from Japan

鮮やかに生きたい

神崎 恵 美容家

▼Profile

神崎 恵 MEGUMI KANZAKI

1975年神奈川県生まれ。読者モデル時代に出会った編集者から、美容の知識が豊富にあることを見いだされたことが大きなきっかけとなり、35歳で本格的に美容家としてデビュー。

「読むだけで思わず二度見される美人になれる」(中経出版)をはじめ、今まで誰も思いつかなかったキャッチーなタイトル、ユニークな表現の美容本が美容好きの女子を中心に大ヒット。

主宰する、ひとりひとりにカスタマイズしたメイクや生き方を提案するアトリエ『mnuit』は、募集開始とともに満席。日常から特別な瞬間まで、女性たちをキレイに導くメソッドを提供する。

現在は、家庭第一としながらも「MAQUIA」「美的」「VoCE」など美容誌を中心に毎月数多くの雑誌、イベントなどで活躍中。また、アパレルブランドとの商品開発など、女性のかわいらしさを引き出すアイテムのプロデュースも行っている

自ら試し、本当にいいと実感できるものだけをすすめるスタイルが世代を問わず支持されており、自身のInstagram(@megumi_kanzaki)のフォロワー数は32万人を超える。

手がける著書は次々とベストセラーとなり、累計著書部数は136万部を突破。

より自由になっていく自分を表現したい

吉川康雄 今一番好きなことって?

神崎 恵 しごとが生きがいで楽しいです。

吉川 僕から見てもそういう風に見えます。

神崎 始めた頃は、周りの人が作り上げてくれたものを形にするっていう感じだったんですけど、やっと最近自分が表現したいっていうものをどうぞ表現してくださいっていってもらえるようになって余計楽しくなって……。

吉川 神崎さんの活動はSNSでもよく見ますが、前は美容がメインだったのが、最近は子供やライフスタイルまで広がって、そこに神崎さんの生き方が見えてとても自然でのびのびとしていますね。

神崎 例えば人から“神崎さん、もう40代だからもうこれってナシだよね”って言われても、自分がそう思わなければそういう線を取っ払っていきたいし、自分でも、線を引いてここからはやらないとかってしたくないですよ。

本当は若い頃の方が今より自由なはずなんですけど、私の中では今が一番自由。

“鮮やかに生きたいなあ”っていう思いを強く感じるんです。

吉川 僕が神崎さんを知ったのは日本に来てからだから10年くらいですが、表現がどんどん鮮やかにはっきりしてきている感じがします。

神崎 それって進化? 進化したい!(笑) 

強さをもらえたからちゃんと歳を重ねられる

神崎 よく女性って老いていくことはマイナスだと思われているから、いろんな取材で“神崎さんって幾つの時に戻りたいですか?”って聞かれるんですよ。でもいつも “絶対戻りたくない”って即答なんです。そんな風にいえる自分は、自分なりにいい年のとり方が出来ているのかなあって思うんですね。

吉川 戻りたいって言っちゃった瞬間に今の自分が惨めになっちゃうよね。

神崎 恋愛でも仕事でも大変なことになった時、悲しいとかムカつくとかじゃなくて“私って惨め”って思ったら一番辛いなって思うんです。

吉川 だから僕は惨めっていう言葉で“自分チェック”するんですよ。自分が落ちているときに “なぜ今は惨めな気持ちなんだろう”って問いかけるんです。惨めは絶対避けたいからその原因は僕にとって排除すべきものなんですよ。

神崎 私の母は、一人で私を育てていたんですね、当時は珍しかったんですが。

ハイヒールを履いて、スーツを着て、わたしをおんぶして颯爽と仕事に行っていたと祖母に聞きました。私が離婚してお金もなくていわゆる惨めな時に、“女はね辛いときこそ綺麗にしてなきゃダメなんだからね!”って。何かあるたびに母のひとことに力をもらってきました。

吉川 かっこいいんですね、お母さん。

神崎 だから現状の自分と理想の自分のギャップが苦しいって感じた時も惨めはダメだから行動しかないなって思ったんです。

吉川 ひとによっては行動できない理由ばっかり考える人もいますよね。

神崎 そうですよね。でも私はどうしたらできるか考える。

吉川 神崎さんにこのインタビューを申し込んだ時もあっという間に返事が返ってきて。

神崎 なんだろう。読み取るセンス? 自分のイメージしたものを信じるのでやると思ったらすぐなんです。

吉川 そういう速さとか、いろんなことを感じる感覚って昔からなんですか?

神崎 子供の時は人の気持ちとか空気とかをすぐ感じちゃうのでそれが嫌な時もありました。だからって人に気を使うのは自分を殺すことになるでしょう? それがヤダって思ってからは人と群れなくなりましたね。

吉川 でも学校って小さな箱みたいなものだから難しくなかったですか?

神崎 女子校の時、少し芸能活動をしていたんですが、本当にいろいろな経験をしました。制服燃やされたり。大声で酷いことを言われたり。でも私は違う世界を持ってそこで生きているっていう思いでやっていけたんだと思います。そういう環境で強くなれたし、女性という生き物のいろいろを知れたと思うんです。さらっと生きてきたよりもドロドロしてきた分、そういうのを人にも自分にも感じれるようになったからコミュニケーションも、自分のそういう部分を認めつつ、でも女ってそうだよねっていうスタンスになれた。それがあって今、受け手との距離を近く感じられると思うので有難かったなあって思いますね。

美容は女性の生きる力になる

吉川 その近さだからこそ否定的な意見もでてきたりしませんか?

神崎 出ますね。でもそんなコメントを受けて傷つくというよりは、逆にこんな受け取り方があるんだあとか思っちゃいますし、自分の時間を使ってこういうことを書くほど気になってるんだって思うんですね。そうするとネガティブな意見でさえも感謝できるんです。それに対しては自分を絶対正しいと見せるような必要はないって思います。自分をちゃんと持ってさえいたら正直に対応したいって思っています。

でもね、20代の時は良く見せたかったし、誰よりも幸せに見せたかったから結構がんばって見栄を張ったりしましたけれど……。女同士ってそういう感情が自然にあると思うんです。

吉川 女性の野生ですかね。

神崎 女は大変な生き物だなあって思いつつ、やりがいがあるなあっていつも感じています。

吉川 だから生き物のエネルギーを感じますけどね。

神崎 面白いんですよ、だから。欲もあり、トゲもあり、闇もあり……。

吉川 あるある。理性もあるけど強い野生もあって、そういう一つになれないものが一つの体の中にあると最後には理論的になれないっていうか、そこで苦しむのかなあ。

神崎 それをできるだけ楽しめるようにって生きてるんですけど、それでも大変。メンタルが強い女性でありたいなあって思います。

でも今の若い子はもっと大変だろうなって思います。SNSを開けばこれだけ綺麗になれるアイテムが次から次と出てきて、しかも人の幸せがいっぱい見えてきて、その中でやっていくって。

吉川 スマホはずっと見れちゃうから、溺れずに使いこなすのって、大人でも難しいと思います。

神崎 病んでる時に見ると余計病みますからね。そういう時は見ないようにするけど。

まだ心が自分っていう生き物に適応してなくて悩んでいる若い人たちは特に生きづらいだろうなって思います。いつだって人と自分を比べられちゃうから。

吉川 僕の娘はなんでも手に入るニューヨークで育ったんですが、10代の女子の心は繊細だから本当に大変なことになっちゃって。都会は難しいから何もない田舎の高校に行ったんですね。その学校は勉強を教える先生とは別にプロのセラピストがいて自分を大切にして生きることがいかに大切かを一生懸命教えるんですけど、そこで最初に取り上げられたのはSNSにアクセスできる機械全てだったんですよ。それくらいSNSって闇を作りやすいものなんでしょうね。

神崎 世の中には自分を嫌いになるきっかけって山ほどあるじゃないですか。だから自分をできるだけ好きになって自信を持つ努力や強さがものすごく大事!

私も自分を粗末にした時もあったので心からそう思いますし、そういう時って自分を投げ出したくなるでしょう?

そこから抜け出せたのが美容だったんですね。女性の生きる力になるんですよ。

メイクや美容って直接的に自信がついたり気分が上がるその人自身にとって大切なことだと思うんで、私が発信するメッセージは絶対他人事とかきれい事では済まない感じです

吉川 神崎さんのことばは自分の体験からなんだっていう説得力を感じます。

神崎 体験と伝えることの両方を楽しんでいきたいです。

男目線と女目線が混ざった新しさ

吉川 僕は化粧品を作っていて時々感じるのは、どんなに女性と近しく仕事をしても異性だから良くも悪くも距離があるっていうこと。女性はやっぱり同性のことをわかっているから僕が出来ることと違うんだろうなって。 

神崎 私はみんなと円陣を組んで近い距離でキレイの工夫をしていくのが好きです。でも私が思うに吉川さんの中にも女の脳が多分あるんですね。私の中にも男の脳があって、女を感じることと客観性が混ざってる。だから真男じゃなく真女じゃないという共通点を感じます。

吉川 僕たちは男目線と女目線が混じった感じだったんですね!

神崎 ミックスされた感覚があるから面白い視点があるって思うし、それはいいなあって思うんです。例えば女性に対して“ヌメッとした感じが綺麗!”とか今まで言う人いなかったから。それがいいって一緒の感覚を持てて共鳴できて、しかも男性!って、すごいなあって思っていたんですよ。

なまめかしさとか生きてる感をとても大事にしていますよね吉川さんって。私もそうで、そこが、静止画での美しさを重視してきたビューティー界、シミひとつないのが美しいっていってきた日本のビューティーを面白くしているってことなんだと思います。黙っていても綺麗っていうのがあってもいいけど、生きて動いている女の子のアティチュードって可愛いのになって思います。

男と女の壁〜女が変わっていったら男も変わって欲しいな

吉川 そういうリアルな女性を語るなら、それを受け止める男性も大切になるよね。

神崎 そういう活発さが可愛いってわかってくれる人ね。難しいかなあ、まだ。

女のひとっていつだって周りの女性と比べられるじゃないですか。そしていきなり全然関係ない男性に“中の下”とか言われたり。そんな余計なお世話だよっていうことって女性にはいっぱいあるから、自分で“いいよね!”って思っても生き辛いなって思いますよね。 

そういうなかで何が大事かって、見た目の“美しさ”とかより以上に“自分に対して自信を持つ”みたいなことが一番の支えになると思うから、その自信を持つために大きな力になってくれるもののひとつが美容だと思うんです。

美容はね、女性の生き方を変えるものだと思うんです。

吉川 それを見て男性は女性に対する価値観を変えていかないといけないですよね。

神崎 それって世界が変わるってことなんじゃないかな。

よくカフェで原稿を書いていたりすると、若い男性が“うちのが〜”とかって奥さんの悪口といっしょに“あいつのは若くて可愛いからいいよな”なんていっているんですけど、人の奥さん羨ましがる前に自分の奥さんを大事にするべきでしょ?と思う。奥さんとオシャレしてエスコートして食事に行くとか。グチを言う前にやることがあるでしょって。

吉川 自分の一番好きな女性くらいはリスペクトしてほしいよね。

男女は一対だから女性だけ変わっても意味ないし。でもそういうメッセージが男性に発信されることは少ないですよね、“男の美容”なんて話ばっかりで。

神崎 ほんと。男性は男らしく、横にいるだけで“あ、私は女だ”って自覚できるような存在であってくれたらいいんですよね。

吉川 モテたいなら自分のルックを気にしてファンデを買ってメイクしてる場合じゃないですよね。

神崎 自分より綺麗を意識してる男が隣にいたら嫌ですよ。女性が心地よくいれるような男性の存在って考えてほしいなって思います。

吉川 世の中の男性の意識がだんだん女性に近づいている感じがします。そうかと思えば急に“俺についてこい”みたいになっちゃったり。

神崎 ついていけない(笑)

吉川 男と女は違うけどイコール(平等)な存在って目指せないかな。

神崎 男と女の壁って難しいんですよね。だから私はできるだけズレなく伝わるように意識して話すようにしています。

言葉って自分の気持ちを伝える大事なものだと思うから、大切に伝えなきゃって思うし、会話に愛情を込めるとしたらいつも心を自分から開けないとね。開けて見せて安心してもらって。伝えたいことをできるだけ心地いい言葉の中から選んで伝える。

吉川 僕もまわりに気持ちよくいてもらうというのはものすごく大切だって思います。

愛されるモテ論

神崎 その心地よさの追求はそれこそモテと同じですよね。

同じもの食べても美味しく感じるし、全ての効果が上がってそんなひとは無条件に好きになっちゃいますよね。

吉川 ちょっとしくじっても心地よく謝れたら、相手はじゃあ次回は頑張ろうみたいにいうじゃないですか。完璧な人なんてどうせいないんだし。

神崎 どんどん協力したくなっちゃうと思います。

吉川 神崎さんってデキるし強さも感じるけど、その笑顔だったり会話の中の笑い声だったり、ちょっとしたことの全てが心地よく感じさせてくれるんですよ。

神崎 楽しくないと疲れるじゃないですか。

吉川 デキることでさえネガティブになっちゃう。

神崎 結果、すごい美人やできるひとよりも、心地よかったらちょっとブスなところがあっても、そういう人と一緒にいたくなる。きっと何回も会いたくなるような、そして一緒にいたくなる感じは全てに勝る魅力だって思います。

吉川 そういうことを考えている神崎さんは絶対にモテてきたと思うんですけど、神崎さんにとってモテってなんですか?

神崎 私の中では、誰かを好きだって思った時に、その人が自分のことを好きになってくれるって奇跡みたいなことなんですね。そういうのが起こる確率を上げていくためのものがモテなんです。

吉川 明快!(笑)確かにそうかも。

僕は振り返ると自分のことを好きになっている人のことをなぜか好きになっちゃうんですよ。いろっぽく僕を見てくれて優しくされるうちに、その子可愛いなって思ってしまう。洗脳されやすいのかな。

神崎 それね、男の子のよくあるパターンだし、20代くらいの女の子たちが、男の子を落とすのは、ちょっと好きだって匂わせるといいよっていうセオリー通りなんですよ……。

吉川 僕もセオリー通りですね。でもそんなふうに心こめられちゃうとねえ……。

神崎 男性はそれでいいんですよ。そうじゃないと女性が困っちゃうからそのままでいてください。

吉川 神崎教室をやるしかないね。

 

コスメによせる想い

吉川 これだけ美容が好きな神崎さんなら夢は化粧品作りまで広がらないんですか?

神崎 私はアーティストとは違うから、きっと作らないですね。

世の中にこんなにたくさん化粧品がある中で、みんな本当に選べないよねって思うから、世の中の女性に紹介したり選ぶポイントや基準になる考えを伝えたいですね。

吉川 企業の説明はいいことしか言わないしね。

神崎 だから私の中での「本音」だけを発信したい。SNSのPRの仕事も受けたらすごい収入になりますけど、一貫して絶対受けないって決めていますし。

日本の女性たちって、PRになった途端にひいちゃうんですよ。この人お金をもらって言わされているって判断しちゃうんですね。そういう方たちに伝えたいので、そこは守っていきたいです。

でも化粧品作るっていうのは、やっぱりアーティストの方々がやる仕事ですよ。その感性と愛情がつまった化粧品を見て楽しんで、それを伝えるっていう、その作り手と女性たちの間にいる感じが楽しいですね。

吉川 もっと思いがある人が作るような時代に向かってほしいよね、化粧品のマーケティングキャリアじゃない人が化粧品会社を引っ張っているところが多くなってきていると思うけど。

神崎 肌にのせると女性にはわかっちゃいますからね。

吉川 化粧品って言葉に頼るものじゃなくって、肌で納得するものなんだっていうことを供給者はもっとわかってほしいなって。

神崎 そう思いますね。だから化粧品を出しているアーティストの方々はみんな戦ってますもんね。すごく大変なんだろうなって思います。

吉川 きっとシワ増えちゃうよね。

神崎 アーティストの方々の思いで作られた特徴あるコスメを色々使ってきましたけど、キッカほど想いが伝わるコスメってなかったからすごく好きでしたね。

吉川 どうもありがとうございます。

神崎 誕生した時から大人女性の希望になったし、母も“こんなに綺麗に見える”って喜んでいたんですよ。そこからだんだん幅広くなってきて、誰がつけても可愛い肌になって。似たようなものはたくさんあってもあの肌にはならないですからね。唯一と言ってもいいほど似ているものがないコスメだったからこそ好きな人はとっても愛情が深いですよね。

SNSで退任が発信された次の日、色んなメーカーさんのPRの方と仕事で一緒だったんですけど、みなさん本当にあんなに素晴らしいブランドがっていう話で盛り上がってしまい、みんな大ファンなんですよ。そして関係ないのに“あれほどメッセージがあってぶれないブランドってないから”という話で自分のことのように心配して。みんな忘れないですよね、そういうことって。

吉川 企業の戦略って聞いていますが、残念な気持ちでした。

神崎 でも、吉川さんの作り出した肌の美しさは永遠だと思います。

吉川 個人としてやれることをやっていかなきゃって思っています。 

神崎 キッカのファンでもあるけど、結果、吉川さんが発する言葉、感性、生み出すもののファンだから応援してます。

あれだけ言っていることとプロダクトにズレがないキッカがなくなるのは残念ですけど、何か新しいことが始まるってことかもしれないので楽しみにしています。

いろいろな才能あるアーティストさんたちが思いもかけないものを作り出すのは景色でいったら絶景です。それを見るのは本当に楽しくて……。

こんな仕事に巡り合ったことをとってもありがたいと思っています。だからやれるまでずっとやっていきたいですね。

Photos / Interview / text :  Yasuo Yoshikawa

取材を終えて

After the interview

神崎さんの美容の源は情報じゃなくて体感。

僕の美容の本質も体験がベースになって理論が出来上がりました。

紙に書かれたことを信じるのではなく目の前のことを信じるから出来上がる考え。僕たちはそんな共通点を持っているのかな。

 

その神崎さんから感じるのは、ヒトの女性の野生の魅力。

女性のポジティブもネガティブも自然なこととして受け入れて生きているから、全部合わせると健康な野生動物が美しいように、神崎さんも素敵なのです。

これからもワイルドな提案を共鳴しつつやっていきましょうね!

 

吉川康雄