歯科医のスキンケア法
吉川康雄 先生の肌、すごくしっとりしていますね。
宝田恭子 自分で開発したスキンケアがあって「美感クリーム」という保湿クリームなんですけど。不足したものを補っているだけで、肌のラメラ構造をフォローする成分しか入っていないの。
吉川 本来あるべきバリア機能を助けるクリームなんですね。
肌ってもともと完璧な機能を持っているわけだから、できるだけ邪魔しないで補うようなスキンケアのお手入れって理想的だなって僕も思います。
肌の変化に気づき始めると、つい若い時の肌を求め、画期的な効果を期待してスキンケアをするけれど、それよりも、まずは肌が年齢と共に変化し続けるものだって理解して大人の女性の魅力を目指して欲しいし、肌をいたわってあげるようなお手入れしてあげて欲しいですよね。
宝田 角層は0.02ミリしかないから、その部分にいろいろつけても吸収できない。結局は、角質細胞こそが水分保持能力があるのだから、そこの足りないところを補えばいいんじゃないと思ったの。
吉川 肌は外部から体を守る臓器で、その一番外側の角層が乾燥するといろんな弊害が。そうならないように人間には全自動の保湿機能が備わっているわけで、それを整える必要はあっても、外から肌に栄養を与えると、それが刺激にもなりかねないし、肌の機能とも矛盾しちゃう。皮膚は強いから、若いときは刺激に対して赤くなってもすぐ治るけれど、年を重ねるにつれ抵抗できなくなる。だから僕はできるだけ肌深く浸透しないものが良いと思っていて、オーガニックの有機成分も刺激になることもあるからできるだけ精製されているシンプルなものが一番安心かな。
宝田 肌を褒めて頂くことは多いですけど、このほかに大したことはやってないんです。周りの方からは「やってないからいいんだよ」と言われたりしますが。歯科医の仕事は朝から晩までマスクをしていますから、外したときにファンデーションがついているのが嫌で、ノーファンデで過ごしてます。
吉川 宝田さんは肌綺麗だからファンデーションはあまり必要ないですよね。今日の僕がやったメイクもかなり素肌っぽさを活かした感じです。
僕はファンデーションをつける時、顔料が肌の脂を吸って乾燥させがちなので、触った時にしっとり感じる状態に仕上げて人が本来あるべき肌の質感に近づけてあげるんです。そうすると肌が保湿され乾燥という刺激がなくなってメイクも崩れにくくなる。既存のベースメイクの肌表面はサラッと乾燥しすぎていてあまり好きじゃありません。
そういうことをこれから広く伝えていきたいなって思っています。
美も健康も“姿勢”抜きでは考えられない
宝田 顔だけケアして何とかなるのは50歳くらいまでで、年をとって猫背になると顔がたるんだり、食べ物を飲み込む力も弱くなったり、いろいろな所に問題が出てきます。だから正しい姿勢を保つことが大事。戦前教育を受けた人は、まず骨盤を立てて、お皿を手元に引きながら脇の下に新聞を挟んで、良い姿勢でしっかり噛んで食べなさいと言われて育ったんですって。
そう考えると、今まで私たちは「健康があるから美しくいられる」と思っていたけれど、「美しさから入ると健康でいられる」ということなんじゃないかしら。
吉川 なるほど。僕は多くの人が、ただ痩せるだけのダイエットをしたり、シワを気にして笑わないようにしたりして、形だけの美しさを追いかけるのをみて、ずっと「健康を目指したら美しさにつながる」っていってきたけど、宝田さんのメッセージはさらにその先をいってますね。昔の日本はレベルが高かったんだな。
宝田 うちの病院に通院している85歳以上の患者さんが5人いますけど、その全員が口を揃えて、「もう自分の時間を自由に生きていたいから、キレイでいられるように頑張っている」とおっしゃるんです。それを聞いて私もいろんな運動をしています。人よりはやっているという自負もありますよ。
吉川 さすがですね。多くの人は塗っただけでどうにかなるとか、テレビ見ながら痩せられるとか、楽することが好きでしょう?でも動かないで健康を保つのはなかなか難しいと思う。マッサージもその時だけは体がほぐれるかもしれないけどやっぱり運動もしないと。
宝田 運動のやり方も大切ですよね。例えば、噛むことも運動のひとつだから、姿勢よく地に足をつけて骨盤を立てて食べるのが大事。私は歯科医だから、口から美しい人生について考えると、どうしても姿勢抜きでは考えられないんです。
吉川 僕はジムに1日1回行くって決めていて、時間を作るのは大変だけど、医者に行くと思って必ずやるんです。30分だけですが、無理なく続けると自然と腰にも筋肉がつくから、ここ20年くらい腰痛もない。
宝田 それくらいでいいのよ。毎日やってゆるめるのが大事よね。
吉川 そういえばマッサージに行きたいっていうのもなくなりました。自然にゆるんだんですね。
年齢を重ねるほど無理するのも必要に
宝田 今日の取材は、吉川さん一人で来てメイクして取材して写真も撮って……。荷物も大きいし大変ですね。
吉川 自分のルールとしてあるのが、仕事道具は、アシスタントがいてもいなくても自分で持って歩けるものを持とうと。誰かにお願いしないといけない荷物は持たない。頼み始めると怠けものの本性が出ちゃうから。自分の体が動く範囲が自分の範囲だって。
宝田 患者さんの話で印象的だったのが、「年をとればとるほど、ちょっと無理しなければダメ」なんですって。年をとると、息子や娘が「いいよ無理しなくて。それやるから」と言ってくれるけど、その優しさに甘えすぎるとガクっと弱ってしまうと。確かにそうだなと思いましたね。
吉川 男女関係も優しすぎると甘えちゃうから、基本的にお互いが自分で楽しそうに生きてて一緒にいるとなんかいいなっていうのが理想かな。
宝田 結婚は「愛」と「感謝」だけではだめで、そこに「尊敬」がないともたないって聞きました。恋をすると、別名“恋愛ホルモン”と呼ばれるフェニルエチルアミンという脳の神経伝達物質が出ますけど、それが3年経つと0になってしまうんですって。だから3年経った時に「やっぱり彼には私がかなわない所があるな」とか、相手のことを見直せる部分があると、またフェニルエチルアミンが出て関係が続けられる。
吉川 愛は3年というのは、本当だと思います。それをもう一回奮い立たせるために必要なのって多くの人にとってのテーマだと思います。
宝田 そう。相手に対する「尊敬」の気持ちをなくさないこと。
吉川 お互いが助け合いながら生きているんだなと感じれたら、きっと「感謝」や「尊敬」につながりますよね。
自分を評価するのは自分
宝田 人がいちばん幸せだと思えるのは、どんなことでも「考えられること」だと思うんです。間違っていても構わないから考えることが大事。たとえ結果が出なくても、「こういうの、いいんじゃないか」ということが語りあえなかったら一緒にいたくなくなっちゃう。
吉川 同感です。仕事でも、何とか実現したいという気持ちで考えるのと、最初からできないと諦めさせられるのとは全然違いますよね。最終的にできなくてもしょうがないけど、「こうしたらできるんじゃない?」と考える人と一緒にいたいな。
宝田 結果が見えなくても、考えながらまずやってみることですよね。
吉川 幸せって現実や結果を脳内でどう思うかっていうものだと思うから、例えば「年をとると醜い」というような刷りこまれた思いを捨てれなければ、いつまでたっても年をとったら居心地が悪いままだと思うし。
宝田 年をとって楽しそうにしてる人を一人見つければ、それがヒントとなって幸せになれるのよ。
吉川 年をとることは誰にでも起こることだから、年取っていく自分をどうやって楽しませることができるかですよね。
宝田 あと、人からどう思われてるかを気にしてる人も多いですよね。自分を評価するのは自分。「他の人がこれを見たらどう思うかしら」ということを最初に考えてしまうのはつまらない。
吉川 そういう意味でも、自分を大切にできるのは自分しかいないですよね。
義母の形見のネックレスを愛用
吉川 先生の愛用品を見せていただけますか。
宝田 先ほどお話した、オールインワンタイプの保湿ジェル「美感クリーム」です。うちの家族は、お風呂から上がったら、まずこれをつけるのが習慣になっています。
吉川 僕も使ってみたいです!
宝田 もうひとつ欠かさずつけているのが、美容液の「KBL モイストエッセンス」です。メインはリムベールという保湿成分です。
私は、まず最初にマリオネットラインと呼ばれるほうれい線の部分に塗り、次に目尻のシワ、耳の後ろから鎖骨の下まで塗るのを3回くらい繰り返しています。
宝田 そして、このネックレスは義母が亡くなったときの形見分けでいただいたものです。
義母は父からもらった婚約指輪を自分でネックレスに変えて、それを最後まで身につけていたんです。私が院長を務める宝田歯科は義父から受け継いだ病院で、手伝い始めた当初は義父から怒られてばかりでした。そんな私を慰めてくれたのが義母で、本当にお世話になったんです。母の形見を再びリフォームしたのが、このネックレスとイヤリングです。
Photos / Interview : Yasuo Yoshikawa
Text : Tomomi Suzuki