女性の個性に味方したい!

 僕はいつも自分にはない特別な魅力を女性に感じつつ仕事をしています。 彼女らが気持ちよく撮影に向かえるように。サロンを後にできるように。 緊張感を和らげるお話しをしながらも表情や仕草を観察してしまう。 僕のクリエイティブはその人のもっている美しさを考えることなので。 冬木慎一 ヘアサロンでやりたいこと 吉川康雄 冬木さんとは日本での撮影で、時々ヘアーを担当してもらっていますが、ヘアサロンもやっているんですね。 冬木慎一 表参道のヘアーディメンションというヘアサロンで店長をやっていたのですが、倒産してしまって、そこのメンバーと一緒に始めたのがこのsuiなんです。 吉川 90年代、スターを担当していたカリスマ美容師のテレビを見ましたが、そのカットテクニックがすごくてびっくりしたのを覚えています。ヘアディメンションはそういう人たちが作ったブームのトップの場所ですよね。 冬木 カリスマ美容師が作り出したヘアサロンブームは、ヘアーカットの技術を高めたとは思うんですけど、一つのヘアースタイルを量産するみたいなお店を、一気に広げたっていう感じです。 吉川 80年代の「松田聖子ちゃんカット」はまさにそれですね。僕はすごく不自然なスタイルだと思ったけど…。そのあとのカリスマ美容師のカットの進化はすごかったと思います。 冬木 それまでのパーマの“作った感”から、カットだけで自然に仕上げる感じにトレンドを変えるほどの影響力があったと思います。 吉川 ナチュラルになりましたよね。あれを見たときに、「あっ、やっと髪型が人に似合うようになってきたな」って思ったんですよ。 それまでって、ヘルメットをかぶったみたいなのばっかりで。 カットテクニックが、ヘアスタイルを作るんじゃなく“人に似合わせる”という考えになり始めたように思います。 冬木 ニューヨークだと、流行りってどんな感じなんですか? 吉川 流行っても街の風景が変わるほど全員が同じ感じのヘアースタイルとかっていうのはないですね。 冬木 ここ、表参道だと、大体、似た感じになりますよね。 吉川 ニューヨークには流行に流されないオシャレな人たちがちゃんとたくさんいるんですよ。その人たちは、取り入れるけど、それ以上は入れない自分という線をはっきり持っている。ファッションは結構派手でも、昔ほど厚化粧を好まなくなったとか、素肌っぽくさりげないみたいな傾向はありますけどね。 でも全体で見たら、そういう人ばかりじゃなくって、普通に“オシャレが一番大事じゃない”人たちもたくさんいて‥。 そういう人たちはどうでもいい格好をしているわけじゃなく、普通におしゃれのベーシックになっているラルフローレンのようなアメリカントラッドで、それはそれでお洒落ですよね。 カリスマブームが終わって、カリスマ美容師という言葉も消え、ヘアサロンもガラッと変わりましたけど、そこまで変わる理由は? 冬木 日本ではメディアもヘアサロンも新しいものにビジネス価値を見出すから古いものが消えていきがち。流行がそれほどまで重要に影響するということかなあ。もっと大切な本質を考えなきゃって思うんですけどね。 そんな表参道という場所ですが、ずっと昔からかたくなにしっかりとやっているヘアーサロンもあって、そういうのはカッコいいなあって思うんです。 ニューヨークの話に出てきたような“ブレないオシャレ”っていうものを確固として感じるし、自分がやりたいものだから。 ただ東京って、そういうことがあまりクローズアップされず、流れているファッションの方がいいみたいな感じになってますよね。 日本のすごくいい文化を大切にしないで新しいものに飛びついてしまう感覚にすごく似ていますよね。 吉川 冬木さんにとってブレないって、どんな感じですか? 冬木 環境は変わって流れていっても、ライフスタイルの考えや美意識はしっかりと持っている。その価値観できれいを楽しんでいる感じ。 女性を綺麗にするインスピレーション 吉川 女性と仕事をする時ってどんなふうに進めるのですか? 冬木 僕にとっての髪やメイクは、女性のなりたい印象に近づけるものだから、まずはお話しして、そこからスタイルを想像して作り出していきます。 その仕草、髪の触り方、表情からもインスパイヤーされます。 その人らしさを活かすことで個性的な魅力を引き出せると思うからです。 例えば15年くらいお仕事をさせてもらっている山田優さんのパーティーの時の話でいうと、ファッションが大好きな彼女に、よりファッショナブルなヘアーメイクを合わせるよりも、彼女の内面の優しさだったり、美しさを出してあげたいなって思うんですよ。 吉川 “洋服に惑わされない”っていうことですね。だから冬木さんのヘアーは全体にバランスが取れていてさりげない? 冬木 そこは大事にして … 続きを読む 女性の個性に味方したい!