出会えたら、それだけで人生にものすごく価値があることだと思うな。

松井 そう思えると、自分の軸を大事にしながらも、相手と調和をつくることにも情熱を感じられる。ただコラボという“仕事”じゃなく、そのプロジェクトにとって何が大事なのかを深く考え、お互いに持ち寄って調和できるような環境を作っていくことで、よりクリエイティブで面白いものが作れると思うんです。

自由に生きてもなんとかなる

松井 うちは母がピアニストで、妹もプロのヴァイオリニストなんですけど、私もそういう環境の中で小さい頃からピアノとチェロをやっていて、練習しないと遊びに行けないとか、すごく厳しかったんです。それが、あるオーディションの前に突然左手が震え始めて、半年ぐらいその状態が続いて。オハイオ中の病院を回って、やっと辿り着いた先生に「これは平山病という、肘から下の筋肉が萎縮していく病気だ」と言われたんです。筋肉がどんどん失われていく病気。それがわかってチェロから離れる決心をしました。

でも私は音楽が色で見える共感覚”を持っていて、言葉よりも素直に感情表現できるツールだったこともあり……。チェロからは離れたけれど音楽は続けたくてピアノでジャズを始めたんです。

それまでチェロでやってきたクラシックは、譜面にあるものをパーフェクトに表現しなければいけなかったのですが、フィジカルな限界ができたことで、逆にそこから自由になれたのかなあ。それがきっかけで、ただ完璧を求めるというところから、自由に楽しむということの大切さや美しさを知りました。

吉川 それは大変な、でも素晴らしい経験をされましたね。今も音楽は続けているんですか?

松井 流行りの「Clubhouse」でやってます(笑)。私にとって音楽は、クリエイティブになんでも感じれて会話ができる、心にとってのセーフスペースなんですね。そういうものがあって良かったなと思います。

吉川 音楽で思ったことを表現できるなんて僕が若い時に思った夢です。本当にうらやましいな。

松井 音楽から少し話が逸れますけど、日本は空気読んだり同調圧力がすごいので、自分が思ったことを言える人って少ないと思うんです。でも私は自分に素直に生きて、思ったことを大切に表現したい。高校生と話す機会も多いのですが、「私みたいに自由に生きていても、なんとかなりますよ」という姿を見せてあげたいなって。

吉川 高校生と?

松井 外国で働くというテーマでお話しする機会が多いんです。その時に、色々な国に住んで経験したことを話すと、「そんな生き方ってあるんですね」とか、「そんなに自由に生きていて、自分で会社もできて……、勇気もらいました」と言ってもらうことも多くて。

少しでも、若い人たちに「自由に生きてもいけるんだよ」という希望を与えられるのなら、こういう生き方も悪くないなって。

吉川 生きにくさってあるかも知れないけど、松井さんとのお話はストレートなので、僕、好きです(笑)。

松井 自分を理解しているから、変えようがないですけど(笑)。無理して空気なんて読もうとしたら体が狂っちゃう。

私の自由な発想を信じて一緒に前に進もうと思ってくれている人たちに、そこを変えてしまったら自分の取り柄がなくなるなって。

吉川 自分の個性、持って生まれてきているものなんて、そんなに簡単に変えられるものじゃないですしね。例えば愛する親から「こういう所は良くない」と言われても、それってコインの裏表と同じで、一番の長所と繋がっていると僕は思うから、そこを否定しないで活かしたいですよね。

松井 マスクをかぶせることはできても、それは永久には続かないですよね。いつかは剥がれるし、仮面をかぶったままなのは精神的にもストレス。

吉川 心が病んで死んじゃう。

松井 光と影は当たり前のことだと思うから、そういうものを持っている自分を、どれくらい自然体でいさせられるかって、健康の秘訣だと思うんです。

執着せずに、自然体で

吉川 普段、松井さんはもっとメイクしていると思うんですけど、今日はすっごくピュアなイメージでやった僕のメイク、どうですか?

松井 NYに越してきて初めてデートしたときに、私、ほぼすっぴんみたいな感じで行ったんです。そしたら相手にすごく驚かれて「こんな人初めてだ!」って。その時に私は言ったんです「ノーメイクの私のことが好きじゃないなら、時間を無駄にしないで」って(笑)。

吉川 「なんですっぴんできたんだ!?」なんていう人、周りに近づけないのが一番ですよ。

でもお化粧って不思議なもので、女性をきれいにするもののはずなのに、必ずしもそうではないと思うんです。例えばアメリカのニュースキャスターとか、みんな鉄仮面みたいなメイクして自分らしさなんて消えちゃっていて別の何かになっている。テレビに真正面で大きく映る仕事だから、セルフコンシャスをコントロールできなくなっちゃうんでしょうね。

松井 本当にそうですよね。私、今日吉川さんにメイクして頂いて気づいたことがあるんです。日本でメイクというと、自分のコンプレックスを隠そうとする意識が強いと思うんです。でも吉川さんのメイクからは、自信がない部分もあえて受け止めて、それもビューティのひとつとして表現するということを感じました。普段だったら隠すホクロも見えていたり(笑)、それも私にとっては新鮮で。

吉川 そのホクロ、すっごく可愛いから全然消そうなんて思わなかったかも……。

みんな顔が違うから、全ての人に自分らしい魅力を出せるようなお化粧があると思うし、そのためには自分を認められるような気持ちを持つことは大切だと思うんです。

松井 すっぴんの私と会ったその人は、「僕はそっちのほうが好き」と気づいたんですって。今まで会った女性はメイクという仮面で隠していて、相手の心にコネクトできなかったと言っていました。

吉川 そこに気づくと、もう松井さんから離れられなくなっちゃいますね(笑)。世界で一人しかいないから。

さっきのTVキャスターもそうですが、仮面メイクは、その人のコンプレックスを見事に描いちゃう。仮面のようで、逆に自分を全部さらけ出しているから、その人がどうなりたかったのかという鏡みたいになっちゃうんです。もっと自分自身を受け入れられるようになったら気持ちが楽になれると思うし、そんな気持ちに近づける様な化粧品が必要だと思って「UNMIX」という化粧品のブランドを最近僕は立ち上げたんです。

松井 なるほど。ソーシャルメディアがあることが当たり前の環境で育った今の人たちは、自分をアピールするときにフィルターをかけるのが普通になっている。「いいね!」がつく自分が本当の自分と混ざってしまって、わからなくなる人も少なからずいると思うんですね。そういう時代だからこそ、自分らしく美しいと思えることや、自信を持てるメイクをすることはとても大事。だから今日はものすごくパワフルな経験でした。

吉川 日本の女性から「アメリカの女性はそんなことないでしょ?」ってよく聞かれるのですが、メイクアップアーティストをしてきて感じることは世界中の女性が一緒だということ。美しさを楽しめる性別であるからこそ、それに苦しめられる。生まれ持った個性の魅力を見つけること、年齢を重ねて変わり続けていく自分の良さを見つけていくこと、簡単なことじゃないけど、逆にそれを楽しんで自分を最高の状態にしていくことが大切じゃないかな。

松井 アメリカでは不自然な整形も多いし、歯もびっくりするくらいぐらい真っ白だったりしますよね。

吉川 それを見慣れちゃうと悪循環が起こっちゃう。

松井 でも完璧ではない自分を認めることによって、楽しみ方は広がると思います。

吉川 美しさの想像力もね。インパーフェクションほど魅力的なものはないと思います。

僕は世界のトップモデルと仕事をしてきたけれど、みんな違ってた。それぞれの魅力を見つけるクリエイターとして僕がいるわけだけど、それを自分自身がやるつもりでクリエイティブに自身を楽しんで欲しいなって思うし、僕のそういうプロとして経験してきたメッセージもどんどん出していくので参考にして欲しいです。

松井 私は本当の自信は内なるものから滲み出るものだと信じています。人と話すときも肩書きや表面的なものよりも、自分自身でいることが心地よいと感じていたり、自分自身を深く理解していることが大切じゃないかと。

そしたらその人生や価値観が魅力として表情にあらわれると思うんですね。目の優しさとか、笑い方とかに。

吉川 人生は、自分のことを好きになっていくための修行みたいなものだと思うから、「……、でも好き」と思って、OKにしていかないとね。

松井 私はZENの教えが好きなんですけど、何事も執着しないほうがいいなって。年齢も、誰かが決めた美しさの基準にも執着するのはやめて、自然体で生きていきたいです。

吉川 松井さんの愛用品を見せていただけますか。

松井 血色がいい感じとか、ヘルシーな雰囲気が好きで、コントゥアメイクが気に入っています。よく使うのはKAT VON D Beauty Shade + Light Duo(Medium)RMK クリーミィ シアー パウダーチークス(04 Beige Brown)

KAT VON Dは、透明感と日の当たり方によってはshimmer感を出したり、そして若干メリハリをつけるのに使っています。

吉川 すごく使い込んでいて、いいですね(笑)。

松井 お気に入り感が出てますよね(笑) ブラシはどこいっちゃったんだ?みたいな。

RMKのチークスは、シックよりな色合いが気に入っています。奥行きがあるけど、明るさもあり、大人っぽいのも好きです。私の笑い方が結構「素」で子供っぽいところもあるので、ちょっとチークは大人っぽい色でバランス取れればみたいな(笑)。

Photos / Interview : Yasuo Yoshikawa

Text : Tomomi Suzuki

取材を終えて

After the interview

松井さんの自由さから、すごい魅力のオーラを感じてしまいました。これではきっとファンが増えてしまいますよね。
簡単な生き方じゃないし、苦労も感じるけど、そこが人としても女性としても魅力になっていて……。
僕も子供のようなので、まるで子供同士がおはなししている様なピュアな気分の対談になってしまいました。
UNMIXをNYでも始めることができるなら、こんな人に相談したいなって、つい思ってしまいました。

吉川康雄