モデルからヘアメイクに転身
吉川康雄 野口さんと僕は同業ですが、僕が雑誌のお仕事でメイクする時にヘアを担当してくれたり、いつもお世話になっています(笑)。
野口由佳 こちらこそお世話になっています!
吉川 もともとはモデルとか女優さんとしてお仕事をされていたそうですが、どうしてヘアメイクに?
野口 単純に、表に出るのが好きじゃなかったみたいです。
子供の頃、親の勧めで芸能事務所に入って、子役活動するのも生活の一部になっていたんですが、自分がやりたくてやっていたわけではなくて……。そもそも父親が芸能界に憧れていたらしく、兄2人の下に3人目の私が生まれて、女の子だったら思い出作りにもなるし、いいかなと思ったんですって。
吉川 思い出づくりと思って始まって、そのままやり続ける人も多いじゃない? ちやほやされることもあるだろうし。
野口 私は全然ちやほやされなかったです(笑)。そういう人もいるのかもしれないけど。モデルの仕事は寒いし暑いし、待ち時間も多いし……。常に評価される側だから、やっている方々はすごいなと尊敬します。
吉川 写真の仕上がりが気持ちよさそうだから誤解されがちだけど、一緒に仕事していると、肉体的にも精神的にも自分との戦いというか……、大変な仕事だなって分かりますよね。仕事に対しての強い思いがないとやっていけないと思う、きっと。
野口 もともと私は手を動かすのが好きだったので、メイクか料理かで迷って母に相談したら、「料理なんて結婚したら毎日するんだからやめないさい」って言われて、「そうか!」と(笑)。
それと、人生ってよくできているなと思ったのが、モデルを続けるか迷っていた時に、出演したCMが、商品の不具合などでお蔵入りになるということが、3回ぐらい立て続けに起きたんです。その時に、「きっと自分は表に出る人間じゃないんだな」と確信して、辞めました。
吉川 お父さんはショックだったんじゃないかな?
野口 はい。でも自分に無理なことはできないから、続けられなかったです。「結婚するまで続けてみたら?」とも言われましたけど、人生そんなに甘くないから。
でも今は、父に感謝されてます。面白いもの見せてもらってるって。
吉川 確かに。ヘアーメイクの仕事も面白いから。ちゃんと親孝行できて良かったね。
スキンケアを見直してニキビ肌と決別
野口 10代の頃は超ニキビ肌だったんです。中学生ぐらいまで、毎日10個ぐらいつぶしていました。
吉川 そういうのはやめたほうがいいんだよ。
野口 でも10代には無理です! 今でも出来たらつぶしますけど、つぶすタイミングが完璧(笑)。 絶対に芯を残さない方法をマスターしました。
吉川 10代は皮脂分泌が多くなってニキビができやすいと思うけど、思春期のいちばん多感な時に起こるから辛いよね。
野口 その頃のことを思うと、今はニキビがないだけで十分に幸せ。人に優しくできます。
吉川 やっぱり自分の心の幸せって大切だね(笑)。だけど野口さんは、乾燥肌でもあるよね。
野口 そうなんです! でも当時はまったく気づかなくて。結局私のニキビはスキンケアで治ったんですけど、とあるスキンケアサロンの女性に、「私の肌は、色々やりすぎて肌が薄くなって炎症を起こしているから、化粧水も入らない」と指摘されたんです。「え!」って思うじゃないですか。何年も皮膚科に通って抗生物質も飲んで、ピーリングもしてきたのに、それまでの努力はなんだったのって。
吉川 ニキビは脂を取ればその場はちょっと収まるけど、取ればとるほど脂は出てくるし肌は敏感になっちゃうよね。
野口 抗生物質とかも、私が病院におくすり手帳を持って行って、この薬をこれだけ飲んでいると医者に見せればよかったのですが、当時はそこまでの知識がなくて……。いろいろな病院に行くたびに抗生物質をもらって、そのせいなのか婦人科系も弱くなって。自分も悪いんですけど、ニキビを治すためだけのことで、体の機能までおかしくなったり。
吉川 うちの娘も思春期の時にそうだった。少し出てきたニキビのために色々なものをつけまくって、余計肌荒れを起こしてっていう負のスパイラル。
野口 私はニキビとは、それはそれは壮絶な戦いを経験してきたので(笑)。雑誌の企画で体験談を聞かせて欲しいとお声がけ頂くことも多いんです。そういう時は、「ニキビができたら刺激を与えず、油分の多いアイテムを塗る」とアドバイスしています。あくまでも私の場合はですが。
吉川 ニキビは汚れた古い皮脂が原因になることが多いから、常にそれを取り去って肌を清潔に保って刺激を感じないきれいな油を塗るのは僕も大賛成。
野口 ニキビを治すことだけにフォーカスするのではなくて、キレイな肌を育てる方向に進んだほうがずっといいですよね。そうは言っても、ニキビに悩んでいた時には気づかなかったんですが……。
吉川 モデルさんでも吹き出物を恐れてお手入れをオイルフリーだけでやっている人も多かったりしますよね。そういう人は大抵肌がカサカサでしっとりしてない感じですけど、本人はそういう肌触りの感触も好きだったりして。メイクする人としては乾いた肌はお化粧がのりにくいから困っちゃうんだけど、長い目で見ても、シワができやすかったり、肌が敏感になったりして…。でも、それはそれで別個に考えてスキンケアしたり。原因はつながっているんですけどね。
人の肌には油分と水分の両方がちょうどいいバランスで必要というところを目指して一貫したお手入れして欲しいですよね。
アーティスティックではないからこその強み
吉川 ひと口にヘア&メイクアップアーティストといっても、アート志向の人もいるじゃない。僕は昔から自分の感覚がコマーシャルっぽいように思えて引け目を感じていたの。でも今はその良さもあるなって思う。一般の女性の感覚に近いから伝わりやすいかもって思うしね。野口さんも、コマーシャル寄りな印象があるけれど。
野口 私も自分でコマーシャル側の人だと気づいていました。ヘアメイクの仕事をしていると、目指すところはそっち(アート系)みたいな雰囲気がありますけど、私はただただ可愛い子が好きなのと、その子の“可愛い”が好きなのであって、決して自分のメイクをどうこうしたいわけじゃない。
吉川 野口さんの今の、分かりやすいね。僕はクリエイティブなことは好きだけど、その人の良さを活かそうってずっと思ってきたから……。だからだったんだ……。
野口 そういう方が、こんな上のレベルまで行っててそう思うということは……。
吉川 結局のところはそのヘアメイクさんの美意識が、一般のそれから遠く外れているかいないかなのかも。
野口 私も外れたかったんですけど(笑)。
吉川 僕も。変わった人になりたかったんだけど、違ってた(笑)。
同業者ヘアメイク談議、“メイクの正解って?”
野口 撮影のときの話なのですが、目元がスッとしたモデルさんは、どうしても強めの印象になるから、初対面でメイクするときは、ちょっとラインを下げて印象をやわらげたくなるんです。でも何年後かに同じモデルさんに会うと、そのスッとした感じがよくて、それを強調するメイクをしたり。ということは、そのモデルさんの目の形を活かすメイクをしていたほうが正解だったのかな?って思ったり。
吉川 なんて自分はひとりよがりの思いをぶつけて、反対のことをしてたんだろう、っていうことはあるよね。
野口 そう思うと、その子の欠点を探してしまうんです。そういうところを上手に見せてあげようかなって。
吉川 でも人の特徴って、和らげるのも強めるのもどちらも正解なんじゃないかなって。逆に欠点をうまく隠せすぎちゃうと本人のキャラクターを消しかねないから、難しいよね。
昔サラ・ジェシカ・パーカーさんとお仕事をご一緒した時、彼女は求心顔だからついパーツをメイクの力で拡散させたくなってしまって。でも、そうとするほどメイクが濃くなってしまうし、素材自体をコンプレックスに思っているように仕上がっちゃう。彼女は自分の魅力を全身で表現しているのに、その気持ちを表現しきれていないなって思っちゃって……途方にくれたことがあったな。何が正解だったのか……。今メイクしたらどうするのかなって時々思います。
野口 結果の本人の気持ちとして、「今日はいつもよりバランスがいいな」と思うこともありますしね。
吉川 「ブスな部分はアクセント」なんて本に書いてますしそれは絶対正しいと思っているのですが、僕自身、人にメイクをする時は、そのさじ加減をすごく気にします。多くの人にとってこの言葉は新鮮な発想だったかもしれませんけど、それはそのままで何もしなくてなんでもOKという意味ではなくって、うまく活かして欲しいということなんです。でも、そのさじ加減って悩みますよね。
野口 そうなんです。わからないんです。
吉川 わからないから面白いし、やめられない?
野口 あと最近思うのは、「アイメイクが可愛いね」とか、どこか一点が際立つ仕上がりではなく、ヘアとメイクが一体化していて、服もすべて含めて全体像が可愛いのがいいなと思うんです。
吉川 ヘアーもメイクもファッションも、その女性が素敵になるのが目的なんだから、本当はそうなんなきゃいけないと思うんだけど。撮影でそれぞれが違う人が担当してると、みんな頑張っちゃって、ついメイクもヘアも盛りがちになったり。
野口 撮影でその逆に行こうとすると、ますますアーティスティックな方向から離れていきますしね(笑)。
まつ毛で顔立ちは変わる!
吉川 今日は野口さんの愛用品を持ってきていただきました。
野口 これは自分用に使っているビューラーで、「貝印プッシュアップカーラー」というブランドのものです。
吉川 まつ毛がよく上がるの?
野口 私の目の形には、これが一番合います。まつ毛はテンションを上げるためにも、大事なパーツですよね。
吉川 まつ毛はめちゃくちゃ大事。まつげが下がり気味の女性をメイクする時は、どれだけ上手にいい感じで上げられるかが勝負だと思ってる。
野口 それこそ子役をやっていた頃から、母親がまつ毛だけはうるさくて(笑)。「まつ毛は絶対にカールしてもらいなさい。それだけで可愛いから」って、よく言われていました。
吉川 リップは気分によって変える?
野口 その日の顔のコンディションによって選んでます。ニキビができるかも……という時は、それこそリップで気分を上げたりします。ニキビより目立つ色を塗ろうと思ったり。
吉川 唇で華やぐとニキビなんてそんなに気にならなくなるよね。
野口 肌の調子がいい時は薄い色でもキマるので、そういう色を選んだりしています。
吉川 ネイルもありますね。
野口 大好きなんです! 私は手が小さくて色気もないので、ネイルは唯一、女っぽさを自分で感じられるポイントというのもあって、昔から好きで。職業柄、手のネイルはできないですけど、足のネイルは学生時代から欠かさず塗っています。
吉川 野口さんは童顔だと思うけど、それを気にしてたの?
野口 今はもう何とも思わないですけど、大人っぽくはないとわかっているから、一瞬でも虚勢を張りたいという(笑)。
吉川 もともとの可愛らしい感じをもっと活かしたらいいのに。
野口 この間、とうとう小5男子って言われました(笑)。怖いですけど、このままおばあちゃんになっちゃうんですかね。
吉川 こんなに可愛い小五男子なんていないと思うけど…。僕もこの歳まで生きてきて、ある日突然変わるのかなと思っていたけど、変わらないよ。みんな変わっている風にしているだけなんじゃないかな。
Photos / Interview : Yasuo Yoshikawa
Text : Tomomi Suzuki